こんばんは。ymtetcです。
『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』監督への就任が発表されている安田賢司さんの監督作、テレビアニメ『ソマリと森の神様』が最終回を迎えました。
私は”『ヤマト2205』の監督&スタジオが作るテレビアニメが放送されるから”という動機で『ソマリ』を観はじめました。これまで安田監督の作品は観たことがないうえ原作も未読という、バックグラウンドへの予備知識が全くない状況からのスタートでしたので、正直途中まではかなり不安に思いながら観ていました。ですが、最終話まで観た結果としては肯定的に評価できる作品だと感じました。
そこで今日はヤマトファンの皆さまに簡単に本作を紹介しつつ、感想を添えて『2205』への期待を膨らませていきたいと思います。
テレビアニメ『ソマリと森の神様』(2020年1月~3月、監督:安田賢司)
<概要>
人間の大半が消え、かつて人間が「異形」と呼んだ多種多様な人々が生きる世界。森を守る神様であるゴーレム(声:小野大輔)はある日、ゴーレムのことを「おとうさん」と呼ぶ人間の少女(声:水瀬いのり)と出会い、「ソマリ」と名づける。その後ゴーレムは、ソマリの本当の両親を探すため、ソマリと共に森を離れて旅をする。
原作は暮石ヤコによる漫画『ソマリと森の神様』。安田賢司が監督を務め、サテライトがアニメーション制作を担当*1する布陣は、『ヤマト2205』と同様。
<詳細>
物語は、ソマリとゴーレム(「おとうさん」)の「人間を探す」旅を軸に進行していきます。様々な出会いと別れをはらんだドラマの中で、ソマリとゴーレムの「親子」の絆や、この世界の様子・歴史が描かれていきます。
世界観におけるポイントは、かつて人間が「異形」と呼んだ人々が支配する世界で、「人間」という存在は蔑まれ迫害され、「食う」対象にすらされているということです。しかも、そんな「人間」と「異形」の対立は、初めは「人間」による「異形」の迫害から始まったものでした。
人間の少女であるソマリは、人間であることを隠しながら旅を続けています。この世界で「人間」であるということ自体が、ソマリの旅物語に緊張感を与えています。ですが、ソマリは「異形」を恐れません。ソマリは旅先で「友達」を作っていきます。
この物語には、どこか現代社会にも通底する「自分とは異なる存在への恐れ」と、その克服というテーマが脈々と流れていると言えるでしょう。とはいえ、アニメについていえば、これはあくまでサブテーマです(原作は異なるかもしれませんが)。
一方、アニメでメインテーマに据えられていたのはソマリとゴーレムの疑似「親子」ドラマでした。ポイントは、ゴーレムの寿命です。
ソマリは、出会った時から一貫してゴーレムのことを「おとうさんはソマリのおとうさんだからおとうさんと呼ぶ」として、「おとうさん」と呼び続けます。
一方のゴーレムは、本来は感情を持たない森の番人でありながら、次第に「ソマリの笑顔を守りたい」という(ゴーレムにとって)奇妙な想いを抱くように……
ですが、この二人のドラマには制約があります。それが、ゴーレムの寿命です。ソマリは「おとうさんとずっと一緒にいたい」と願います。しかしゴーレムには寿命があり、生命活動を終えるまでもう時間がないというのです。
本作は天真爛漫な少女が主人公ということもあって明るく楽しいシーンも多く、観る者に抵抗感を与えるほどの「重さ」はありません。しかし本作の主題歌は、この二人の物語の、どこか切ない行く末を予感させるものです。
”寒い夜は寄り添いあって 星空の毛布で眠る
テーブルの向こうの笑顔 最果ての地を君と目指した
ありがとうはこっちの言葉”
(オープニング主題歌 森山直太朗「ありがとうはこっちの言葉」)
”大好きだよ何度伝えたら ずっとそばにいられるのかな
溢れ出すこの想いがあなたへの愛だから
特別な愛だから
重ねたぬくもりこの手に未来へ”
(エンディング主題歌 水瀬いのり「ココロソマリ」)
<感想:安田賢司監督への期待>
ということで、私なりにテレビアニメ『ソマリと森の神様』をまとめ、紹介してみました。本作は配信サイトも多く、とっつきやすい作品ではないかと思っています。気になった方は、是非とも公式HPを訪れてみてください。
以上のまとめ方で、私が『ソマリ』を肯定的に観ていたことは伝わったかと思います。
ここまで紹介してきたような内容面での魅力は、言うまでもなく原作に由来するものでしょう。ですが、それもアニメとして出来がよかったが故。
最後に、内容面から離れて映像面へと目を向けてみましょう。
本作で安田賢司監督は、かなりのペースで絵コンテをこなしています。「安田賢司 - アニメ@wiki【3/27更新】 - アットウィキ」の整理によれば、安田監督の絵コンテ担当話は、共同コンテも含めて第1話~第6話、第9話~第12話です。1クールアニメの半分以上の絵コンテを担当したことになります。加えて、テレビアニメという制約の中で、クオリティをコントロールしながらキャラクター&ストーリーの魅力を十分に引き出していたと思います。『ヤマト2205』でも、そのクレバーな演出手腕に期待です。
ビジュアルについていえば、旅物語というジャンルということを考えると、訪れた町々の景観にもう少し変化をつけることができれば、メリハリがついてよかったかなと思いました。とはいえ、ファンタジー性とリアリティのバランスを考慮していた形跡が窺え、概ね好印象でした。また、石川寛貢さんと安田監督の共同作である3DCGで描かれた美しいエンディングはとても印象的で、観る者の心をぐっと掴む映像だったと言えるでしょう。『ヤマト2205』にも石川さんが携わるなら、その手腕にも期待です。
監督としての手腕については、原作付テレビアニメの難しさを克服できていた点が好印象でした。原作が完結していない作品のアニメ化は、原作の枠内でアニメ化するという大原則を守りながら、テレビアニメ作品として「完結」させられることを求められるため非常に困難な仕事です。その中で、安田監督自ら「絵コンテ・演出」を担当した最終話は、シンプルな構成でありながら、作品のテーマにひとまずの決着をつける感動的な「テレビアニメ『ソマリと森の神様』」のラストを描くことができていました。
演出面でも触れましたが、『ソマリと森の神様』の鑑賞を通じて抱いた安田監督のイメージは、「クレバー」です。サテライトの公式HPでも、安田監督は「作品にかかわる際に一番大事にしてること」として「クオリティーとスケジュールのバランス」を挙げています*2。
『ソマリ』が終わり、いよいよ安田監督は世間的にも”『ヤマト2205』の安田賢司”になっていくことでしょう。『宇宙戦艦ヤマト』は『ソマリ』以上に有形無形の制約が強いタイトルですが、『ソマリ』で安田監督が見せたクレバーな手腕を発揮することができれば、『ヤマト2205』もきっと素晴らしい作品になるのではないでしょうか。
『2199』の出渕総監督、『2202』の羽原監督も実績のある素晴らしい監督ではありましたが、「同年のテレビアニメで監督を務めた」という一味違う実績を引っさげて、安田監督は『宇宙戦艦ヤマト』に挑みます。
安田賢司監督作品の1ページに『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』が「代表作」として加わることに期待して、今回の記事を終わります。
*1:『ソマリ』ではHORNETSと共同