ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

『ヤマト2202』の「主人公の目的」私的改善案

こんにちは。ymtetcです。

今日は『ヤマト2202』の改善案を書く記事です。拙い改善案ではありますが、「ここを改善すべきだ」といった問題意識そのものは検討する意味があると考えています。

まず、皆さまはこの問いに明快に答えられるでしょうか?

少なくとも『2202』が公開されている間、私はこれに明快に答えることはできなかったと思います。

一般論として、物語には原則「主人公の目的」が設定されます。『宇宙戦艦ヤマト』(1974)や『宇宙戦艦ヤマト2199』であれば、「危機に瀕した地球を救うこと」が、「主人公(宇宙戦艦ヤマト)の目的」です。これは物語を衝き動かすエネルギーであり、『宇宙戦艦ヤマト』のような「旅モノ」であれば、主人公が旅に出る動機となるものです。

もちろん、『2202』にも「主人公の目的」は存在していました。それは最終話で丁寧に回収され、『2202』を一つの物語として成立させています。ですが、『2202』は果たしてそれをどこまで、私たち観客と共有できていたのか。この点について、私はいま少し改善点があると考えています。

「当たり前のことを当たり前にする」

『2202』の「主人公の目的」は、「当たり前のことを当たり前にする」でした*1

「当たり前のことを当たり前にする」とは何か。古代は、イスカンダルとの約束を守る」「助けを求める声に応じる」の二つであると語っています。

一見すると分かりやすく提示されている『2202』の「主人公の目的」ですが、実は、本編における描写は曖昧なものになっています。

故に『2202』は、古代に「波動砲は使わない」「テレサを解放する」とはっきりと宣言させることが必要だったのではないか、と考えます。

行動と動機の明確化

『2202』の「主人公の目的」である「イスカンダルとの約束を守る」「助けを求める声に応じる」とは、具体的には「波動砲を使わない」「テレサを助ける」と言い換えることができます。ですが、それは劇中で複雑に描かれ、結果、観客との共有が必ずしも十分ではなかったと考えます。

例えば古代は、波動砲の使用については発進前から悩んでいます。「使う」という選択肢が、有力なものとしてはっきりと描かれているのです。そして、目的地たるテレザートの存在そのものも曖昧ですし、名目は古代から防衛軍に提案した時点で「調査航海」です。その上、道中で複数回、ヤマトは「地球に引き返す」ことを検討します。このような状況で、果たして観客全員が、「ヤマトは何のために航海しているのか」を明快に答えられるのでしょうか。私はそうは思いません。

『2202』は、宇宙戦艦ヤマトとそのクルー、そして代表たる古代進が行う行動とその動機について、より単純かつ明確に描写することが必要だったと私は考えます。そのことが、「主人公の目的」を観客との間に共有することに繋がるからです。

明確な「目的」と「行動」が普遍性を生む

特に、序盤提示される「主人公の目的」は、実際に最終盤においてそれが実現されるか否かは別として、単純であればあるほど普遍性が高まると考えています。

前述した『ヤマト』と『2199』における「目的」とは「地球を救うこと」であり、これに即して「イスカンダルへと旅をする」という「行動」が設定され、物語が動き出します。『2199』テレビ版と同時期にアニメ化された『進撃の巨人』では「巨人を駆逐すること」、近年の話題作の一つ『鬼滅の刃』では「鬼となった妹を人間に戻すこと」が序盤の「目的」となり、これに即して主人公の「行動」(『進撃の巨人』:調査兵団への加入、『鬼滅の刃』:鬼殺隊への加入)が設定されてゆきます。

こうして見た時に、「目的」とは何も特別なことではなく、物語を進行する上でのごくごく基本的な枠組みの話であることが分かりますね。

この枠組みで、『2202』を改めて見てみましょう。『2202』における「目的」とは「当たり前のことを当たり前にすること」であり、これに即して「テレザートへと旅をする」という「行動」が設定され、ヤマトは発進します。

ですが、『2202』を観た観客は『2199』からの3年間で色々とあったらしい古代の悩む姿をいきなり見せられ、救難信号かどうかも曖昧なテレサの言葉に魅入られるヤマトクルー達の狂気を目の当たりにします。果たして、これで観客は登場人物たちと、航海の動機を共有することができたでしょうか。

リアリティと現実の狭間で

もちろん、冒頭から古代たちに「迷い」を抱えさせた『2202』のアプローチは理解できます。ヤマト帰還後、波動砲艦隊構想が既定路線となるのは現実的な設定です。『2199』の木星でその威力は証明済みですから、ヤマトがイスカンダルへ向かっている間にも、理論レベルでは研究が進んでいたはずです。

そして波動砲艦隊構想が既定路線となれば、古代らヤマトクルーが冷遇されるのも目に見えています。そして冷遇されたなら、彼らは『2199』のままのキャラクターではいられません。年齢を重ねた「ヤマト世代」の観客なら、冒頭からヤマトクルーが悩みを抱えていたとしても理解できるだろう……という読みもあったことと思います。

ですがそれは、作品の普遍性を確保する上では最善手とは思えません。先ほどの節で下線部を引いた「『2199』からの3年間で色々とあったらしい」という部分が、ここに関わってきます。

すなわち『2202』には、『方舟』(2014年12月)から『2202』(2017年2月)に至る3年弱の間、観客がどう過ごしていたかという視点が欠けていたのではないでしょうか。

『2202』以前、観客にとっては『方舟』こそが最新の『宇宙戦艦ヤマト』でした。若い世代ならともかく、ヤマト世代にとって3年弱は、長いようで短い時間です。劇中の古代たちには色々なことがあった3年間かもしれないけれど、観客にとっては特に変わることのなかった3年間だったかもしれません。すなわち、多くの観客にとって、時は『方舟』で止まったままなのではないでしょうか。だから『2202』冒頭のヤマトクルーの姿を見て、どこか『方舟』とのギャップを感じずにはいられなかった、と。

このような仮説を立てて見た時、『2202』は(『2199』よりも)『方舟』に続く『宇宙戦艦ヤマト』として、古代進たちヤマトクルーを『方舟』そのままのキャラクター像で描く必要があったような気がしてなりません。

『方舟』のヤマトクルーに訪れる危機と苦悩を描く

私は以上の問題意識から、『2202』はヤマト発進前に波動砲は使わない」「テレサを解放する」とヤマトクルーが明確に宣言する方がよかったのではないかと考えます。

具体的に書いてみます。

冒頭におけるヤマトクルーは、表向き『方舟』の思想をそのまま引き継いでいるように描きます。劇中時間では『2199』第25話第26話の方が後にはなりますが、あくまで観客にとっての最新話は『方舟』。こちらを強く意識しておきましょう。

『方舟』の思想をそのまま3年後の世界にも持ちこしているヤマトクルーは、「波動砲を使わなくても俺たちはやれる」「波動砲艦隊構想がなんだ」と口々に言うでしょう。そして、テレサの助けを求める声に応じて「彼女を助ける」と大義を掲げ、ヤマトを発進させる。

ところが、ガトランティスに直面して危機を迎えます。第7話ですね。ガトランティスの大艦隊を目の前に、クルーの脳裏には「波動砲」の三文字がよぎります。どこからともない「波動砲があれば……」の呟き。

これに対して、艦長代理・古代は「波動砲はある」と重々しく応じます。南部は憤るでしょう。あれだけ表向き「波動砲は使わない」と言いながら、艦長代理である古代は、クルーの命を守るためにどうしても波動砲を手放せませんでした。古代の抱えていた悩みがここで明かされます。

ここが個人的にはポイントです。すなわち、古代は決して悩んでいなかったわけではない。それでも自分の理想を信じて、表向き『方舟』と変わらない姿で振る舞っていた。こういうのも古代らしい描き方なのかな、と思います。

こうすることによって、観客は『方舟』から違和感なく物語に入り込みつつも、ヤマトクルーの「波動砲を使うか否か」の苦悩に共感することができるのではないでしょうか。自分たちが『方舟』のままではいられないということを、観客もまたここで実感する。冒頭から、『方舟』のままではいられなかったヤマトクルーたちを見せられるよりはずっといい。そんなプランです。

『2202』のヤマトクルーと『方舟』のヤマトクルーには、当然連続性はあります。ですが、『2202』は「『2199』からの3年間」で起きた出来事についてよくよく考え過ぎてしまったがために、冒頭から『方舟』の姿とは違うキャラクター像を描くことになった。ここに、観客と作品とのギャップを生んでしまったと考えます。

何せ観客はヤマトクルーと違い、『方舟』のままで止まっていたのです。ですから、何もしなければ観客は『2202』のドラマにいまいち乗ってはきません。彼らをどのように、『2202』の「理想」と「現実」をめぐるハードな人間ドラマに移行させるか。ここに一工夫が必要でした。

この問題意識の上で提案したのが、今回の「波動砲不使用宣言」案です。『方舟』で「波動砲がなくなって俺たちはやれる」と明確に言ったヤマトクルーですから、これを引き継ぐ。だが、航海中に危機に直面する。危機に直面して、クルーたちが今まで薄々感じてきた、けれど目を背けてきた苦悩と向き合う。

こうすれば、観客をより普遍的に、違和感なく『2202』のドラマへと移行させることができたと私は考えます。他にもっといいやり方はあるはずですけどね。

*1:これが如何にして最終話で回収されたかについては、過去記事「【ヤマト2202】最終話は絶対に必要なんです - ymtetcのブログ」で検討しています。