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偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

2 シナリオを読む──【ヤマト2202】第10話を振り返る

こんにちは。ymtetcです。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第10話「幻惑・危機を呼ぶ宇宙ホタル」を振り返る連続シリーズ。前回は本編を観たので、今回はシナリオを読みます。

ざっと通読してみましたが、やはり本編よりは構成が整理・洗練されている印象です。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第10話シナリオを読む

  • 概要

 まず、シナリオ全体を見渡してみます。

 おおまかな構成としては、シナリオ版と本編は大きくは異なりません。

 冒頭に描かれるノルの訓練から、ガイレーンとズォーダーの会話、診察を受ける古代、「ヤマト女子部」と艦内トレーニングルーム、中央作戦室、藤堂の通信、古代を案じる佐渡、ホタルの侵入、ホタルに酔うクルー達、斉藤と古代の対立、真田の宇宙論加藤と空間騎兵の大乱闘コスモウェーブ、波動エンジンの危機、殺虫剤、土方への艦長就任依頼、団結するクルー、キーマンと透子、テレサの出現、古代の決意、デスラーの復活。

 本編と異なっている部分としては赤い文字で書いたところと、順番が入れ替わっている下線部が挙げられます。

 では以下に、もう少し細かく見ていきましょう。

  • Aパート

  シナリオ版も本編と同様、まずはノルとザバイバルの訓練からスタートします。

モンゴル相撲に棒術を足したような雰囲気の格闘技。

(『シナリオ編』78頁。)

 ノルが行っている格闘技は「モンゴル相撲」(いわゆる「ブフ」のことでしょうか)をイメージするように指定されており、『方舟』が提示したガトランティス遊牧民イメージを(ささやかながら)受け継ごうとしている様子も窺えますね。

 この訓練の構成、加えてこれに続くゴーランドとザバイバルの会話、さらにゴーランドとザバイバルの会話に続くガイレーンとズォーダーの会話についても、本編とほとんど同じ記述がシナリオに見られました。ただし細部は異なっており、宇宙各地の情報をズォーダーに伝える蘇生体や、反射衛星砲を応用したものでテレサの封印を解こうとしているガトランティスの様子が描かれています。

 ガイレーンとズォーダーの会話にオーバーラップして続く佐渡の診察を受ける古代のシーンも本編通り。ただしシナリオでは、このシーンにさらにオーバーラップして、視点が艦内トレーニングルームへと移行します。そこで描かれるのは、桂木透子の噂話です。

 艦内トレーニングルームでの西条、山本、有沢(永倉)の会話で、医務室で働く桂木透子が男性クルーに人気であることが語られ、西条は「なんか怖くない? あの整いすぎた顔……」(『シナリオ編』80頁)と語ります。

 本編ではカットされたこのシーンの後、場面は本編にもあった中央作戦室での会議シーンに移行します。本編でわずか54秒に終わったこのシーンですが、やはりシナリオではある程度多くのセリフが盛り込まれています。

 この会議での議題は、やはり「このままテレザートに向かうか否か」です。テレザートの方向に白色彗星がいる。前話で、ズォーダーが白色彗星は己の本拠地であると示唆したようなしないような、曖昧なメッセージを残しました。だけどテレサの通信も曖昧なもの。この辺りは本編通りですが、その後、太田が第11番惑星の潰滅を踏まえて”ヤマトは地球に引き返して戦いに備えるべきだ”と語り、南部は波動砲艦隊への嫌悪感からこれに反対、太田が「もうそんなこと言ってる場合じゃないよ」(『シナリオ編』80頁。)と応じる場面があります。古代はこのやり取りを聞きながら、艦長として何らかの決断を下さなくてはならない状況に胸を詰まらせます。何とか「地球の防衛会議の結論を待つ」という言葉を絞り出した古代ですが、これに応じた徳川の「帰還命令となった場合はどうするかね?」の問いに、答えに窮します(同上、80頁)

 さて、本編同様、次は藤堂の通信です。防衛会議の結論は、前進して可能な限り偵察をすること。このままの針路を許可された古代ですが、あくまで許可であり、これも曖昧な命令です。「ヤマトの判断に委ねる」という藤堂の言葉に、古代は「(喉に手をやり)」ます(同上、80頁)。またしても曖昧な状況に、古代は苦しんでいます。

 ここでの古代の苦しみとは、”正解が分からない”ことにあると私は考えます。ガトランティスの脅威が地球圏に迫っている以上は地球に戻ることも正しいことですし、古代はテレザートに向かうことも必要だと考えているでしょう。地球に戻って波動砲艦隊に加わることも嫌だけれど、自分自身が既に波動砲の引き金を引いている事実もあります。テレザートに行けば何かがあるという確信も持てないし、そこには、つい最近悪魔のゲームを押し付けてきた、あのガトランティスがいるかもしれない。そして、ヤマトの針路は全て、艦長代理である自分に任されている。苦しい状況ですよね。

 それもあって、古代の状態を案じる佐渡のシーン(雪は出てきません)に続く空間騎兵隊の訓練のシーンには、古代が艦長室で「沖田艦長……どうすれば……」と悩む記述があります。これを外から見た訓練中の斉藤が「……腑抜けやがって」と憤る構図です(同上、80頁)。

 そして、ホタルがやってきます。

 ホタルは本編通りということにしておきます。センチメンタルになった古代がハーモニカを吹く、という『2199』ネタは是非やって欲しかったのですが、仕方ありません。ハーモニカを吹くのであれば、古代の前には守が出てきそうなものですからね。

 基本的には本編通り進んでいくシナリオですが、決定的に違う箇所が、Aパートの最終盤からBパートの冒頭にかけて登場します。ホタルに魅入られた真田が語る、真田の宇宙論のシーンです。こちらはBパートの方で紹介します。

  • Bパート

真田:人は、死んだらどうなるのか……その疑問に答えられる文明を、我々はいまだ知らない。しかし、テレザートの伝説が真実なら……我々に語りかけてくる死者が幻や記憶の産物ではなく、本当にその者自身であるなら、我々は、魂というものの存在を認めるしかない。そう……肉体は滅んでも、その者を動かしていた命の力……魂は形を変えて残る。我々の住むこの宇宙より、もっと高い次元へ魂は還っていく……テレサとは、その高次元の世界に住まう超生命体……だとすれば、高次元へ、あの世へ旅立った人の魂は、みんなテレサに……テレサが死者を通じて語りかけてくるのも、それならば説明が……

(『シナリオ編』82頁よりymtetc作成。)

 劇中では真田の宇宙論ですが、厳密に言えば福井晴敏(+小倉信也)の宇宙論でしょうか。テレサ=高次元生命体という部分が色濃く反映されていますが、旧作『さらば』っぽくもあります。

 真田がこれを語る間、画面は斉藤と古代の喧嘩を映し出し、二人の喧嘩はヤマトクルー(古代、加藤、キーマン)と空間騎兵隊員の大乱闘へと発展していきます*1。そして、「『みんな! やめなさい!』」と「斉藤と古代の間を雪が割ったその時!」(同上、83頁)、

 テレザートからコスモウェーブがやってきます。それまでの真田の語りを受けて、まずは真田と古代守のやり取りが描かれます。本編でまず真田が描かれるのは、シナリオの名残りだったんですね。真田は先ほどの疑問、”幻に見る古代守は古代守の魂なのか、自分の中の記憶に過ぎないのか?”を守にぶつけます。守は「その違いを証明することはできないと、お前は知っている」と応じ、その言葉を通じて何かを感じ取った真田は感極まって「古代……」と呟きます(同上、83頁)。

 さて、冒頭でも申し上げた通り、本編ではコスモウェーブとそれに続く波動エンジンの危機の順序が入れ替わっています。シナリオでは、乱闘のさなかにコスモウェーブが訪れ、真田は己の仮説を古代守にぶつけ、古代は己の苦悩を沖田にぶつけます。そしてコスモウェーブの幻が覚めた時、波動エンジンに危機が訪れます。脳波への影響を食い止めるシーンは、シナリオにはありません

 そこから「殺虫剤」までは、本編とほぼ同じです。ただし、「殺虫剤」を使うように指示を出したのは土方であるとされています。これを受けて、古代が土方に艦長就任を依頼する流れですね。この後、ヤマトクルーと空間騎兵の和解が描かれる流れも、本編と同じです。

 その後、透子がキーマンに「あのホタルを解き放ったのは、私」(同上、85頁)と語り、ヤマトに潜入した二人の”スパイ”のドラマが始まります。

 ラストシーンには、先ほどの本編との相違を受けて、若干の違いがありました。真田が「引き返す選択肢はあると思う」と語り、古代に決断が迫られる中、まさにその時テレサが「証を、立てる」。そして、それを目にした古代が、前に進むことを決意する

 こうして第10話は完結し、次回への引きとしてCパートにデスラーが出演して、第三章は幕を閉じます。

総括

 当然ですが、これだけのボリュームは20分には収まりません。ただ、その事実を棚上げしてシナリオの感想を述べるならば、「よくできた一話完結だ」と私は感じました。

 第10話とはどんな話か? その中核となる部分は「構成メモ」を読む必要がありますが、シナリオを読んでいてやはり感じたのは、第10話とは、「ヤマトは地球に引き返すのか、このままテレザートに向かうのか」という決断を迫られた古代の苦悩を描く回だったんだということです。

 冒頭の佐渡の診察から、中央作戦室での苦悩、藤堂の曖昧な指示、佐渡の心配、艦長室での苦悩、斉藤との喧嘩、コスモウェーブ、殺虫剤、土方への艦長就任依頼、「証を立てる」。これら全てのドラマを経て、ラストで古代は「前に進もう」と決意する。そんな話なんですね。やはり、ガトランティスのドラマにも若干の比重を置いている本編は、少しもったいないことをしているように思います。

 そして、このドラマ全体の中で、ホタルが果たした役割は、ある意味でお酒と同じクルー達の本音を引き出す役割を果たしています。古代や斉藤は喧嘩をするし、真田は宇宙論への思考に没頭する。皆が無意識に抑圧してきた自己を解放させているのです。

 恐らく福井さんとしては、このタイミングでクルー全員の本音を吐き出させて清算して、作劇としても様々な混沌をフラットにして、いざ『2202』として、「前に進む」というメッセージを込めたかったのだと推測します。ちなみに人間の本音を引き出し建前を崩壊させていく生物兵器はいかにもガトランティスが考えそうなもので、なぜ桂木透子が解き放った設定を本編で無くしたのか、については疑問が残ります。

 さて、「よくできた一話完結だ」と私が感じた理由は、シーン相互の繋がりや流れが強く意識されている印象をうけたためです。さきほどの佐渡の診察⇒中央作戦室⇒藤堂の通信⇒佐渡の心配⇒艦長室での苦悩⇒斉藤との喧嘩⇒コスモウェーブ⇒艦長就任依頼⇒「証を立てる」という流れ、あるいは真田の宇宙論⇒コスモウェーブという流れ、土方の指示による「殺虫剤」⇒艦長就任依頼加藤と空間騎兵の対立⇒コスモウェーブを受けての和解透子の噂話⇒ホタルを仕掛けた透子、という流れ。前振りと、それに対応するシーンが必ずあるわけです。特に第10話の骨である、古代が決断に至るまでの流れは丁寧に描かれていると思います*2

 ですが本編では中央作戦室での古代の苦悩を薄めてしまったり、透子の噂話、真田の宇宙論、加藤と空間騎兵の対立、「殺虫剤」の土方の指示といった前振りのシーンカットした一方、これに対応すべきシナリオのシーンをそのまま描いてしまったことで、シナリオが期待していた演出上の効果が薄れてしまったと私は考えます。

 もちろん、本編も矛盾が生じないように構成しようとしている形跡はありますし、実際に矛盾はありません。ですが、それはただ20分にまとめただけ。シナリオが持っていたものを発揮するには至っていません。この辺りの手腕は絵コンテというよりは、絵コンテ段階までの構成まで介入する権限を持っていたはず(実際は分かりませんが)の脚本チームの責任もあるでしょう

 必要なものだけを取捨選択する時に、本当の実力というものは見えてくるのです(自戒)。

 

*1:キーマンは乱闘していないと思いますが。

*2:ただ、斉藤と古代の喧嘩の解釈はシナリオでも難しかった。ここは残された課題ですが、斉藤と古代の対立がヤマトクルーと空間騎兵隊員の対立に昇華されている部分に、何かのヒントがあるように感じています。