ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【ヤマト2205】は誰向けだったのか

こんにちは。ymtetcです。

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今日は2020年4月に書いた記事の答え合わせです。

結論から言えば、『2205』のコンセプトはおおむね、この記事と似たようなものでした。旧『新たなる旅立ち』をリメイクする以上、他の方針をとりようがないんですよね(笑)。

ということで、今日は改めて『2205』のコンセプトについて考えていきます。

〇『2202』から『2205』へ

そもそも福井さんは『2202』の時、『愛の戦士たち』をリメイクすることによって「旧ファン」の動員を重視しつつ、「新規ファンの動員にも成功」することを目指していました。

我々は近作の『機動戦士ガンダムUC』において、やはりニュータイプという形骸化し、以後のシリーズでは顧みられなくなった言葉をテーマに据え、旧ファンのみならず新規ファンの動員にも成功した実績があります。

(『2202 全記録集 シナリオ編』220頁)

一方『2205』では、明確にアプローチが変わっています。

これからいよいよ老年に差し掛かるファン第一世代には郷愁と活力を、『2199』以来の若いファンには現在進行形の並走する青春を。そして、両者が隔てなく感じているであろう生き辛さに対して、それでもがんばろうという思いを共有できるドラマを。

(『2205 全記録集』141頁)

『2205』では、「『2199』以来の若いファン」という視点が加わっているのです。

「『2199』以来」ですから当然『2202』の頃にも「『2199』以来の若いファン」はいたはずですが、それは当時、福井さんの視野には入っていませんでした。しかし今回は明確な表現を用いて、いわば”旧作以来のファンと『2199』以来のファンの融合”を目指したと言えます。

〇変化の背景

この変化の背景としては、おおよそ2つあると考えます。

一つに、『2202』のプロデュース活動を経て、福井さん、あるいは製作委員会の中で、「『2199』以来のファンに作品を売っていく必要性」が認識されたのではないでしょうか。良くも悪くも『2199』から転換した『2202』に対しては、『2199』ファンから様々な声が寄せられました。特に、『2199』ファンの立場をとる観客からは、『2202』に対して厳しい意見が寄せられることもありました。それを踏まえて、路線転換をしたとすれば自然な流れです。

これは積極的な解釈ですが、もう一つ「目標の下方修正」という消極的な背景もあると考えます。

福井さんの言葉を借りれば、『2202』の目標は「ヤマトの真の復権」でした。

福井:そうやって考えてみると、「さらば」以降に作られた完結編などを含めて、復権はされているでしょうか。一度上った高みまで再び上り詰めて、そこを越えなければ。少なくとも、同じところまで達しなければ「復権」とは言えません。

G:「見た?」「見た見た!よかったよね」というレベルまで持っていかなければいけないと。

福井:そうそう。ちょうど「君の名は。」といういい例がありますね。あれに匹敵する状態だと思っていただけたらと思います。

今この時代に作る意味がある「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」シリーズ構成の福井晴敏さんにインタビュー - GIGAZINE

当時の福井さんの根底にあったのは、『2199』のヒットではまだ足りない、という考え方です。「『2199』ファン」との言葉や視点を持たず、「旧ファン」「新規ファン」との表現と視点で書かれた「企画メモ」も踏まえると、『2202』は『2199』を超越した新しいファン層を形成しようとしていたと考えられます。

しかし、そうした目標設定を可能にしたのは、まだリメイクシリーズが2作品目であったこと、そして原作たる『さらば』に商業的ポテンシャルがあったからこそです。

『2205』と『3199』では、すでにリメイク作品は「シリーズ」として確立されており、原作も現代においては商業的ポテンシャルに乏しい。ゆえに福井さんと製作委員会は、『2199』や『2202』を超越した新たなファン層の構築や「ヤマトの真の復権」ではなく、あくまで着実に「ファン第一世代」と「『2199』以来の若いファン」を動員する方針をとったと考えられます。

〇地に足のついたコンセプト

『2205』の「企画メモ」を通読して感じるのは、『2202』と比べ、文体を含めて地に足の着いた内容となっている点です。誰に、どんなアプローチで売っていくかが(大仰な表現を用いず)明瞭に示されています。「ヤマトの真の復権」とハッタリをきかせていた『2202』に対し、『2205』は「ファン第一世代」と「若いファン」に、「共有できるドラマ」。その真面目さは『2205』の良い点の一つですが、『2202』企画メモを愛読してきた私としては、不足するケレン味に一抹の寂しさも覚えてしまいますね(笑)。