こんにちは。ymtetcです。
〇ご報告
【ご報告】……が遅くなりましたが、FGT2199さんと同じく、私ymtetcも『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』の献本をいただくことになりました。(続く) pic.twitter.com/B3hUMRvZTy
— ymtetc (@ymtetc) 2021年9月26日
ツイートにあります通り、『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』の献本をいただくことになりました。
私が拝読するのはこれからになりますが、随時、話題にしていきたいと思います。
今日は、『アクエリアス・アルゴリズム』にも通じる「復権」という言葉について、考えていきたいと思います。『2205』シリーズ構成の福井晴敏さんが多用する表現ですが、「復権」はこれからの『宇宙戦艦ヤマト』のキーワードになるのではないか。私はそう考えます。
〇福井晴敏さんが繰り返す「復権」
先日の『ヤマト2205』完成披露舞台挨拶で、福井晴敏さんは『2205』を「古代進の魂の復権の物語」だと語りました。
「『宇宙戦艦ヤマト2205』では、古代がまた違った苦難に向き合ったときに、『宇宙戦艦ヤマト2202』を含めた古代進の魂の復権の物語にしようということを、一番最初に決めました」と、「宇宙戦艦ヤマト2205」のポイントを明かした。
ここで注目されるのが、「復権」です。
ふっけん
【復権】
《名・ス自他》有罪・破産の宣告によって失った権利・資格をとりもどすこと。比喩的に、一度だめだとされたものが、見直されて日の目を見ること。(Oxford Languagesの定義、太字は引用者)
福井さんは以前より、「復権」という言葉を多用します。『2202』公式HPに掲載されたこの一節が、比較的よく知られているのではないかと思います。
”愛”は決して無力でも、凶器に転じる危険な言葉でもない。過酷な現実と折り合い、時に修正を促すための力――ヒューマニズムの極致として、我々一人一人が強く意識していかなければならない、それこそ生物学的な本能として与えられた力なのだということの再話。自らが語り、自らが壊してしまったメッセージを再び語り得た時、ヤマトの真の復権が為されるものと確信します。
(「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(仮)企画メモ」『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち -全記録集- シナリオ編 COMPLETE WORKS』KADOKAWA、2019年、220頁。太字は引用者。)
さて、私は従来、ここで福井さんが語った「ヤマトの真の復権」を「『2202』を『2199』以上にヒットさせること」⇒「社会現象レベルの興収を残すこと」だと考えてきました。
G:(略)「2199」は昨今のアニメ作品としてはかなりのヒットだったと思いますが、メッセージの中で「真の復権」と書かれているということは、復権はなっていないとお考えということでしょうか。
(略)
福井:(略)当時の「宇宙戦艦ヤマト」というのは、知っている人なら「見た?」「見た!」という感じだったんです。それこそが「社会現象」ということだし、「さらば」の観客動員数400万人という数字なんです。
(略)そうやって考えてみると、「さらば」以降に作られた完結編などを含めて、復権はされているでしょうか。一度上った高みまで再び上り詰めて、そこを越えなければ。少なくとも、同じところまで達しなければ「復権」とは言えません。今この時代に作る意味がある「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」シリーズ構成の福井晴敏さんにインタビュー - GIGAZINE
このインタビューで福井さんの用いた「同じところまで達する」を、私はあくまで売り上げに限った話だと考えていたのです。
ですが、今回『2205』に対する福井さんのコメントを見て、福井さんの用いる「復権」にはもっと違うニュアンスが込められているのではないかと思いました。
〇福井さんの語りからみる「復権」
それは、「復権」という日本語が持つ「一度だめだとされたものが、見直されて日の目を見ること」というニュアンスです。すなわち「復権」とは、単純な売り上げの話ではなく、社会に生きる人びとが持つ認識の話なのではないか、ということ。
『2202』の「企画メモ」にはもう一か所、「復権」という表現が使われた一節があります。
我々が今一度”愛”をテーマに据える根本理由は、今という時代において、かつてヤマトが発信した”愛”の再定義と復権こそが急務であるという確信に他なりません。
(「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(仮)企画メモ」『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち -全記録集- シナリオ編 COMPLETE WORKS』KADOKAWA、2019年、220頁。太字は引用者。)
この「愛」という言葉はいろいろと誤解を招くので、ここからは「ヒューマニズム」という『2202』の解釈に置き換えていきましょう。
➀一般に人間的(ヒューマン)なことを尊重する思想。
(『広辞苑』第六版)
福井さんは『2202』の「企画メモ」で、かつて『ヤマト』が日本社会に発信した「ヒューマニズム」の「復権」こそが急務であると述べていました。
そこまでの記述では、『ヤマト』の発信した「ヒューマニズム」がいかにして日本社会にムーブメントを巻き起こし、そしていかにして「ヒューマニズム」が日本社会に受け入れられなくなったのかを説明しています。
この文脈を踏まえれば、「ヒューマニズム」の「復権」とは、かつて『ヤマト』が日本社会に発信した「ヒューマニズム」が再び日本社会に受け入れられるようになること。つまり、「ヤマトの復権」とは、『宇宙戦艦ヤマト』という存在が再び日本社会に認識されるようになることと定義できるのではないでしょうか。
〇『アクエリアス・アルゴリズム』と「復権」
そして、冒頭に言及した『ヤマト黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』も、この「復権」という言葉で解釈することができると考えています。
なぜなら『完結編』、『復活篇』をめぐっては、メタ的なものまでを含めておおよそ三つ、「復権」すべき「宇宙戦艦ヤマト」が存在しているからです。
それは、
- 時に「蛇足」と批判を受ける、『復活篇』を含めた『さらば』以降の『宇宙戦艦ヤマト』作品の「復権」
- 現在はリメイクシリーズの陰に隠れてしまっている、旧『宇宙戦艦ヤマト』作品の「復権」
- 『完結編』から『復活篇』に至る17年の間に、劇中社会で忘れられていくであろう「宇宙戦艦ヤマト」という存在の「復権」
です。1と2はメタ的な『宇宙戦艦ヤマト』の「復権」、3は劇中世界における宇宙戦艦ヤマトの「復権」。
特に現実世界において『完結編』と『復活篇』は、『「宇宙戦艦ヤマト」』という存在が、シリーズ史上最もその価値を低く見なされた作品であったと言ってもいいでしょう。そして劇中世界においても、ガミラス戦争で地球を救ったヤマトを簡単に忘れ去った市民たちが、容易に「ヤマトの復活」を願うようになるとは思えない。だから『アクエリアス・アルゴリズム』本編は、人々の心から消えつつあった「宇宙戦艦ヤマト」が、再び人々の心に「復権」していくまでのドラマを含んでいるわけです。
『アクエリアス・アルゴリズム』は、劇中世界において、かつて『宇宙戦艦ヤマト』と『さらば宇宙戦艦ヤマト』が展開していたような「忘れ去られた存在の復活」物語を再話し*1、現実世界においても「忘れ去られた存在」である『完結編』『復活篇』を「復活」させることを目指した作品だと言えるでしょう。その二重の意味で、『アクエリアス・アルゴリズム』は極めて「ヤマトらしい」作品であると私は考えます。