ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【第12話】二人の怒りの矢印『スターブレイザーズΛ』メモ

こんにちは。ymtetcです。

 

『スターブレイザーズΛ』第12話「ブリーチ」が公開されました。

comic.webnewtype.com

アイシャ回ではありますが、私はそれ以上に、ニーナとマリナの喧嘩が刺さりました。そこで今日は、二人の喧嘩について考えていきたいと思います。

〇二人の喧嘩はなぜ「面白い」のか

私はTwitterで、ニーナとマリナの喧嘩に対して「面白い」と書きました。何が面白いのかな、と一日おいて考えてみたところ、一つの結論が出ました。

それは、二人の喧嘩=戦いが、それぞれのパーソナリティや人生と密接に結びついているからです。

〇事の経緯

二人の喧嘩の発端は、ハロウィーンでの会話にありました。ユウのためにこだわりの茶碗蒸しを密かに振舞ったニーナを、マリナが茶化す。それに対して、ニーナが怒り、「絶交」。

マリナもニーナに対して怒り、喧嘩になりました。

この時の二人の感情について、一人ずつ追いかけていきます。

〇ニーナの抱える矛盾

『Λ』はニーナに、二つのパーソナリティを与えています。

  • トップネスのリーダーとしてのニーナ
  • forty-nine(ユウ)への想いを抱えているニーナ

です。実はこの二つは、少なくともニーナの中では矛盾しています。ニーナは理想のリーダー像として、どこかドライで理性的、作戦遂行ただそれだけを目指して判断を下す存在であるべきだと考えているフシがあります。一方、ユウへの強い個人的感情を抱えている自分自身についても、ニーナは自覚しています。

ゆえに、ニーナは「リーダー」としての責任感ゆえに、ユウにどこか想いを寄せている自分自身に対して、どこか後ろめたさを感じているのだと思います。言い換えるなら、ユウに対する気持ちを”いけないもの”だと信じ込んでいる。でもやっぱり、ユウに喜んでもらおうと行動してしまう。

ニーナが心の中で抱え込んでいる矛盾が暴露された出来事こそ、あのハロウィンイベント。ニーナがマリナに怒っているのは、図星だからなのです。ニーナはマリナに対して以上に、自分自身に対して怒りを覚えているのではないでしょうか。

〇マリナが味わった衝撃

一方、一見するとニーナに対して怒っているように見えるマリナも、実は自分自身に対して失望し、怒っていると考えます。

そのことを示すのが、ユウとリンネがいつものように言い争いをした場面です。痴話喧嘩的なお約束の場面ですが、ここでマリナは普段と違う行動をとっています。いつもなら二人を茶化したはずのマリナは、ただ黙ってどこかを見つめているのです。

マリナの本音が漏れだしたセリフがあります。「確かに私が悪かったかもしんないけど」「私ってジャマだよね」。これこそ、マリナの心の奥底にある本音なのです。

マリナの立場から見れば、あのハロウィンでの言動は、いつもと変わらない「普通」のもの。ところが、それがニーナを傷つけてしまった。マリナはそのことにショックを受け、処理できないでいるのです。マリナは、ニーナがマリナを避けて謝らせないようにしていることに対して怒っています。つまり、マリナには謝るだけの気持ちがある。それでも、謝ることができないようにニーナが仕向けているから……と。これはある意味、自分の失敗を処理できない焦りからくる怒りだと言えます。

”やっちまった”自分自身への失望と、問題の解決ができないことへの焦り。マリナもまた、怒りの矢印は自分自身に向いているのです。

〇『Λ』らしさ

今回の二人の喧嘩を読みながら、どこか『Λ』らしさを感じていました。

これまでの『Λ』は、セイレーネスとの戦いの中で、キャラクターたちの人生を描いてきました。そして今回の喧嘩も、二人にとってはある意味で戦い。

ニーナの怒りは、ニーナ自身の人生やパーソナリティに由来するもの。マリナの怒りは、自分の「普通」が誰かを傷つけたことへの失望に由来するものです。この二人の戦いは、これまでの『Λ』と同じように、二人の人生が根底で関わっている。その意味で、ある種とても『Λ』らしい喧嘩劇だと言えます。

特にマリナの怒りは、これまでメインになってこなかった彼女の人格に触れ得るものであり、展開次第ではキャラクター像を大幅に広げてくれるものだと思います。実際には作られないでしょうが、例えばマリナが今のキャラクターになるまでの過程を描くだけで、立派なエピソードになり得るでしょう。

アイシャがメインの回ではありますが、二人のぶつかり合いもまた、『Λ』に深みをもたらす重要な役割を果たしているのではないでしょうか。