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偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【ヤマト2202】「斉藤始=蘇生体」とは何だったのか──構成メモから

こんにちは。ymtetcです。

宇宙戦艦ヤマト2202』にて、新規に追加された「斉藤始=蘇生体」設定。

明かされるのは一応第22話の出来事なのですが、それ以前からの”匂わせる”演出によって、このことはバレバレの状態になっていました。

劇中では、蘇生体である斉藤始を通じて、ズォーダー大帝は様々な情報を得ていました。斉藤始が蘇生体であることによって、『2202』の物語がより展開しやすくなっていたことは事実です。それでも、バレバレの状態になっていたことで、必ずしもこの設定がドラマ的にうまく機能していたとは言えません。

この設定は一体何のために出現したのでしょうか。そして、本編ではどう演出されるべきだったのでしょうか。

今日は『シナリオ編』の「構成メモ」を読みながら、これについて考えてみましょう。

斉藤始=蘇生体の初登場(2015年7月31日)

斉藤始を蘇生体とする展開は、2015年7月31日の「構成メモ」で初めて登場します。

そこでは、

密偵サーベラーの死後も、艦内の情報がダダ漏れ。これはまだ艦内にスパイがいるのではないかと疑惑が広がる中、ガトランティスの技術をもってすれば人間をそっくり複製することが可能ということが明らかになる。

(『シナリオ編』234頁。)

と書き出されています。つまり、「密偵サーベラー」(本編では)桂木透子が退場し、ヤマト艦内のスパイを排除したかと思いきや……という中で、第11番惑星で回収した人の誰かへと疑惑の目が向けられていくという流れ。

さらに「構成メモ」はこう続いています。

(略)空間騎兵隊の誰かか、まさか土方か。

(略)疑心暗鬼の中、どうも斉藤の副官である女騎兵が怪しいということになるが、これはミスリードで、斉藤本人がクローンであったという驚愕の展開。

(同上。)

女騎兵はその後「有沢」という名前となり、最終的には『方舟』の設定を流用して「永倉」になりました。

さて、この大きな流れを見ると、斉藤始=蘇生体を演出する上では二重に観客をミスリードしていくことが必要だったと思われます。

まず、艦内のスパイは桂木透子一人である、という構図を観客の「前提」にすること。これが第一です。このためには、まず徹底して”桂木透子の目を通してズォーダーが情報を得ている”という演出を繰り返していくことが欠かせません。その中にはもちろん斉藤から得ている情報もあるはずなのですが、徹底して桂木透子を”暗躍するスパイ”として描くことで、彼女を排除さえすればスパイはいなくなる、という思いを観客と共有することが可能でしょう。

次に、永倉を常に斉藤の横に置く。そして、とにかく二人をヤマトの中央会議等々に参加させます。これで、のちのち観客が「犯人捜し」をする際に、永倉か斉藤か、あるいは土方か、と議論が分かれていくはずです。

もう少し「構成メモ」を読んでみましょう。

(略)真相を知った斉藤は自ら大量の放射線を浴び、体内の自爆装置を処理した上で人間として死のうとする。そしてラストは彗星帝国の中で仁王立ち……というのも考えたが、これはちとやりすぎか。

(『シナリオ編』234頁。)

ここまで読むと、斉藤=蘇生体というストーリーは、「人間として死のうとする」ということにその肝があったことが分かります。

これは、第22話における藤堂早紀の「私も、人間でありたい。どんな運命が待ち受けていようとも、最後の1秒まで」というセリフと同じメッセージです。同じ第22話で斉藤の正体が明かされるというのは、一種の皮肉だったのかもしれません。

斉藤始が見た幻(2015年11月4日)

2015年11月4日の「構成メモ③改」は、第10話単独で1.5ページ強を費やしている特殊なメモです。公式HPのこのページ

SPECIAL┃宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち

に掲載されている岡・羽原・福井鼎談でも言及されている「構成メモ」ということで、実は『2202』シナリオの中でもかなり価値のあるものだと言えます。

本編の演出があまり上手くいかず、結局何がしたかったのか分からなかったこの第10話ですが、「構成メモ」から「シナリオ」を読むと、やりようによっては良い人間ドラマが描けたのでは……と思わされますね。

このメモで斉藤=蘇生体が登場するのは、この部分だけです。

(略)斉藤にはいまひとつぴんと来ないなりゆきであった。彼が見た幻は、誰ともわからない男のうしろ姿で、呼びかけても決してこちらを振り向こうとしない。文字通り幽霊のようなイメージでしかなかったからだ。

(『シナリオ編』248頁。)

本編で「誰の幻を見たのか」と斉藤が問われた際には、”誰ともわからない男のうしろ姿”ではなく、明らかにズォーダー大帝と思しきシルエットが浮かび上がりました。恐らく、多くの方が斉藤を怪しむようになったタイミングが、この第10話だったのではないでしょうか。

これについては福井さんも、「さすがにやりすぎた」と反省していた記憶があります。ですが、このシーンを前振りとして使わないというのも勿体ないですよね。

忘れてはいけないのは、桂木透子だけでなく永倉もミスリード要員だったということです。たしかに、人気キャラである土方に疑いの目を向けるのはファンにとって居心地がよくないので、空間騎兵隊の誰かに観客の目を向けさせることが必要だったと思います(斉藤も人気キャラではありますが)。

ということで、この第10話を前振りとして使うためには、斉藤と永倉の二人に怪しげな行動をとらせるという選択肢もあります。

幻を見ている間、生きているキャラクターもオレンジ色になって描写されますよね。そして、幻から覚めた後は皆口々に「誰の幻を見たのか」と訊きあう。これを踏まえると、

  • 幻を見て様々な表情を浮かべるヤマトクルー、土方、空間騎兵隊の面々
  • その中で驚いた表情を見せる斉藤、微妙な表情を見せる永倉
  • 幻から覚め、「誰の幻を見たのか」と訊きあうクルーたち
  • 永倉は誰の幻を見たのかをはぐらかし、他の隊員に冷やかされる

このようにして、永倉にはぐらかさせるのも手です。

考えてみれば、皆が皆「私は〇〇の幻を見た」と開示するというのもおかしな話ですよね。亡くなった大切な人は、家族とは限りませんから。誰の幻を見たのか言いたくない人だって、そりゃいます。私だったらあんまり言いたくないかな(笑)。ですから、永倉がはぐらかしたっていいんですよ。

スパイ騒動の勃発(2015年11月20日

2015年11月20日のメモで、『2202』の物語はほぼほぼ完成します。もちろん、《銀河》をめぐるドラマや最終章周辺のドラマはまだ概要を述べるに止まっていますが、この「構成メモ④」では、第四章から最終章までのドラマがおおよそ網羅されています。

そんなメモの中、第12話で

その頃、ヤマトでは、前回の戦いから自分たちの位置や動向が敵に筒抜けになっている事実が明らかになり、対策が協議されていた。

前回のデスラーとの戦いをきっかけに、艦内でスパイ騒動が勃発します。ご存じのように、この第12話はサーベラー回。スパイとして土方や空間騎兵隊が「模倣体」(のちの蘇生体)となっている可能性も検討されますが、やはり疑われるのは桂木透子です。この回は、観客を「スパイ=桂木透子のみ」の視点に誘導するための回だったと言えます。おおむね、こちらは本編通りですね。

ザバイバルとの対面(2015年11月20日

さて、問題のシーンです。

本編第14話では、斉藤と決闘をしたザバイバルが、ニヤリと笑って自爆するシーンが描かれました。そこで流れた不思議な時間は、「斉藤ってもしかして?」と観客に思わせるには十分でした。

メモには、こう書いてあります。

この時、斉藤が模倣体と気づいたザバイバルのリアクションを入れるか否かは要一考(やればすぐにばれちゃうと思う)。

(『シナリオ編』254頁。)

ここに、伏線とサプライズ感のバランスに苦慮した跡が伺えます。本編第22話の演出からして、重要なのは観客と斉藤に「まさか」を共有することでした。かといって、何の前振りもなく真実を明かしてしまえば、唐突感で「はぁ?」と観客が冷めてしまうリスクもあるわけです。本編で「ザバイバルが不思議な行動をとる」に止めたのは、ある意味折衷案だったと言えるでしょう。

結果論から言えば、このザバイバルの行為は第22話のニードルスレイブの行為と「ネタ被り」してしまったわけで、避けた方が無難だったと思います。

さて、上述したように永倉がミスリード要員として存在します。どうしてもこの「模倣体と気づいたザバイバル」ネタをやるのであれば、永倉をこの場に同行させるのがよいでしょう。例えば、

  • ザバイバルと斉藤の決闘(旧作オマージュ)にほぼ決着がつく
  • 決着がついたタイミングで、斉藤を追ってきた永倉が加勢する
  • ザバイバルがニヤリと笑い、自爆する

こんな感じで。タイミングのあやで、永倉を見てニヤリと笑った可能性も残されるというわけです。これ以降、永倉にも自分自身にも疑いの目を向けるようになった斉藤が第22話で永倉の前に立ちはだかる、という大きな流れを作っていくわけですね。

透子を殺そうとする第二のスパイ(2015年11月20日

次に蘇生体が登場するのが、第19話、雪の記憶が「元に戻った」シーンです。

ズォーダーは、いまだヤマト艦内に潜伏する模倣体の肉体を操り、医務室で眠り続ける透子──サーベラーのもとに赴かせた。

(『シナリオ編』263頁。)

このあたりは本編通りですね。

本編では、明らかに男性と思しきシルエットが医務室に浮かび上がったため、「スパイは斉藤か土方か」と話題になりました。

この二者択一になった時点で、本編で永倉をミスリード要員とするプランは崩壊しています。ここでシルエットを浮かび上がらせたことも、やや考えものです。

スパイは有沢ではなく(2015年11月20日

第22話です。「以降の流れ」として最終章の内容が概説されたこの箇所でも、第22話の斉藤のシーンはしっかりと書かれています。

スパイにされたなら、そいつは一度死ぬ目にあっているはす。もしや、有沢か……? 斉藤が最悪の可能性に思い至った瞬間、爆発の衝撃がヤマトを襲う。

(『シナリオ編』266頁。)

おおまかな流れは本編そのままです。キーマンが最終決戦から空間騎兵隊を外すよう進言し、斉藤が憤りを見せます。スパイは有沢(永倉)ではないかと思い至る斉藤ですが、直後の戦闘で、己自身がスパイだったことを知ります。

そして斉藤は、こんな行動に出ます。

模倣体は有沢ではなく、このおれ自身──。衝撃と絶望に、咄嗟に自殺を図る斉藤。だが死にきれず、目を閉じて敵陣の中に飛び込んでゆく。殺せ、殺してくれと叫びながら。

(『シナリオ編』266頁。)

この構図には見覚えがありますよね。そうです。第19話の加藤です。加藤三郎と藤堂早紀、斉藤始のドラマは、ほとんど同じ構図をとっていたドラマだったと、ここから分かります。

斉藤始のドラマは、これ以降「構成メモ④」には登場しません。詳細は、「構成メモ⑤」に譲ることになります。続いて見ていきましょう。

独りで勝手に死ぬな(2015年12月4日)

第23話。前話で自らが蘇生体であることを悟った斉藤は、艦外に身を投げ出して自殺を図ります。「ざまぁみやがれ」と。その時、永倉(有沢)が斉藤の近くへとやってきます。

あたしは怖くない、隊長と一緒なら本望だ。おまえたちはなにも壊せない。ヤマトも、地球も、人間ひとりの気持ちも……!

(同上、272頁。)

これに続くセリフは、概ね本編でも同様です。

人として死ねなきゃ、負けだよ。

(同上。)

という永倉のセリフは『2202』にしては珍しくトゲのある言葉遣いではあるものの、メッセージとしては「最後の一秒まで人間でありたい」という早紀のセリフと同じです。

余談ではありますが、この時の斉藤と永倉のやりとりは、

ズォーダーの神経を微震させ、古代と対面するミルの精神にも波紋を押し拡げる。

(同上。)

こんな役割を果たしていたそうです。本編の演出には取り入れられませんでしたが、シナリオ的にこのシーンは、のちの「ミルの覚醒」への前振りになっていたんですね。

このあと斉藤は本編の通り、放射線を浴びて「操り人形の糸」を断ち切ります。

なくしたくないものを見つけるために(2016年5月20日

この辺りにいたると、もうほとんどが本編通りです。よく読むと細部はかなり違っていて、「ここに旧作オマージュ」「ここに2199オマージュ」とハッとさせられるのですが、オマージュ系はほとんど本編に盛り込まれていないのも事実。

実は総集編はこの辺りを整理してあげるだけでかなり「リメイク・ヤマトファン」に受け入れられる可能性が高くなるのですが、敢えてドキュメンタリータッチに挑戦するあたり、あくまで『2202』は挑戦的に、野心的に取り組んでいく作品ということなのでしょう。

最後は、斉藤のセリフを引用しておきます。

「おれたちゃなくすために生きてるんじゃねぇ。なくしたくねぇものを見つけるために生きてる。それをなくすぐれぇなら、てめぇが死んだ方がましだって思えるなにか……しょうがねぇよな、見つけちまったんだから。なぁ?」

斉藤の呼びかけに、笑ったとわかる吐息を返すキーマン。

(同上、281頁。)

「なくしたくないものを見つけるために生きる」。

ここまでは「最後の瞬間まで人間であり続ける」という藤堂早紀のドラマと重ねられてきた斉藤のドラマですが、このセリフは「きっと、手に入れた分だけ、幸せだった分だけ、人間は哀しいんだ……」(同上。)と語るキーマンのドラマと重ねられています。

さらに、「なくしたくないものを見つけるために生きる」という言葉は、実は最終話における古代進のドラマへの前振りになっています。古代進は高次元世界で”自分の子ども”という「なくしたくないもの」を見つけ、明日への希望を胸に生きることを決意しましたからね。

「慌てず急いで正確に」という旧作オマージュのセリフで幕を閉じる斉藤のドラマは、加藤・早紀・キーマン・古代の複数のドラマをまたぐような形で構想されていたものと言えるでしょう。

良き脇役として、サスペンス要員として

以上、『シナリオ編』の「構成メモ」から、斉藤始のドラマをいくつかピックアップしてみました。

『2202』はあくまで「古代進の物語」を中心に語られていますが、随所にサブ主人公とでも言うべき葛藤を与えられたキャラクターが何人か登場します。

今日取り上げた斉藤始、加藤三郎、藤堂早紀、クラウス・キーマンetc……。いつかそれぞれのドラマを整理する記事も書いてみたくなる程度には、サブ主人公とでも言うべき良き脇役たちが配置されていました。

そして『2202』は、これらのサブ主人公たちを、それぞれの立場で似たような葛藤に落とし込むことで、より普遍性を高めようとしていた(色々な立場の観客が共感できるようにしていた)と言えるでしょう。

「自殺願望」という面では加藤三郎と山南修と斉藤始。

「最後まで人間として生きる」という面では藤堂早紀と斉藤始。

「なくしたくないものを見つけるために生きる」という面ではクラウス・キーマンと斉藤始と古代進

ざっとこんな形です。

このような構図で見ていくと、斉藤始は強く光の当たるサブ主人公よりもさらに補助的な役割、いわばサブサブ主人公のような形で、『2202』のドラマを陰から支える役割が与えられていたことが分かります。本編では上手く機能しなかったかもしれませんが、少なくともシナリオ段階での構成上、彼は良き脇役だったと言えるでしょう。

斉藤始が他のキャラクターと違うのはどこかと言えば、それは彼が「ガトランティスのスパイ」をめぐるサスペンスドラマ要員であるところです。

宇宙戦艦の艦内、閉鎖空間のサスペンスドラマとして定番なのは、やはりスパイです。旧作の初期案をベースにした「ひおあきら版」の第一作『ヤマト』にも、「イローゼ」というスパイをめぐるドラマがありますよね*1

「斉藤始=蘇生体」という設定は、これをヤマト艦内のサスペンスドラマとして機能させて初めて意義深くなるものだったはずです。しかし、結果的にそれはうまくいきませんでした。

重要だったのは、どうミスリードするかでした。本編では、序盤からの前振りをかなり分かりやすい形で行ってしまったがために、機能不全に陥っていたと考えられます。

演出としては、まずはあくまで桂木透子に焦点を当てる。そして次に、「桂木透子以外のスパイ」として永倉が浮上するようにミスリードする。この作業が必要だったと言えます。前振りとして”匂わせる”のは斉藤ではなく永倉にすべきだったのではないでしょうか。「永倉=スパイ」という雰囲気を作っておいて、実はスパイは隣にいた斉藤でした、という流れが無難だったと私は考えます。

振り返ってみたいのは、『2199』でかなり大きな賛否両論を巻き起こした第14話「魔女はささやく」です。第四章公開後から第五章公開までの間、一時的に世間の『2199』への評価がぐっと下がった記憶があります。

ですが、たしかに『2199』第14話は「古代進の過去」話としては不十分だった一方、「何が起きているんだ?」というヤマト艦内のサスペンスドラマとしてはかなりハイクオリティだったと私は思います。

実はこの『2199』第14話を「好き」と語っていた人物こそ、『2202』の小林誠副監督でした。

斉藤始をめぐるサスペンスドラマは、「機能させることができなかった」というよりあえて「機能させなかった」側面の方が強いように思います。本編『2202』は、艦内のスパイドラマを積極的にやっていたようには思えないのです。むしろ、艦内の情報が漏れていることは"後で解決するもの"として話が進んでいるかのようでした。その結果、斉藤始が『2202』に存在している意味は、「構成メモ」の段階よりもぐっと薄まっていたと考えます。

『2202』も『2199』第14話のような「得体の知れない」サスペンス感を引き継いでいれば、もう一歩、魅力のある作品となっていたかもしれませんね。

*1:これが『2199』における「ミレーネル」の元ネタの一つとなりました。ちなみに「イローゼ」は「超振動ニードル」という武器でヤマト乗組員を次々と刺していきます。もしかしたら『2202』の「ニードルスレイブ」の元ネタはここにあるのかもしれません。