こんにちは。ymtetcです。
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第10話「幻惑・危機を呼ぶ宇宙ホタル」を振り返る連続シリーズ。今日は一応、その最後ということで、構成メモを読んでいきます。
そもそも、この第10話が『2202』の中でも特別な回である理由は、その「構成メモ」すなわちプロットの長さにありました。
福井●(略)そう言えば、第十話ってプロットが異様に長くて。
羽原●そうでしたね(笑)。
岡 ● 第九話までで一回吐き出し尽くした感があったんですよね。「もう大団円みたいだけど実際にはまだ1話あります」って福井さんの構成メモには書かれていて。その後に独立した形で第十話だけ送られてきたので、すごく丁寧に書かれていたし、それを読んで僕なりに感じたことを書き込んでお渡ししたんです。
実際に、『シナリオ編』にもこの第10話に相当する「構成メモ③改」は独立した形で収録されています*1。軽く通読してみたところ、大まかな構成は「シナリオ」と同様ですが、その骨となるエッセンスがどこにあるのか、改めて浮き彫りになっていると感じました。では、読み進めていきます。
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』「構成メモ③改」を読む
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概要
例によって、まずは全体を見渡していきます。
下に、「シナリオを読む」からコピペした文字列を置きます。そして「構成メモ」を通読し、そこに入っていない要素はこのように打ち消し、「構成メモ」にのみ入っている要素をこのように追加して、「シナリオ」と「構成メモ」の違いを確認してみたいと思います。
ノルの訓練から、ガイレーンとズォーダーの会話、ゴーランドからの報告、ヤマトへの警戒、「不完全」なガトランティス、診察を受ける古代、「ヤマト女子部」と艦内トレーニングルーム、中央作戦室、桂木透子の噂、藤堂の通信、古代を案じる佐渡、ホタルの侵入、ホタルに酔うクルー達、斉藤と古代の対立、真田の宇宙論、加藤と空間騎兵の大乱闘、コスモウェーブ、波動エンジンの危機、殺虫剤、土方への艦長就任依頼、団結するクルー、キーマンと透子、テレサの出現、古代の決意、デスラーの復活。
赤字で追加した「ゴーランドからの報告」「ヤマトへの警戒」「『不完全』なガトランティス」「桂木透子の噂」は、要素としては「シナリオ」と「構成メモ」で同じことなのですが、舞台が異なることや順序が入れ替わっていることを踏まえて、新たに追加しました。
こうして全体を見渡した時に、シナリオは「構成メモ」に足し算する形で作られていたことが分かります。
では、以下にもう少しゆっくりと見ていきましょう。
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Aパート(相当)
「構成メモ」にはAパートBパートの区分はありませんが、便宜上、本記事では二つのフェーズに分けていきます。上の整理に沿って、「斉藤と古代の対立」までをAパートと仮定します。
まず、「構成メモ」にはノルの訓練シーンがありません。それに続くゴーランドとザバイバルの会話シーンもありません。では、「構成メモ」は冒頭シーンをどうデザインしているのかといいますと、
白色彗星帝国。守備艦隊のゴーランドから、ズォーダーはテレザート星の現状報告を聞く。
(『シナリオ編』246頁。)
ゴーランドからズォーダーへの報告、という形をとっています。ゴーランドが、テレザートは軌道上では自分の艦隊が、地上はザバイバルの陸戦隊が布陣していることを語り、「ガトランティスでも精強で知られる」自らの艦隊をズォーダーに誇ります。
その一方で、ズォーダーは第9話の出来事を踏まえて、ヤマトへの警戒心をつのらせています。本編ではガイレーンとズォーダーの会話として描かれたものですが(「偶然の介在する余地はない」云々)、この時点ではガイレーンが存在していないということもあって、ズォーダー本人の自問自答として描かれていますね。
また、「シナリオ」以降はゴーランドとザバイバルの会話で描かれた、ズォーダー以外のガトランティス人が感情を抱いているという描写。「構成メモ」でもこの要素は盛り込むように指定されていますが、ここの描写は曖昧で、映像化が難しくなっていると言えます*2。
この後、「シナリオ」と本編ではヤマト医務室へと視点が移動しました。「構成メモ」では、ガトランティスパートが終わると、すぐに中央作戦室での会議に移行します。もちろん議題は「このままテレザートに向かうのか、否か」です。シナリオとの相違は”白色彗星=ガトランティス”という構図が明らかになっていない、という点にありますが些細な問題です。それを明らかにするのは12話に譲り、10話の時点ではむしろ不確定要素を増やすことで古代を苦しませる判断をしたのだと思います。
会議で結論を見送った後、「シナリオ」以降は藤堂の通信を待ちますが「構成メモ」ではすぐに桂木透子の噂話に移行します。これも些細な相違で、恐らく第5話の和解があった以上は防衛軍の判断を仰ぐシーンも必要だ、となったのだと思います*3。
桂木透子の噂話(こちらは概ね「シナリオ」通り)の後、「構成メモ」はホタルの侵入シーンへと進みます。古代の精神的負担を案じる佐渡のシーンはありません。恐らく、「構成メモ」の段階では、中央作戦室シーンで描かれる古代の苦悩だけで十分と考えていたのでしょう(「シナリオ」で古代の苦悩が細かく描写されているのはその名残か)。ですがその後、古代が精神的に参っている様子を説明することも必要だ、と判断され、その結果、古代を案じる佐渡や雪を追加したのが「シナリオ」であり本編なのだと思います。個人的には、「シナリオ」通りの描き方であれば、中央作戦室の描写だけでも古代の苦悩を視聴者が理解することは可能だったと考えます。
怪しげな桂木透子の噂、古代の苦悩をよそに、斉藤は艦外でパワードスーツの訓練を重ねます。そんな時、ホタルが突然ヤマトを包みます。あれよあれよという間に(ここは本編通り)ホタルはヤマト艦内に持ち込まれます。
「構成メモ」の記述で重要なのは、「針路問題で頭がいっぱいの古代はそれを看過してしまう」(同上、247頁)という記述です。そもそもホタル騒動が始まった責任は、ホタルに対するクルーの統一的な対応を決めなかった艦長代理・古代にある、ということですね。これに対して、ホタル騒動を鎮静化させたのは土方の指示による「殺虫剤」だったわけで、”ホタル騒動の看過⇒土方の「殺虫剤」⇒艦長就任依頼”という大きな流れが作られていたことが分かります。
ホタル騒動の始まりから、センチメンタルになるヤマトクルー(古代含む)、真田の宇宙論は「シナリオ」とほぼ同様。
ハーモニカを吹く古代の姿を目撃した斉藤は、古代に喧嘩をふっかけます。
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Bパート(相当)
斉藤と古代の対立で重要なのは、そもそも喧嘩を古代にふっかけたこと自体が、斉藤にとっては古代の指揮官としての資質を確かめるために行ったことだった、ということでしょう。本編を観る限り、斉藤もホタルに魅せられてつい本音を吐き出したという雰囲気が伺い取れますが、「構成メモ」の段階はそうではありません。この時点の斉藤は、”ハートは熱く頭はクールに”といった感じで描かれています。
斉藤と古代の対立が加藤らを巻き込んで大乱闘に発生し、そのさなかにコスモウェーブが届く、という流れも「シナリオ」同様です。真田は先ほどの宇宙論(というより、死生観?)を古代守にぶつけ、古代守の「その違いを証明することはできないとおまえは知っている」(247頁)という返答に、真田は「相手が正真正銘の古代守だ」(247頁)と悟ります。真田が魂の存在を確信したということですから、ここは一つ、『2202』真田のキャラクターを読み解く上で重要な出来事だと思いますね。そして沖田と対面した古代は、「地球を発して以来の懊悩を吐き出し」(248頁)ます*4。
ここから波動エンジンの危機、殺虫剤、土方への艦長就任依頼、団結するクルーの大きな流れは「シナリオ」と同じです。特に、ここまで「構成メモ」を読むと、ヤマトクルーと空間騎兵隊の関わり合いが段階を追って描かれていることが分かります。初めは、艦内の噂話や針路問題などには”どこ吹く風”だった彼らが、ヤマトクルーとの大乱闘を経て、コスモウェーブを受け取って「ヤマトと運命共同体」(248頁)になる。第10話は艦内の人間模様を描く回だったと言えますが、”古代の苦悩”に加えて”空間騎兵隊とヤマトクルーの溝”も、もう一つの柱だったと言えそうです。
一方ヤマト艦内では、まだ今後の針路を確定できないでいました。古代が土方と話している間、他のメインクルーたちの話し合いは、「ここはやはり引き返した方がいいのか」と、地球への帰還に針が傾いていきます。
そして、時あたかもキーマンと透子が機関室近くで「逢瀬」をしていたさなか、謎の光がヤマトの前に出現。土方に「いまおれが艦長を引き受けたら、今度はおまえが敗けた男になってしまう。それでいいのか?」(248頁)と問われ返す言葉のなかった古代は、その報を聞いて第一艦橋に戻ります。そしてその時、光は「虚空に忽然と浮かぶ星の幻と、その前で祈る女性の姿」(249頁)へと形を変えます。
「自分たちがそうであるように、そこにも祈ることしかできない状況下に置かれた存在がある」(249頁)。そのことを目の当たりにした古代は、前に進むことを決意します。
そして、古代の決断に土方が、「さすがあんたの子供たちだ」(249頁)と呟く。こうして第10話は完結するわけですね。
総括
「さすがあんたの子供たちだ」という土方のセリフを読んでいて、思い出したセリフがあります。「これが終わったら地球を振り返るな、前を見ろ」。正確な引用ではありませんが、『2199』での沖田艦長のセリフです。
『2202』の第10話とは『2199』第7話に相当する回だったのではないでしょうか。
『2199』第7話では、赤道祭や地球との交信を通じてクルーの人間模様が描かれました。これに対して『2202』第10話では、ホタル騒動。どちらの回にも、故郷である地球を飛び立ってからクルーが抱えていたものをここで吐き出すんだ、という狙いがあるように思います。この辺りは『2199』第7話と比べながら論じてみると、両作品の差異が見えてきて面白いかもしれません。
話を『2202』に戻します。「構成メモ」を読んでいて感じたのは、(先述しましたが)この第10話には二つの柱があったということです。
一つは古代の苦悩。ホタルの持ち込みを看過したあたり、古代はまだ半人前の指揮官です。彼の苦悩を描き、ここで一皮むけてもらう。ここで自ら決断を下して一皮むけてもらわないと、土方を艦長には就任させられない。メタ的にはそんな意図があるように見えました。
もう一つは空間騎兵隊とヤマトクルーの溝です。なぜこれを解消しなくてはならないかというと、以下のようなドラマを組み立てなければならないからです。すなわち、第11話以降は桂木透子とキーマンという二人のスパイが、不穏な動きを見せ始めます。スパイ騒動というのは、クルー全員が一枚岩であって初めて展開できるものです。一致団結、一つの目標に向かって邁進するクルー、という前提があって初めて”異質な存在”が生まれ、それがドラマの主役となり得る訳ですからね。
この第10話から第22話に至るドラマの流れを、簡単に書いておきます。”空間騎兵隊との溝も解消され、ヤマトクルーは一致団結する。そこで透子のスパイ騒動が起こるが、解決する。第15話でキーマンが裏切るが、結局彼はヤマトを選ぶ。が、もう一人のスパイは一致団結したはずのクルーの中にいて……。” 空間騎兵隊との溝をこのタイミングで解消しておかなくては、作劇上、不具合が起きてしまうことが分かると思います。
さて、ここまで振り返って来た時に、第10話でもっとも優先順位が低いのはガトランティスに関する描写であることも分かります。ただ、第三章全体でということで考えますと、第9話で「悪魔」として描いたガトランティスの人間的な一面も第三章のうちに描いておきたかった、という意図は理解できます。
一つの案として尺を短くするならば、まずゴーランドがズォーダーに通信する。そこでテレザートの現況を語り、ノルの初陣が近いことも報告する。通信はそこで切れるが、ズォーダーは「給仕の美女」の目を介してゴーランドをしばし見つめる。ゴーランドが盟友ザバイバルとノルと共に何かの行動をしている(談笑でもよい)。それを見たズォーダーは物思いに耽った表情で「愛か……」と呟く。ズォーダーのその表情に重ねるように、画面は中央作戦室の古代の表情を映し出す。
これは後出しジャンケンに過ぎません。
本編『2202』の第10話は批判されがちですが、あれだけのボリュームがある「シナリオ」をほとんど矛盾なく20分で収めたアミノテツロさんはじめ監督・副監督らの手腕は評価されてもよい、と私は思います。アミノさんは『2202』の監督にという噂話もありましたが、それも頷けるというものです。
ただし、シリーズ全体を俯瞰した時に、どんな情報をこの20分で描き出すか。ここは脚本チームがサポートして取捨選択をしておかなくてはならなかったと思います。「構成メモ」だけでも他の回より長いのに、「シナリオ」は「構成メモ」に色々と足しているんですよね。『2202』の脚本を(読み物として)高く評価している私ですが、アニメの脚本として見れば、全体的に「引き算」が上手くなかったな、と感じています。確かに、引き算の方が圧倒的に難しいことではあるのですが。
ということで、第10話に向きあうシリーズは一旦ここで区切りをつけます。ただ私としては、もっと何か新しい視点が見出せたらよかったのに……というところで不完全燃焼な感覚もあります。とりあえず第10話に向きあう機会は終わりとしますが、もう少し何か考えろよと、自分にプレッシャーをかけているところです。