ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

なぜ庵野版『ヤマト』は「そのまま」なのか

こんにちは。ymtetcです。

なぜ私は『シン・ヤマト』を観たくなったのか」で、私は「庵野版『ヤマト』が観たい!」と述べました。今日はその「庵野版『ヤマト』」について、考えてみたいと思います。

庵野版『ヤマト』は「そのまま」

庵野さんが『宇宙戦艦ヤマト』を作るとしたら、どんな作品になるか。それを探ることは容易ではありませんが、一つだけ、確定していると言ってもいいのが「そのまま」だという点です。

有名な話として挙げられるのが、岡田斗司夫さんが回想していた昔の話。西崎Pに呼び出された庵野さんと岡田さんは、新作ヤマトの話をもちかけられる。それに対して庵野さんは「第一作をそのままリメイクしたい」と述べ、西崎Pに「違うな」と否定される。そんな話です。

同じ時期の話で言えば、『不思議の海のナディア』(総監督:庵野秀明)における『宇宙戦艦ヤマト』発進シーンへのオマージュも有名です。ここでは、漫画版の台詞なども引用しながら、宇宙戦艦ヤマト』発進シーンを再現しています。『ナディア』における『ヤマト』オマージュは『エヴァQ』に受け継がれました。

また後年、『ヤマト2199』でオープニングの絵コンテを担当した際も、

(略)オープニングのオファーがきた時は、“オリジナルのまま作るよ”と出渕さんに伝えましたが、それでもいいとのことで引き受けました。(略)

庵野秀明「ヤマト 2199は一番楽しみにしているアニメ」 - AV Watch

と述べています。『2199』のオープニングは庵野さんと出渕さんの連名ですが、前半部の旧作を再現した箇所が庵野さんの絵コンテ、後半部が出渕さんと言われています。

このように、庵野さんの『宇宙戦艦ヤマト』に対するスタンスは、ひたすら「そのまま」を実現しようとしていると言えます。

〇なぜ「そのまま」なのか

庵野さんの「そのまま」へのこだわりは『ヤマト』だけに限りません。それを示すエピソードが、『シン・エヴァ』のライナーノーツに載っていました。庵野さんが劇中で過去作品の音楽を引用する際、鷺巣さんはいつも「完コピ」版と「好きにしたやつ」を録音しているそうですが、庵野さんが選ぶのは決まって「完コピ」版だそうです。

ではなぜ、庵野さんはそこまで「そのまま」にこだわるのか。

岡田斗司夫さんの『シン・エヴァ』解説に、興味深い話がありました。岡田さんは庵野さんがなぜオマージュを自分の作品で連発するのか、を語っておられました。

(略)庵野秀明は大真面目なんですよ。何かする時は儀式がないと魂が入らない、この呪的な世界に庵野秀明は生きていて、(略)アニメを作る時にも儀式が必要なんですね。(略)「おまじない」が必要、と。その「おまじない」というのは、庵野秀明を作っているパーツですね。過去のアニメを自分の手でアニメ化するという儀式が必要なんですよ。過去の作品をわざわざ(略)なんで完全に再現しようとするのかっていうと、それを自分のアニメの中で再現することで、呪的な力を得ようとしているわけですね。パロディではないんです。自分の魂をアニメという器に受肉させようとしているんですけどね。(略)

(43:26~)シン・エヴァ完全解説〜ネタバレなし&有りのダブル解説〜観る前と観た後で10倍面白くなります! 岡田斗司夫ゼミ#386(2021.3.14) / OTAKING Seminar #386 - YouTube

庵野さんがオマージュを連発する、それも完全再現に近い形でオマージュを盛り込んでいる理由は、庵野秀明を作っているパーツ」である「過去の作品」、ひいては「自分の魂」を作品に込めるため、だと岡田さんは言います。

この考察は、庵野さんが「そのまま」を志向する理由を考える上でも、当てはまる話だと思います。

〇「魂」を込めるため

「面白い」と思うものを作ろうと考える時、そこには自分が過去に好きだった作品の影響がある。それは自然なことだと思います。鶏が先か卵が先かは分かりませんが、自分の感性と自分の好きな作品には密接な関係があります。

庵野さんが、自分の作品に自分が好きだった作品のオマージュを入れることで「自分の魂」を込めているのだとすれば、庵野さんが作ろうとする『ヤマト』が「そのまま」を志向するのも、同じ理由なのではないでしょうか。

すなわち、旧作をそのまま新作へ移植(=作品全体で旧作をオマージュ)しなければ、岡田さんの表現を借りれば「魂が入らない」。だからこそ、庵野さんは「そのまま」を志向しているのだと思います。