こんにちは。ymtetcです。
いよいよ、9月27日に発売を控えた『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』。Amazonからの発送メールも届き、いよいよ、といった感じです。
さて、「アクエリアス・アルゴリズム」カテゴリを覗いてみても分かるように、当ブログではこれまで、あまり(『Λ』や『2202』ほどには)『アクエリアス・アルゴリズム』を取り扱ってきませんでした。大した理由はありません*1。ただそのせいか、作品の情報を十分に収拾できていなかったと最近気づきました。
そこで今日は、ここまでの『ヤマトマガジン』に掲載されたスタッフインタビューを整理しつつ、『アクエリアス・アルゴリズム』について考えていきます。性質上、人によっては「ネタバレ」と感じる部分が多々あると思いますので、予めご了承ください。
「『アクエリアス・アルゴリズム』とは何か?」と問いを立ててみた時、まず第一に想定される答えとしては「『完結編』と『復活篇』を結ぶ新作オリジナル小説」でしょう*2。著者の高島雄哉さんも、企画当初から「『宇宙戦艦ヤマト 完結編』と『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』の間を埋める物語として構想」していたと明言されており*3、『完結編』と『復活篇』の間であることがとても重要な企画だったことが分かります。
ですがこれは、あくまで作品の、劇中世界における時系列的な立ち位置を説明したものでしかありません。では、第二の答えを探してみましょう。
次に想定されるのは……いきなりですが、管見の限りは見つかりませんでした。私はここが、一見すると隙のない、完ぺきな作品に見える『アクエリアス・アルゴリズム』の数少ない弱点なのではないかと思います。つまり、物語の軸が少しだけ、曖昧なのですね。
では、第二の答えは本編の中から探してみることにしましょう。
『アクエリアス・アルゴリズム』の物語は、過去に重大なトラウマを抱えつつも、平穏な日常を送る古代進の描写からスタートします。そんな古代の家を真田志郎が訪れ、「ヤマトが見つかった」と告げます*4。そこで真田は「ヤマトと沖田艦長の今を、その目で確かめて来てくれ」と古代に依頼し*5、古代は雪、北野、徳川、美雪、パピライザーと共に、ヤマトと沖田艦長の眠るアクエリアス氷球に向かいます*6。その過程で古代たちは様々な人々と出会い、様々な困難に直面する……。これがおおよそ、『アクエリアス・アルゴリズム』です。
古代が「ヤマトと沖田艦長の今を、その目で確かめ」ようとして物語がスタートしたわけですから、『アクエリアス・アルゴリズム』は、古代進と亡き沖田艦長を軸に読み進めていくのが王道だと私は考えます。
実際に、高島さんはこう語っています。
高島●大きなところでいえば、古代が語る沖田艦長との想い出話のくだりがそうですね。連載版では、物語の中盤あたりに配置しましたが、書籍版ではもっと膨らませて、冒頭にプロローグとして書いています。(略)だから沖田艦長を軸に、残された古代たちクルーの物語であるという点が、より強調されたと思います。
(『STAR BLAZERS ヤマトマガジン 12号』株式会社ヤマトクルー、2021年8月、43頁。太字は引用者。)
高島さんは「沖田艦長を軸に、残された古代たちクルーの物語である」と語っていますよね。
さらに、高島さんの言葉で注目すべきなのは、「古代が語る沖田艦長との想い出話」が、連載版の中盤から、書籍版の冒頭へと移動されていることです。私はまだ書籍版を手にしていないので確かめられませんが、この配置転換によって、『アクエリアス・アルゴリズム』はより一層、隙のない作品になったのではないかと私は考えます。
本作は設定面のディテールはもちろん素晴らしく、物語の構成も、キャラクターの対比や配置、シーンとシーンのつながりなど、読者を惹きつけるための工夫が随所に凝らしてあります。しかし一方で、私はこの作品はどうも「つかむのが難しい」と感じていました。その理由はいろいろと考えられるのですが、一つに、「古代進の行動原理が過去のどの出来事に由来するのか、見えにくかったから」というものがあると考えています。「ヤマトと沖田艦長の今を、確かめ」る、という行動に古代を突き動かしているものが一体何なのか、見えにくかった。だから、古代が一体どんな思いで沖田とヤマトに向き合おうとしているのか、なかなかつかめなかったのです。今回、書籍版の冒頭に「古代が語る沖田艦長との想い出話」が移動したことで、それが見えやすくなったのではないかと思います。ここは書籍版に期待したいですね。
ここから先はネタバレになってしまうので具体的な引用を避けますが、『アクエリアス・アルゴリズム』を読み進めていく上で、敢えて注目する点を絞るとすれば、まず、古代進がどんな思いでヤマトと沖田艦長に向き合おうとしたのか。そして実際に対面した時、古代がどんなことを感じ、どんな決断を下すのか。
古代がヤマトを訪れ、沖田と対面する場面は、本作の名場面の一つです。この場面だけでも、『アクエリアス・アルゴリズム』には唯一無二の価値があると言ってもいい。このあたりのドラマがどう書籍版で整理されているかを、楽しみにしたいと思います。