こんばんは。ymtetcです。
『ヤマト2205』について、福井さんは「短期決戦」という言葉を使っています。
今日はその言葉について、様々な方の意見を参考にしつつ、少し自分なりのメリットを考えてみたいと思います。
はじめに、前回の記事を振り返りましょう。
前回の記事は、『ヤマトマガジン』の作品表記が一定の意図をもって書かれている、という内容でした。
これを踏まえると、『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』は「映画」である可能性が非常に高いと考えられます。
ひとまず『2205』を「映画」だと仮定しつつ『2202』を振り返り、制作進行上のメリットを考えていくのが、今日の主題です。
さて、今日の記事を書こうと思ったのは、『シナリオ編』のアマゾンレビューを読んだからです。
私が注目したのは、「福井氏のメモはバージョンを重ねるごとに複雑になり、結果的に回りくどくなってしまった」という分析。これを読んだとき、私は思わず膝を打ちました。『シナリオ編』という書物、そして掲載された複数の「メモ」に対する分析として、素晴らしい視点をお持ちのレビューだと思います。
このレビューを読んで『シナリオ編』の「メモ」を読み直してみますと、「メモ」はバージョンが進むごとに要素が追加され、複雑になっていることがわかります。「メモ」の末尾に記された「まずは忌憚なきご意見をお聞かせいただければ。」(2015年4月13日)、「とりあえず……。」(同7月31日)などの言葉を見ると、この「メモ」が出来上がるまでには、福井さん以外──それも共同脚本の岡さん以外──のスタッフからのフィードバックがあったことが容易に想像できます。
フィードバックの度に各人の「描きたい!」が重なって膨らみ、本編『2202』のややもすれば「錯綜」ともとれる状況を呼び起こしてしまったのでしょう。
実際に、『2202』の脚本はかなり時間をかけて作られているようです。
『シナリオ編』のインタビューによれば、その手順は以下の通り。
- 福井さんが、企画書を基に第六話までの構成案を作る。
- 構成案を会議にかけ、意見を募る。
- 構成案と会議で出たアイデアを元に、岡さんが各話のロングプロット(アイデアを全て盛り込んだもの)を作る。
- 各話のロングプロットを会議にかけ、意見を募る。
- 会議の意見を踏まえ、岡さんがゼロ稿を書く(これまでのアイデアをまとめたもの)。
- 福井さんが、ゼロ稿を元に初稿を書く。並行して、岡さんが次のロングプロット作りに移行する。
- 初稿を検討して決定稿となった後、絵コンテ作業に移行する。
「福井メモ→会議➀→岡ロングプロット→会議②→岡ゼロ稿→福井初稿→(再検討)→各話コンテ」。『2202』のシナリオはこのような手順を経て、映像になっていきました。
想像ですが、恐らく会議➀はアイデアを増やす会議、岡さんのロングプロットはそれを全て盛り込んだもの、会議②は盛り込まれたアイデアを取捨選択する会議、岡さんのゼロ稿はそれを踏まえて20分の脚本にまとめたもの、という想定なのではないでしょうか。
とはいえ、現場はそんなに順調にいくはずはありません。この作業を進める中ではたくさんの人が『2202』に関わります。関わる人間が増えれば増えるだけ、その人なりの「アイデア」や「取捨選択」があります*1。
特に、コンテへと落とし込んでいく過程に演出・監督・副監督を巻き込んでの様々な打ち合わせがあり、映像化過程でもアイデアが盛り込まれていることに注目すべきでしょう*2。
さらに重要なのは、2202の脚本を作る過程をまとめた上記の箇条書きの中に、「福井メモ」そのものの作業過程が組み込まれていないことです。
2015年4月13日の企画書からスタートして、少しずつ書き進められてきた「福井メモ」が第24話~最終話に到達するのは2016年5月20日。およそ1年の月日を費やしています。並行して前半部の脚本作業が行われていたことを考えると、『2202』を取り巻く情報の量は、かなり膨らんでいたはずです。
事実として、公開されている『2202』のシナリオでさえ、20分の尺の中で描ける長さではありませんでしたよね。
このようにシナリオの情報量が増えれば増えるだけ、『2199』のように設定やビジュアルなど周辺事項に割く時間は圧迫されていったのだろうと推測します。
現に『2202』の設定やビジュアルは、SF設定の小倉さんや副監督の小林さんのアイデアに”おんぶにだっこ”状態でした。その上に、小林さんが小倉さんを嫌ってディスコミュニケーションが起こる始末。
『2199』では、設定やビジュアルに鹿野さんや半田さんの知見を盛り込みつつ、セットデザインに高倉さんと渡部さん、小林さんがいたわけで、むしろこちらの方が「贅沢」に作られています。その差を痛感せずにはいられません。沢山のアイデアはシナリオではなく設定・ビジュアル面にこそ必要だった、と私は思います。
さて、ここまで『2202』の話をしてみましたが、最後に『2205』の「短期決戦」について考えてみましょう。
『2205』が「映画」であるならば、単純に考えて、『2202』のように20分の各話脚本に変換する作業が必要ありません。『2202』と同様の「贅沢な」作業を行っても、以下の手順で脚本が完成することになります。
- 福井さんが、企画書を基に映画の構成案を作る。
- 構成案を会議にかけ、意見を募る。
- 構成案と会議で出たアイデアを元に、岡さんが映画のロングプロット(アイデアを全て盛り込んだもの)を作る。
- 各話のロングプロットを会議にかけ、意見を募る。
- 会議の意見を踏まえ、岡さんが映画のゼロ稿を書く(これまでのアイデアをまとめたもの)。
- 福井さんが、ゼロ稿を元に初稿を書く。
- 脚本を再検討して決定稿となった後、絵コンテ作業に移行する。
上記でさえ「贅沢」な作業なのですから、これをある程度、福井さんや岡さん、安田監督の判断に委ねてスピーディーに進めることに注力すれば、シナリオ的にはかなりの余裕を生み出すことができます。今回は「20分で盛り上がるように」という明確な縛りがないだけ、情報の取捨選択の自由度も高くなります。
1年間かけて「メモ」を完成させ、そこから3年弱をかけて映像化し、完結させた『2202』を思えば、このような「短期決戦」は、錯綜する時間すらも与えないという点に大きなメリットがあると想像できますね。
「ネクストウィンター」に「映画」をやるとすれば、順調ならば『2205』のシナリオは既に完成し、デザイン作業もかなり進んでいるものと思います。ヤマトマガジンのデザイン画稿は決定稿ではないとのことですが、かなり決定稿に違いものなのでしょう。
安田監督とサテライトは最近まで『ソマリと森の神様』の作業を行っていたはずですが*3、こちらもそろそろ「ひと段落」するはずです。安田監督たちの『2205』作業が本格化すれば、じきに「特報」が観られる日も来るでしょうね。
<おわりに>
ところで、『2205』の公開形式について、ネット上では「前後編ではないか?」と言われています*4。
「短期決戦」という呼び方は、『星巡る方舟』の「完全新作劇場版」という言い方とも異なりますので、「前後編」説はかなり有力だと考えています。
仮に前後編であれば、「白の2205」と「黒の2205」という何とも意味深な『2205』の姿が見えてきますよね。「白の2205」と「黒の2205」については思う所がありますので、また来週の月曜あたり、記事にできればと考えています。
ということで、今週の更新は以上です。
「月・水・金曜日更新」のメリット*5を検証したいので、今週と来週はこのスタイルでいきたいと思います。
またよろしくお願いします。
*1:
G:
福井さんも泣く泣く外さなければならないぐらいに盛りだくさんのアイデアを出してくるし、小林さんもまた本編に入らないぐらいにアイデアを出してくると。
羽原:
本当にたくさんあって、いつもびっくりです。
ヤマトを愛する気持ちを徹底的に詰め込んだ「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」の羽原信義監督にインタビュー - GIGAZINE
*2:from:makomako713 コンテ - Twitter Search
*4:ヤマト2205 前後編 - Google 検索 ヤマト2205 前後編 - Twitter Search
*5:一週間の間で安定的に執筆できる、公式サイト等の新しい動き(特にヤマトは金曜日に新情報が公開される)に対応しやすい等