こんにちは。ymtetcです。
『2202』第25話で描かれた「森雪のキス」の意味は、既にこちらのブログでも書いたように、あるいは多くの方も考えておられるように、「記憶をなくしても、二人は愛し合う」というメッセージが込められたシーンだったと考えてよいでしょう。
ですが、ひとつ私が忘れている要素がありました。今日は、改めて「森雪のキス」の意味を考えてみたいと思います。
『2202』第25話「森雪のキス」には、どんな意味があったのでしょうか?
「二人の結婚式」→「森雪のキス」=「誓いのキス」
私は、「森雪のキス」は『さらば』における「二人の結婚式」をオマージュし、作り直したシーンであり、行動としては「誓いのキス」の意味合いを持っていたと考えます。
『さらば宇宙戦艦ヤマト』における「二人の結婚式」
古代:雪、やっと二人きりになれたね。君には苦しい思いばかりさせて、ごめんね。これからいつも一緒にいるよ。人間にとって、一番大切なものは愛することだ。でも、僕が一番大切なものは君だ。君への愛だ。雪、好きだ。大好きだ。大きな声で言える。雪、僕たちはこの永遠の宇宙の中で、星になって結婚しよう。これが、二人の結婚式だ。
やっぱりいいですよね。このシーン。
『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』の名シーンのひとつ「二人の結婚式」は、物語のひとつの終着点でもあります。森雪の亡骸に語りかける古代進の言葉は、富山さんの素晴らしい演技と相まって、シリーズでも屈指の名シーンかと思います。
下線部のセリフは『2202』と関わってきますので、頭に留めておいてください。
『宇宙戦艦ヤマト2202』における「二人の結婚式」
では、『2202』は原作の「二人の結婚式」をどう料理したのでしょうか。
ここからは、本編よりも熱が伝わる『シナリオ編』の記述を追っていきたいと思います。
『2202』における「二人の結婚式」➀:第9話
古代の瞼が、ゆっくりと開かれる。
古代「……」
自分を見つめる雪の顔がそこにある。
雪「バカ……」
雪の目から散る涙の珠。
惑星の破片が大量に漂う宇宙に、二人だけが取り残されたように浮いている。
古代、簡易装備の服をまさぐり、なにかを取り出す。
目前に差し出された指輪を見て、小さく息を呑む雪。
古代「……結婚、してほしい」
雪「……はいって、何べん言わせる気?」
握り合った手の中に指輪を温める二人。
古代の腕が雪の体を抱き寄せる。
強く抱き合い、いつかのように虚空を漂い続ける古代と雪。
雪「もう、離さないで……」
小さくなってゆくその姿。
(『シナリオ編』77頁。)
まずは、「二人の結婚式」をリメイクしたとよく言われている第9話です*1。旧作になかった「悪魔の選択」という展開の中で、古代は雪に対して「結婚」という言葉を発します。これが、「二人の結婚式」リメイクと言われる所以です。
このシーンでは、二人が死をも覚悟しているという点が重要です。
「たとえあと数分で終わる命であっても、もう離れることなく――。」*2という記述が「構成メモ②」にはあります。第3話ですれ違った古代と雪が、それでも、互いのために命を投げ出すほどの強い「愛」で結ばれあう……これを描く上で、『2202』は「二人の結婚式」をオマージュしたものと考えます。
ちなみに、シナリオには「いつかのように虚空を漂い続ける」という表現があります。このシーンが、『2199』第23話のラスト「虚空の邂逅」のオマージュという側面を持っていたことも分かりますね。なお、本編には反映されていません。
『2202』における「二人の結婚式」②:第25話
私はてっきり、第9話で「二人の結婚式」の要素は回収されたと思っていました。重要なBGM「想人」まで使ったんですからね。しかも、旧作と違い『2202』の森雪は生き残りました。「二人の結婚式」をストレートに再現する事はできません。
しかし、生きているか死んでいるかにこだわらずに『2202』を見ていくと、実は『2202』の古代と『さらば』の古代は、森雪をめぐって似たような立場に立たされている、ということが分かります。『さらば』の古代は森雪を死別で失い、『2202』の古代は”恋人としての森雪”を記憶喪失という形で失っているわけです。
このような、『2202』の古代進が味わった喪失感を踏まえて『2202』のシナリオを読むと、「森雪のキス」に至るあのシーンが、本来は旧作の「二人の結婚式」をオマージュするような形で、書かれていたことが分かります。
古代「……三カ月」
雪「(微かに振り向き)……?」
古代「たった三ヶ月前だ。おれたち、地球で式場選びをしていた」
雪「……」
古代「幸せだった。あの幸せに浸っていれば、こんな……」
嗚咽を噛み殺し、うつむく古代。
古代「おれ、君になにもしてやれなかった。君の幸せを奪ってしまった。結局、誰も救えずに……」
ぐっと操縦桿を握りしめる古代の手。
古代「君だけを見て、君だけを……それだけでよかったのに……ごめん……ごめんよ……」
震える古代の手に、雪の手がそっと重なる。
古代「(濡れた目を上げ)……!」
寄り添うように、古代の傍らにいる雪。
雪「(手の感触に)……思い出せない」
言いざま、倒れ込むように古代に寄りかかる雪。
咄嗟に支え、膝の上に座らせる古代。
古代「(雪の顔を見て)……」
雪「(微笑み)でも、温かい……」
(『シナリオ編』208頁、下線はymtetc。)
本編『2202』には、震える古代の手、膝の上に座る雪、雪のセリフ「あたたかい……」の三つだけが残され、他は全てカットされてしまいました。
このことで、このシーンの「二人の結婚式」としての側面が伝わりにくくなった(全く伝わらないというわけではないですが)ように思います。
では、引用の下線部に注目してみてください。これは、先ほど「頭に留めておいて」と書いた、上述の『さらば』のセリフと重なるセリフです。
古代進(『さらば』):君には苦しい思いばかりさせて、ごめんね。
古代進(『2202』):君になにもしてやれなかった。君の幸せを奪ってしまった。(略)ごめん……ごめんよ……
ここから、『2202』第25話シナリオの古代の語りは、本来は『さらば』ラストシーンの(「二人の結婚式」と呼ばれる)古代の語りをオマージュしたものだったことが分かります。
さらに『2202』のシナリオを深堀りしていくと、このシーンの明確な役割が見えてきます。2016年5月20日付の「構成メモ⑥」です。
「初めまして、奥さん」
「初めまして、あなた」
それぞれに言い、正面に目を向ける二人。巨大にすぎる”滅びの方舟”は、この距離では星空と判別がつかない。古代と雪を乗せ、ヤマトはバージンロードを歩むように船脚を進め――不意にその船体を眩く輝かせた。
(『シナリオ編』284頁。)
この構成メモが、もはや”答え”だと思います。これは、『2202』が第25話ラストを「二人の結婚式」として描いていた、ということを示しています。
さらに、『2202』の「二人の結婚式」としてこのシーンを読み解くためのポイントは、「初めまして、奥さん」「初めまして、あなた」というやりとりにあります*3。
「初めまして」「奥さん」「あなた」
記憶の上では初対面同然の相手であっても、一人の人間として心を通わせ、結ばれあう。第25話のラストシーンは、”記憶を失くしても二人は結婚する”という意味での「二人の結婚式」であり、「森雪のキス」は、言わば「誓いのキス」だったわけです。
「森雪のキス」=「誓いのキス」
シナリオに書かれた旧作オマージュの語り、「バージンロード」という構成メモの直接的な表現。『2202』第25話の「森雪のキス」は、シーンとしては「二人の結婚式」をオマージュして作り直したものであり、二人の行動それ自体は「誓いのキス」の意味を持っていたと考えます。
ただし、本記事では「オマージュ」という言葉を多用しました。
というのも、『2202』における「二人の結婚式」は、旧作『さらば』における「二人の結婚式」を表面的には再現しているものの、その本質的な部分まで「リメイク」できているかどうかはまだ分からないから……です。
『2202』の「リメイク」とは、旧作『さらば』を徹底的に解剖して分解し、現代社会に向けて作り直す(Re-make)、あるいは再構築する(Re-build)ことだったと考えます。
今回の分析では、その点にまでは踏み込むことができていません。『さらば』の「二人の結婚式」を『2202』がどう捉え、どう「リメイク」しようとしたかについては、まだ考える余地があると思います。
*1:参考になる過去記事
2202─悪魔の選択:今は「ご都合主義」に耐える時?─ - ymtetcのブログ
*2:『シナリオ編』243頁。
*3:余談ですが、私は「奥さん」「あなた」という相互の呼び方は『2199』『2202』の古代と雪にはどうも似合わないのではないかと思います。この辺りを勘案して、このセリフはカットされたのかもしれません。