ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【ANN】『ヤマトという時代』冒頭(音声のみ)

こんにちは。ymtetcです。

先週金曜日のオールナイトニッポン「『ヤマトという時代』スペシャル」で『ヤマトという時代』冒頭5分の音声が放送されました。

今日は、公開された音声の概要を紹介し、またそれにコメントを付していきたいと思います。

〇公開された音声の概要

冒頭5分は、同番組開始から35分40秒ほどが経過した時点でスタートしました。

まずは、「我々は月に行く」と述べたケネディ大統領の演説をバックに、アポロの打ち上げシーンが描かれているようです。

youtu.be

そこにナレーションが重なります*1。予告編にもあった人類史の概説ですが、予告編の内容に加えて「富の集中による経済の格差」や「思想・宗教・国家間の対立」との観点が盛り込まれている点が注目されます。

ナレーションはさらに、西暦2145年の出来事へと移行します。ナレーションによると、「200年世界大戦がなかったこと」を記念して、世界各地で式典が行われたといいます。その式典には「人類同士が争った時代を忘れない、二度と繰り返さない」とのメッセージが込められていたようです。世界各地で先の世界大戦にまつわる遺物の復元と鎮魂イベントが行われ、極東では戦艦大和が復元されました。そして戦艦大和は、永遠の眠りにつくはずでした。

ですが、22世紀末、地球人類はかつてない試練に直面します。地球外生命体との初めての接触と戦争。それは、次の時代を迎えるきっかけとなったのです。ここに「宇宙戦艦ヤマト」の時代がやってくる――。

という形で一旦ナレーションが終わり、真田が登場します。ここまでは番組のオープニング、ここからは番組の本編、といった雰囲気です。

真田は、地球人類は早くから異星人類の存在に気づいていた、と語ります。その証拠は火星にありました。火星に異星文明のものと思われる宇宙船が漂着。火星で造られた船は、地球の技術を超越したものでした。火星が異星文明の技術を利用して軍事力を発展させたのではないか……そんな疑惑が浮上した、と真田は語ります。

火星に漂着した異星文明のものと思われる宇宙船は、明らかに戦闘のための兵装を備えていました。それは、この宇宙のどこかに、戦いを知る人類がいるという事実を示しています。

火星の自治権をめぐる争いが内惑星戦争となり、200年世界大戦をしなかった人類は、宇宙という新世界で、再び大規模な戦争を繰り返すことになりました。国連宇宙海軍はこの時創設され、地下都市の建設も進んだそうです。

内惑星戦争が終わった今となっては、内惑星戦争は地球政府にとって、その後に予期された異星文明との戦争の予行演習であったという説さえ唱える人もいる……と真田は語ります。

〇コメント

ざっくりこんな内容だったのではないかと思います。文字起こしをしたわけではなく、極めて単純にメモをとっただけです。なので、ニュアンスを間違えているところもあるかもしれません。

今回公開されたのは、『ヤマトという時代』が語る20世紀、21世紀の歴史と、内惑星戦争をめぐる真田の語り部分でした。

これについて、いくつかコメントをしていきたいと思います。

・歴史語りについて

まず、20~22世紀の歴史解釈についてです。ここには、「人類は宇宙に進出するとともに、互いに争うことをやめていった」との大きな物語が据えられています。

そんな単純な話があるかよ、とツッコミを入れるところです。

ただ、ここは個人的に、すごくリアリティを感じました。というのも、歴史語りは”分かりやすさ”を求めるあまり、しばしば単純化される傾向にあるからです。特にこれは、23世紀初頭から見た20~22世紀史なんですね。これは21世紀を生きる我々からすれば、18~20世紀の歴史に相当します。私たちはこの頃の時代や物事の因果関係を単純化して捉えてはいませんか? それと同じことが「西暦2205年のNHKスペシャル」に起きているとすれば、それはとてもリアルですよね。福井さんや皆川さんの狙い通りだとすれば、これは面白いところを突いてきたなと思います。

さて、歴史の大きな物語に沿ってこのナレーションを読み解いていくと、物語は「人類は宇宙に進出するとともに、互いに争うことをやめていった」がガミラスとの出会いを期に人類は新たな時代を迎えることになった」、と繋いでいます。この新しい時代こそが「宇宙戦艦ヤマトという時代」であるとの位置づけです。

ここでは、真田の語りにある通り、内惑星戦争はガミラスとの戦争の前史に位置づけられています。内惑星戦争はその背後に異星文明の存在を意識しながら行われ、軍拡や戦時体制の整備も、来るべき異星文明との戦いの可能性に備えたものになっていったと。内惑星戦争こそ、地球人類が異星文明の存在を意識するようになった契機であり、それがガミラスに対する先制攻撃、開戦の背景になったと話が展開されていくものと思います。

この流れも、歴史語りとしてはありそうな展開だと思いますので、その意味ではリアリティがあります。もちろん、実際に地球側みんなが内惑星戦争を予行演習だと思って戦っていたとか、そんな単純な話ではありません。が、「後から考えればそうだったよね」みたいな見方をすることも、歴史語りではよくあります。

これは想像ですが、内惑星戦争を戦う中で、軍事・政治の中枢レベルの人たちが「異星文明と将来争う可能性もあるから軍備や戦時体制の構築には妥協しないようにしようね」、と話し合っていたと思うんです。それは決して、当時の中枢部が内惑星戦争を甘く見ていたわけではない。でも、実際に異星文明と戦争になったことを知っている後世の人間からすれば、内惑星戦争は異星文明との戦争の準備だったように見えてしまうわけです。歴史は得てして結果論で語られます。その意味ではやはりリアリティのある語りだったなと、個人的には思います。

戦艦大和について

懸案だった戦艦大和ですが、疑問は残りつつも、思った以上に悪くない筋書きになっていたと思います。

「200年戦争をしなかったこと」を記念して戦艦を復元する理屈が個人的になかなか理解できなかったわけですが、「世界大戦」の記念イベントであり、なおかつ世界各地で戦争遺物を復元しているという点、そして「鎮魂」の文脈を盛り込んだことで、それなりに納得できそうだと思いました。

このイベントは、ナレーションによれば二つのメッセージを持っています。一つは「先の世界大戦を忘れないこと」。そして「世界大戦を二度と繰り返さないこと」です。戦艦大和は前者の文脈で復元され、そして後者の文脈で何かをされています。

恐らく、戦艦大和は何らかの方法で封印(?)されたのではないかと思います。それは復元した大和をもう一度海に沈める、という方法だったのかもしれませんし、解体した可能性もありますね。

つまり、戦争遺物を復元し、もう一度それを沈没・解体することで、開戦と終戦を模擬的あるいは感覚的に人々に体験させる。戦争を忘れないために、敢えて戦争遺物を復元し、それを再び眠らせる。何事も、恐れるべきは風化です。この文脈の上で戦艦大和が復元されたのだとすれば、何となく納得はできるところです。

ただ、例えばアメリカ合衆国原子爆弾リトルボーイ、ファットマン)を復元・解体するイベントをやったと考えると、個人的にはあまりいい気がしないな、とも思います*2戦争遺物を復元する国家的イベントって、21世紀前半の現在だと間違いなく誰かに怒られますよね。でも、舞台は22世紀前半で、あの戦争は完全に歴史の遠い1ページと化しています。そのあたりは人々の価値観も変わっているのだと思います。こうなってくると、他の地域では何が復元されたのかも気になるところです。ドイツがナチスの遺物を復元するか? などと考えるとやはりモヤモヤが残りますが、これは21世紀前半のバイアスに過ぎないということで、置いておきましょう。

〇感想

やはり実際に形になったものに触れると、作り手のこだわりが否応なしに伝わってきて、とてもワクワクさせられますね。特に、私が個人的に不安視していた「文系のリアリティ」についても、かなりこだわって作っているのではないかと感じました。

文系のリアリティは、もちろん文献に基づいて組み立てることも可能なのですが、娯楽作品の枠内で突き詰めるとなると、どうしても「ありそう」「なさそう」といった感覚的なことが中心になってきます。そんな曖昧なディテールを詰めていくために必要なのは、作り手の視野の広さ(教養)しかありません。

その意味で、今回冒頭部分で取り扱ったテーマはとても作り手にとって試されるものだったかと思いますが、現状、上手く切り抜けているのではないでしょうか。

余談ですが、予告編のナレーションに「富の集中による経済の格差」や「思想・宗教・国家間の対立」が加わっていたのは福井さんらしいなと思いました。

また、戦艦大和復元イベントのナレーションは、旧作のナレーション「それは、戦争という目的で造られた戦艦の、悲しい運命であったのかもしれない。戦艦大和は、3000の兵と共に、やっと静かな眠りについたのであった」と重なる部分もあるのかな、とも思いました。もう一度戦艦大和を海に沈めるとすれば、もしかしたら旧作オマージュのカットが入ってくる可能性もあるかもしれませんね。

わずか5分でしたが、それだけでこんなに楽しめるんですね(笑)。公開してくださったことに、とにかく感謝したいです。ありがとうございました。

*1:いつものヤマト音楽も流れています。映画をドキュメンタリー風にするための新曲は作られなかったようですね。

*2:第二次世界大戦で果たした役割としては、必ずしも戦艦大和原子爆弾は並び立つものではありませんが。