ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【ヤマト2199】時代性の欠落がもたらしたメリット

こんにちは。ymtetcです。

前回の記事では『2202』を取り上げましたが、今日は『2199』を取り上げます。

『ヤマト2199』は00年代のうちに企画され、10年代に公開された作品です。

その『2199』を企画年や公開年をヒントに読み解くのは、少々難しいと言えます。なぜなら、『2199』はある特定の時代に向けた物語ではないからです。

『2199』に時代性がない……。私は以前、そのことを『2199』の課題として捉えたこともありました。ですが、そこには大きなメリットもあったのかもしれません。『2199』は無理に時代に適応しなかったことで、より普遍的な物語になることができたのではないでしょうか。今日は、それについて考えてみます。

〇2010年代の映画たちと『2199』『2202』

2010年代初頭から半ばにかけて、エンタメ映画の中にも、ポスト震災の時代を意識した映画がいくつか登場しました。早くも2012年冬、『エヴァQ』の一部に震災の影響が見られ、庵野さんの震災と日本社会に対する眼差しは2016年の『シン・ゴジラ』に結実しました。

その中で、2012年4月に第一章が公開され、2013年まで続いた『2199』は、ポスト震災の日本社会に対応する姿勢を見せませんでした。企画レベルの修正が不可能だったこともあり、脚本の大枠は00年代に作成された初期案を踏襲していました。さらに、完全新作となった2014年の『方舟』の作風にも変化はなく、むしろ『2199』は意図的に時代性を排除しているようにさえ思えました。

一方、脚本スタッフを刷新した『2202』は、うってかわって時代性の強化を志向しました。『2202』の企画は2015年4月。『2202』の企画には、当時世間を賑わせていた「IS(イスラミック・ステート)」問題や「集団的自衛権」問題(に付随する日米同盟のあり方に関する議論)の影響が色濃く見られ、シリーズ構成の福井晴敏さんは、『2202』をポスト震災の日本社会に送り出す物語だと各所で語りました

〇時代性と賞味期限

ここで、一つの想像をしてみましょう。

震災の影響を受けた映画として、私が頻繁に例示しているのが『シン・ゴジラ』や『君の名は。』といった2016年のヒット映画たちです*1。いずれも、従来の実績から想定することは難しいほどのヒットを見せた作品であり、私の中では強い衝撃をもって印象づいている映画です。

想像をしてみましょう。2016年にこれらの映画が公開されなかったとします。そして、全く同じ内容の映画が2026年に公開されたとします。

果たしてこの二作品は、2026年に初公開の映画であっても、2016年と全く同じようにヒットしたでしょうか?

私はしなかったと考えます。この二作品は2010年代だからこそ作られ、2010年代だからこそヒットした映画だと考えています。震災そのものが風化することはなくても、震災直後の日本社会が持っていた空気感は、時間の経過と共に、着実に過去のものになっていくからです。

つまり、これらの映画には賞味期限があり、それはとても短いのです。

〇『2199』の賞味期限

『2199』はどうでしょうか。

『2199』の作風は現代的ではあります。キャラクターデザイン的には00年代の影響が強いと思いますが、アニメーションの質としては無論、10年代のアニメとして通用するものでしょう。そして内容は、決して2010年代だけに向けたものではありません。

宇宙戦艦ヤマト』史という大きなスケールの中での「現代的」な作風をとった『2199』は、00年代に初公開であっても、10年代であっても、20年代であっても、似たような数字を残すのではないかと思います。

つまり、『2199』にも賞味期限はありますが、とても長持ちするのです。

『2199』は時代性を極めて弱めているからこそ、時代の流れに左右されない普遍的な魅力を持つことができたのではないでしょうか。

〇どうすべき?

『2199』のように時代性を弱めるのか、『2202』のように時代性を強めるのか。

正直なところ、どちらが正解なのかは分かりません。例えば『2199』が2015年前後のアニメで、同じクオリティで2010年代の時代を反映した物語になっていたならば、再び『宇宙戦艦ヤマト』が社会現象になった可能性もあるわけです。『2202』の作り手が物語に時代性を持たせようとしたのは、そんな可能性に賭けたからでしょう。でも『2202』は、公開からの10年で確実に賞味期限切れを起こしていきます。反面、『2199』は公開から10年近く経った今も、十分に通用する作品です。

かつて社会現象になった大シリーズ作の新作。作品作りの根本方針を決めるだけでも、大変な問題を抱えていることが分かります。

現在の『宇宙戦艦ヤマト』は、時代性をもった作品を志向することによって、常に「最新の『宇宙戦艦ヤマト』」をアップデートし続ける道を選んでいるようです。これからの10年をどう生きながらえさせていくか、見守っていきたいと思います。

 

*1:ちなみに、新海誠監督の次作にあたる『天気の子』(2019年)は、10年代後半に頻発した豪雨災害の影響を受けています。