ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

人を選ぶ『ヤマト2202』の価値判断──「国民投票」編

こんばんは。ymtetcです。

土曜日ですね。

先日、2202の第七章を改めて観たと呟きました*1

今日は、その時に感じたことの中から「人を選ぶ『ヤマト2202』の価値判断」というテーマで、少しお話をしてみたいと思います。

ヤマト2202は、古代進の物語としては旧作『さらば』の枠組みを踏襲しつつも、随所に現代社会を踏まえた価値判断を盛り込んでいます。

例えば、「人間は機械ではない──”心”を持つ人間にしかできないことがある」というメッセージがそれです。AIの導入が進む現代社会を念頭に盛り込まれたこのメッセージは*2、第六章ではAI艦《銀河》艦長・藤堂早紀のドラマを通じて描かれ*3、第七章ではテレサのセリフ*4を通じて描かれました。

人を選ぶ、と言いたいのは、「人間は機械ではない」という命題そのものではありません。

ただし、この命題の描き方も含め、それ以外の部分にも盛り込まれている『2202』の価値判断──おそらく福井さんの価値判断──は、共感する人を選ぶだろう、と考えています。

その一つがまず、国民投票の結論です。

国民投票とは何だったのか、2202が込めたメッセージとは何か

最終話に登場した「国民投票」で『2202』が描きたかったのは

「『時間断層を持ち続けるか、時間断層を犠牲にして”ただ二人”の命を救うか』という二者択一を突きつけられる中で、人々は後者を選ぶ」というドラマでした。

福井さんの構成メモには、こう書かれています。

時間断層を潰して、地球を救った英雄たちを迎えに行くべきか。もしくは、二人の犠牲には目をつぶり、現実に即した道を歩むか。

(『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち ──全記録集── シナリオ編 COMPLETE WORKS』KADOKAWA、2019年、285頁)

実際の本編では、「地球を救った英雄」ではなく「どこにでもいる、ごく普通の男」として描かれましたね。いずれにせよ、命は二つ。

「現実に即した」国益を守るための決断か、今そこで生きている”たった二人”の命か。人間よ、「お前の愛を選べ」。これを描くのが「国民投票」の狙いです。

この「国民投票」のミソはまず、「時間断層=絶対悪」ではない、という部分にあります。時間断層で作り上げた兵器が、地球の人々を守ることもあるでしょう。時間断層が失われたことで、結果として多くの人々の犠牲を許すこともあり得ます。また、もう一つ「時間断層を犠牲にしても、二人を救うことができるかは分からない」という点も重要です。

「現実に即した」選択を捨てて「奇蹟の救出劇」を選ぶのは、第4話の古代進が見れば「地球人がそうあってほしい」*5と言いそうな「理想主義」の選択であり、「現実」的な選択ではありません。

 

ところで、時間断層や「国民投票」は実在の出来事を明確にモチーフにしているわけではないと思いますが、どこか現実の社会と重なる部分があります。

例えば時間断層は、軍事だけではなく、他の用途に用いること(いわゆる「平和利用」)も可能です。そして、岡さんによる時間断層の初期案では、時間断層は「5000人くらいが浦島太郎になるのを覚悟で入って、地球の復興のために尽力している」場所でした*6。この点は、現代の「原子力」の問題に重なる面があります。

また「国民投票」は、(状況は大きく違いますが)私には2015年の「ISILによる日本人拘束事件」が脳裏をよぎります*7。ISILというまさに「悪魔」が、日本人を拘束して「解放してほしくば身代金を払え」と脅迫するわけです。ここでは、「身代金を支払って邦人を救出すべきだ」「身代金を支払えばテロ支援になり、今後はより多くの邦人が脅威に晒される」「危険を承知で行ったのだから自己責任だろう」といった意見の対立があったと記憶しています。

恐らく2203年の地球でも、「時間断層を犠牲にして二人を救出すべきだ」という意見と、「時間断層を犠牲にすれば、防衛軍が今後地球に訪れる脅威に対応できず、二人どころではない多くの犠牲を出すことになる」という意見が対立したはずです*8。「二人は地球防衛軍の軍人なのだから、地球を守るために戦って死ねて本望だろう。地球を脅威に晒してまで彼らが生きたいとは思えない」という意見もあったでしょうね(それに対する反論が、真田さんの「彼はあなたです」だと思います)。

この「国民投票」が難しい問題だということが分かっている福井さんは、こう述べてもいます。

最後に訪れる奇蹟も、決して地球の総意ではなく、僅差で得た辛勝であったことでしょう。古代たち地球人類には、その代償がもたらす苛酷な現実が待っている。

(『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第七章 新星篇 パンフレット』2019年、3頁)

私が提示した実際の例──「原子力」問題、「ISIL」問題──を振り返ってみても、これに答えを出すことが大変難しく、センシティブな問題であることが分かると思います。「答えは人それぞれ」では収まりきらない、人間の命や暮らしに直結した問題だからです。

こういった問題が生じるということは、「社会」という共同体が抱える宿命なのかもしれません。であるからこそ、「現代に通用する物語」を標榜する『2202』は最後にわざわざ「国民投票」という仕掛けを持ってきたのでしょう。そして『2202』は、『2202』なりの価値判断(=答え)を描いています。結果として、ラストシーンの普遍性は弱まり、その一方でメッセージ性が強くなっているのです。

人を選ぶ、とはこのことです。どちらが客観的な「正解」か簡単に分からない──『2202』はそんな問題を敢えて取り入れて、「地球人がそうあってほしい」「理想」の「選択」を、ラストで提示することにした。

「地球の総意ではなく、僅差で得た辛勝」と述べる福井さんは、『2202』のラストで下された「選択」が観客の賛否を呼ぶことも、ある意味は覚悟の上だったのかもしれませんね。

 

<追記>

日曜日用の記事を書いている作業中、福井さんが最後の「国民投票」について、何らかの特定の事例をモデルにしていることを示唆する表現が見つかりましたので、引用します。

それは、フィクションの中で想像してということではなく、観ている人たちもつい数年前にこのような選択を突きつけられたはずで、その時にどうしましたかということを改めて考えさせる最終回になっていると思います。

福井晴敏が語る“ヤマト・ガンダム論” SFアニメとしての違いは?「NT」「2202」を終え次は? (アニメ!アニメ!)

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち ‐全記録集‐ シナリオ編 COMPLETE WORKS

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち ‐全記録集‐ シナリオ編 COMPLETE WORKS

  • 作者:福井晴敏・岡秀樹
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/06/28
  • メディア: 大型本
 

*1:

つぶやき - ymtetcのブログ

コメントにも返信しております。

*2:旧作アンドロメダの要素を現代風にアレンジしたものでもあります。

*3:早紀「この脆く壊れやすい心が、人を人たらしめている。移り気で不確かで、でも、どこかで筋を通さずにはいられない。それが機械に代えられない、人の本質」

*4:テレサ「星は、ただそこにあるだけ。人だけが、その存在に意味を与えられる。美しいと感じる心をもって……」

*5:古代進「義務からではなく、地球人はそうあってほしい、という願いに懸けて」(前掲『シナリオ編』33頁)

*6:https://yamato2202.net/special/special1_3.html

*7:

ISILによる日本人拘束事件 - Wikipedia

*8:福井さんの構成メモ(2015年11月20日)にはこう書かれています。「二人のために時間断層を失ってもよいのか、また強大な異星文明が攻めてきたらどうする? 地球全体で議論が巻き起こり、ついには選挙が行われることに。」(前掲『シナリオ編』267頁)