ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

真田を進行役にするということ:映画『ヤマトという時代』

こんにちは。ymtetcです。

私は2018年にブログを始めました。ゆえに、それ以前から『宇宙戦艦ヤマト』のブログを運営しておられる「先輩」に比べると、まだまだ新参者です。そして、本日の記事を書くきっかけをくださった「鮫乗り」様も、私が尊敬する「先輩」のお一人です。

不遜ながら、鮫乗り様のブログについて簡単に紹介いたします。

鮫乗り様のブログで取り扱われるテーマは、現在進行中のリメイク『ヤマト』シリーズだけでなく、旧ヤマトシリーズにも及んでいます。

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その魅力は、取り扱われているテーマの”前後左右の広さ”だと感じています。

前後の広さ、とは今申し上げたリメイクと旧シリーズの双方を取り扱っている点ですが、左右における広さも見逃せません。すなわち、旧シリーズを取り上げるにしても例えばロッテのお菓子に着目しておられたり*1、幻の作品『デスラーズ・ウォー』を取り上げておられたり*2、企画書を分析しておられたりと*3、とても刺激的でワクワクする内容が随所に盛り込まれています。私が今年一瞬だけ『ロマンアルバム』を引っ張り出してきたのは*4、実は鮫乗り様の「お宝発見」シリーズの影響です(笑)。

そして、こういった日頃の考察と情報収集の蓄積が、新作情報の公開に際して大きなパワーを発揮しているのも、鮫乗り様のブログの魅力だと思っています。

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今回、私がヒントをいただいたのがこちらの記事です。

映画『ヤマトという時代』に対する「(『2199』と『2202』を)ひとつの『ヤマトの歴史』として融合させるための作品」との表現が秀逸ですね。また、『2199』世界における火星の位置づけについては、これまで考察されてきた蓄積が改めて紹介されており、こちらにもかなりの刺激を受けました。

そして、今回参考にさせていただいた情報が、映画『ヤマトという時代』は真田を進行役として進める映画であるらしい、というものです。もちろん、まだ公式から提示されていない以上「確定」とは断言できませんが、重要な情報だと思います。

〇『2202』の真田「コピペ説」

さて、鮫乗り様より「『ヤマトという時代』は真田を進行役とするらしい」との情報を得て、真っ先に私は不安になりました。なぜなら、真田によるナレーション・説明を思い浮かべた時、頭に現れたのは、『2202』の冗長な説明台詞だったからです。

『2202』のSF設定はよく批判を受けています。これを掘り下げることは私にはできませんが、その批判の一端を、「真田の説明台詞」は確実に担っています。SF設定に詳しくない私にとっても、このいかにも「説明」然とした台詞は聞いていて居心地が悪く、その肝心の説明も、どこか要領を得ないものに感じられました。

その理由については、私の中で一つの仮説があります。それが名付けて「コピペ説」です。『2202』の作り手がコピー&ペーストをしていた、と言いたいわけではありません。

想像してみてください。調べ物を誰かに頼んで、その結果を説明してもらうとします。でもその人の説明は、専門用語がやたらと出てくるわりにどこかピンと来ない。聞けば、その人はネットで調べた内容を「コピペ」してきたのだという……このイメージです。これに似たことが、『2202』では起きていたのではないでしょうか。

すなわち、まずシナリオがあり、そこにSF設定の小倉信也さんが理屈をつける。ここまでは良かったのですが、これを映像化する際に、作り手が小倉さんの考えた設定を十分に理解しないまま、『2202』は映像化されてしまった。推測でしかありませんが、『2202』のSF設定にまつわる説明が要領を得ていないとすれば、その要因はここにあると私は考えています。言い換えるならば、『2202』は自分たちのSF設定を「自分の言葉」に変換できていなかったのではないでしょうか。

〇『ヤマトという時代』にあってほしいもの

裏を返せば、自分たちのSF設定を「自分の言葉」に言い換えて表現することができれば、映画『ヤマトという時代』は『2202』の課題の一つを克服し得ることになります。

具体的には、映画『ヤマトという時代』の作り手である福井さん(構成・脚本)、皆川さん(脚本)、麻宮さん(新規パート絵コンテ)*5、佐藤さん(ディレクター)がSF設定の理屈に対して共通理解をもつことができればいいと、私は考えています。

ここで私に希望をくれるのが、『2202』ノベライズです。『2202』を丁寧に小説化していった『2202』ノベライズは、映画『ヤマトという時代』の脚本の作られ方にもどこか似ています。福井さんが示した大きな航路図に残された「隙」を、皆川さんが微に入り細を穿つやり方で埋めていくあの作り方です。

『2202』ノベライズのクオリティを支えていたのはもちろん著者である皆川さんの努力ですが、ノベライズには『2202』本編と決定的に異なる点があります。それは、ノベライズが小倉さんのSF設定に全面的に依拠している点です。その結果、”文字で説明できる”とのアドバンテージはあるものの、ノベライズは『2202』のSF設定について、本編よりも要領を得た説明がなされていたものと考えます。

言い換えるなら、『ヤマトという時代』で脚本を担当する皆川ゆかさんには、「小倉さんのSF設定を分かりやすく小説に盛り込んだ」実績があるのです。この「小倉⇒皆川」ルートの利点を最大限に活かすことができれば、『ヤマトという時代』は『2202』本編よりも、「わかりやすいSF作品」になることは間違いないでしょう。

〇限界もある

ですが、実のところ、このやり方には限界があります。

脚本のストーリーにSF設定を後付けすることが中心になっている現在の仕組みでは、「SF」の要件を満たすことができても、「面白いSF」の要件を満たすことはできません。なぜならば、SF設定が付される以前の脚本が絶対的となっている時点で、「SFならではの面白さを持つ脚本」を提示することはできないからです。

「SFならではの面白さを持つ脚本」を作りだすためには、ある程度SF設定・考証サイドがスタッフ全体の中で尊重され、主体性を持てるようになる必要があります。そうなれば、「面白いSF」が誕生する可能性は高くなってきます。

しかし、設定・考証サイドが力を持ちすぎるのも問題です。「ぼくのかんがえた最高のSF設定」を羅列することが、SF作品の使命ではないはずだからです。大切なのは、パワーバランスだと考えます。

設定・考証サイドは脚本の流れを尊重しつつも、客観的に合理的ではない事象に対しては修正を加え、「面白い」と感じた設定・考証アイデアはどんどん提示する。脚本サイドは設定・考証を尊重しつつも、あくまで自らの脚本の軸を守り抜き、「面白い」と感じた設定・考証は積極的に盛り込む。こういった微妙なバランスをとりつつ、両者が「面白い」と思えるものを追求していくことが、理想的な制作チームのあり方なのだと思います。とても難しいことですけどね。

〇おわりに

ということで、今回は鮫乗り様の記事にヒントをいただいて、つらつらと「あったらいいな」を書かせていただきました。

私はSFの専門ではないので深く掘り下げることはできませんが、SF設定がとてつもなく批判された『2202』にあって、本作がそうなってしまった背景にはとても興味があります*6

その中で、今日「あったらいいな」とお話した「スタッフ間で共通認識を持とう!」は、ごくごく基本的なことです。SF設定として整合性があるかどうかも大切ですが、それ以前に、観客に届けるためには「わかりやすい」ものではなくではなりません。そのために必要な第一歩こそ、今日お話した「自分の言葉で説明すること」でしょう。

逆に言えば、それがなくてはいくら真田を進行役にしたところで意味がありません。真田、というより大塚芳忠さんの声がもつ「説得力」を最大限に活かすためにも、基本的なところから丁寧にお仕事を進めていただいていたらいいな、と思っています。

 

改めまして、今回は鮫乗り様の記事なくしては書き始めることさえできませんでした。内容的には、あまり鮫乗り様のブログ記事に触れられなかったことが心残りではありますが、それはまたの機会にと、今後の自分に期待を寄せておきたいと思います。

鮫乗り様には重ねてお礼申し上げます。ありがとうございました。

blog.livedoor.jp

今後とも一読者として、こちらのブログを楽しみに読ませていただきます。

ymtetc

*1:宇宙戦艦ヤマト「栄光の軌跡」ロッテ編 : 鮫乗りのBlog

*2:お宝発掘:デスラーズ・ウォー『敵宇宙軍各メカ』 : 鮫乗りのBlog

*3:宇宙戦艦ヤマト企画書「第一稿」について : 鮫乗りのBlog

*4:”パート2”としての『さらば宇宙戦艦ヤマト』と『ヤマト2202』 - ymtetcのブログ

*5:麻宮騎亜™@KIA_ASAMIYA 【太陽系SF冒険大全 #スペオペ!】単行本3巻10/30発売! on Twitter: "総集編『「#宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』
メインスタッフには表記されてませんが、新作シークエンスの絵コンテとキャラクター以外の全てのカットのレイアウト・原画を担当しております。よろしくお願いします。m(_ _)m
https://t.co/LMCyWyASFr #yamato2202 #ヤマトという時代… https://t.co/BFOJz3jhFz"

「表記されていない」との件ですが、絵コンテ・レイアウト・原画のそれぞれの役職はこれまでのリメイク『ヤマト』ではメインスタッフに位置づけられていなかったので、公式サイドにも他意はないと思います。ただ、それらを全て兼ねるというのは大きなお仕事ですので、個別の役職ではない何らかの「ディレクター」的な役職を麻宮さんに割り振ることはあってもよかったのかもしれません。そうすれば、メインスタッフとして表記できたはずです。

*6:ヤマト2202のSF設定って全て間違いなんですか?――新仮説その3 - ymtetcのブログ