こんばんは。ymtetcです。
2202の劇場限定版BDには、絵コンテ集と共にシナリオ集が付属しています。
今回は、第20話のシナリオでした。文字情報の多い話でしたので、重宝しています。
ところが、その第20話シナリオに、気になる記述を見つけました。
〇地球・防衛司令部中央指揮所
芹沢「やったか……!?」
藤堂「(身を乗り出し凝視)」
見覚えのあるシーンだとは思いませんか? そう、第18話に。
偶然か意図的か、第五章の限定版BDには第18話のシナリオが付属していました。
今日は第18話と第20話のシナリオを見比べて、これらについて考えていきたいと思います。
目次
シナリオ集における第18話
まず、シナリオ集における第18話がどのような内容だったかを見ていきます。劇場限定版BDの特典なので、シナリオ集から忠実に引用してくるのではなく、ある程度のところで要約していきたいと思います。赤字は「本編ではカットされたシーン」を示しています。
<第18話「ヤマト絶体絶命・悪魔の選択再び>
- 「ガトランティスが人間的だと言うの?」*1
- 土星にのしかかる白色彗星*2
- ゲーニッツ「ガトランティスなら、戦って死ね」
- 加藤、ドクター佐渡に薬の効果を聞く
- 通風孔の違和感に気づくキーマン
- 「愛が人を苦しめるっていうゲーム」*3
- ガトランティス、時間断層の存在に気付き、地球を「捕食」することに決める。*4
- ズォーダーとサーベラーの回想*5
- 反波動格子の制御装置を収めた保管庫のある部屋の扉が、半開きになっている。
- 反波動格子を手に、機関室周辺の通路を歩く加藤
- 白色彗星に対し波動砲を放つため、マルチ隊形を指示する山南
- バレルからの抗議
- 収束波動砲を放つ地球艦隊
- 芹沢「やったか……!?」
- 彗星都市帝国の全貌が明らかになる
- 「揉み潰せ」*6
- 引き寄せられる地球艦隊、安田の犠牲
- 「トランジット波動砲にかける」土方の演説
- 降伏勧告
- 大統領の返答
- ワープアウトするヤマト
- 「全てを破壊する愛」
- 「うれしいってことに、理由はいらないんだから」
- 「地獄に行くわ……」
- 「堕ちてゆく……」
このように整理してみると、本編とシナリオで決定的に違うのは「波動砲を放つ回数」です。本編では、白色彗星に対して放つ波動砲と、その波動砲の効果(?)で出現した都市帝国に放つ波動砲があります。しかしシナリオでは、白色彗星に対して放つ一回だけ。出現した都市帝国の重力に吸い込まれて、地球艦隊は敗北します。
ひとまずこのことは、頭の片隅に置いておきましょう。
シナリオ集における第20話
続いて、第20話のシナリオを同じように整理していきたいと思います。
<第20話「ガトランティス、呪われし子ら」>
- 回想・滅びの方舟との出会い*7
- 回想・ゼムリア艦内でサーベラーの棺を見つめるズォーダー
- 火星沖に集結した連合艦隊の前面に出るアンドロメダ*8
- 地球を「捕食」するプラネットキャッチャーを用意するズォーダー*9
- 絶望する古代*10
- 沖田の航海日誌を見る雪
- 語り部の登場
- 回想・滅びの方舟が目覚めないことに苛立つズォーダー
- 回想・サーベラーの棺を破壊するズォーダー
- 語り続ける語り部
- 回想・目覚めたオリジナルサーベラー
- 火星沖海戦*11
- 「早く交換しちゃいたい」
- 「あなたの席なんです。雪さん」
- 尋問をする古代
- 語り部再び*12
- 語り終了、ヤマトが現在白色彗星の内部にいることが明らかになる
- 波動砲艦隊の集結*13
- ズォーダーの独白*14
- ズォーダーの独白に重ねるように、艦隊は波動砲を放つ
- いくつかの艦隊が代わる代わる波動砲を放ち、途切れることはない
- 炎に包まれる白色彗星
- 芹沢「やったか……!?」
- 炎の中から都市帝国が姿を現す
- 「彗星都市帝国こそ、真実の愛の具現!」
- 透子「もうやめて……」
回想シーンでもいくつか本編と異なる部分があるものの、それは少数で、しかもそれほど意味を成さないものたちです。しかし一方で、戦闘シーンに関しては大幅に本編と異なっています。ここが重要なポイントでしょう。
考察
冒頭でも述べたように、第18話と第20話のシナリオには全く同じシーンが存在します。このことから考えて、この二つのシナリオ集はそれぞれ異なるフェーズのシナリオだと言えるでしょう。恐らく「第〇稿」から「決定稿」まで、全話のシナリオはある程度連動して書かれているはず。ですが、この付属シナリオは連動しているとは思えません。
ただし、舞台設定は連動しています。本編では、第18話において白色彗星が土星へやって来て、そのまま第20話まで舞台は土星でした。しかしシナリオでは、第17話までに白色彗星は土星へとやってきており、従って第20話の舞台は火星になっています。このズレに関しては、連動していると言えるはず。
さて、ここで振り返っておきたいのは、
福井:しかも今回は白色彗星の本体が出てきちゃう。
羽原:でかい。
麻宮:土星を食べちゃうという。
福井:トータルのバランスを考えると、ここはやっぱり艦船のやつがすごい出るから、白色彗星の正体が出るのはもう少し先伸ばしにしようと、当初はね。
羽原:当初はそうですね。
福井:そう作っていたんですけど、小林誠が。「いや、もうそろそろ俺は見たい」みたいな。
麻宮:あ、もうここで、みたいな
福井:「ここで出すの?」みたいな。その結果もうこんなことに。
羽原:大変なことに。でもね、いい感じで。
(オーディオコメンタリーより)
この「第18話で都市帝国の全体像は出す予定じゃなかった」という福井さんの証言です。
とすれば、この第20話シナリオの構想が本来の構想だった可能性がぐんと上がりますから、都市帝国の全体像が露わになるのは本来、第20話だったと推測できます。また、第18話のBD付録シナリオの方が、20話のものより後に作られたバージョン*15、ということになりますね。
ここから逆に、この第20話シナリオ時点での第18話はどんな内容だったかを考えてみますと、答えはシンプルで、
という、完全なる『さらば』再現だったということになります。ちなみに
福井:この重力子スプレッドを撒いて波動砲を収束するっていう。これも脚本を書き終わってだいぶ経ってから出てきましたね。
羽原:あれそうでしたっけ? 割と最初から「拡散したから負けたんだよね」って。
福井:俺が拡散/通常の切り替えが出来たらなんて話してたら「もっと収束させよう」って話になって。
(オーディオコメンタリーより)
こう言った話もありますから、第18話の波動砲周辺はかなり最後の方まで考え込まれていたことは確かなようです。
そして、実際の第18話・第20話シナリオと本編のギャップから推測するに、土星沖海戦、火星沖海戦は、シナリオが根本から書き換えられているように思います。
シナリオと本編はセリフこそ共通しているため、ドラマ的には齟齬はありません。しかし、それを取り巻く舞台設定や戦闘シーンの様子が、まるで異なります。
この調子だと、恐らくシナリオでは、21話の戦闘シーンも異なるものだったのではないでしょうか。ただし、シナリオ書き換えの現場においても福井・岡両氏が同席しているはずなので、もちろん合意の上だとは思いますし、改変にあたって両氏のアイデアも改めて盛り込まれているはずですが。
最後に私の感想を述べるとすれば、この土星沖海戦~火星沖海戦のシナリオ改変は、結果的には上手く作用したと思います。仮にこの第20話シナリオのように、火星沖海戦の戦闘シーンが「土星沖海戦の戦術を進歩させたもの*16」だったとすれば、とても残念でしたからね。
*1:プロメテウス艦内で土星沖海戦を観戦する銀河クルー。数に物を言わせての中央突破を、市瀬は「可愛い」と評する。早紀は「コスモリバースの奇蹟は消えた。もう地球を救ってくれるものはない。人が、自らの力で生き延びなければ。たとえ、人であるやめたとしても」と、自分に言い聞かせるように呟く。
*2:本編では、時間断層の存在に気付いて白色彗星が土星へとワープするが、シナリオでは既に土星まで来ている。
*3:加藤が透子の独房を訪れる。「なぜこんなことを」と透子を問い詰める加藤。透子は「ゲームよ」と答える。ここまでは本編にも同様のシーンがある。しかしシナリオでは、透子のセリフがもう少し長い。自分が大帝と愛し合っていたサーベラーのコピー人間であること、スパイとして送り込まれたことを加藤に語る。
*4:捕食の概念は、本編では語られていない。
*5:第20話に同様のシーンがある
*6:「踏み潰せ」
*7:ゼムリア艦が登場。
*8:修復済。修復前に無人艦隊とすれ違う本編とは大きく異なるシーン
*9:忘れたくとも忘れられない、代々受け継がれてきた彼等の記憶。しかし、それ故かズォーダーは、記憶を「しょせんは脳を飛び交う電気信号、肉体から肉体へとダウンロードされるメモリーに過ぎない」と言う。
*10:回想含め、そのまま。
*11:「人類の興亡」というバレルの演説はそのままだが、火星の激戦宙域で演説したことになっている。監督の意向で出演させたというバーガーはシナリオには出てこない。本編中に描かれていない戦闘シーンの内容もシナリオに記載されている。
*12:セリフの有無はあるものの、基本は本編と同じ
*13:マルチ隊形を組んでいる!
*14:本編と同じ。だが……
*15:彗星都市帝国の出現が描かれているため