ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【ヤマト2205】第5話のつまずきを深堀りする

記事の投稿が遅くなりました。ymtetcです。

先月22日に「第5話が私の評価を狂わせた」と題した記事を投稿しましたが、『2205』第5話は私にとって鬼門です。前章を賞賛しながら後章の評価が芳しくないのは、主にこの第5話が原因だからです。

先月22日の記事を引用すると、私の第5話に対する評価が低いのは、

Aパートのラストで重々しい展開を匂わせ、Bパートの冒頭で一転勇ましい雰囲気に持ち込んだかと思えば、今度は古代をめぐって重々しい展開に持ち込む。作品のテンションが行ったり来たりしている

この点にあると言えます。イスカンダルを撃ってください」→イスカンダルを移動させる→「託された思いを、犠牲を、ヤマトは(無為にはできない)」の流れが、脚本家による作為的な流れに見えてしまい、没入感を失ってしまったのです。

今日はその原因を、先日発売された『全記録集』から考えていきます。

〇「全体構成案」

さて、『全記録集』に収録されている「全体構成案」を読むと、すでにこの場面の原型が見られます。

波動砲の射線上にイスカンダルが移動し、発射が不可能になるヤマト。(略)原作に準拠するなら、たとえばメルダとフラーケンが組んでイスカンダルの火山を活性化させ、噴火のエネルギーをもって軌道をずらすなどの手が考えられるが、(略)ここで重要なのは古代が作戦中止の決断を下すことなく、ヤマトを危険にさらして突っ走ってしまう点にある。

作戦の順調な推移を妨げる要素が絡んできても、なお古代が「突っ走ってしまう」点に、この場面の主題があると分かります。

・本編に付け加えられた要素

しかし本編には、おおよそ二つの要素が付け加えられています*1

それがユリーシャの「イスカンダルを撃ってください」と、古代の「託された思いを、犠牲を、ヤマトは(無為にはできない)」です。

〇私の評価が下がってしまった原因

これを付け加えてしまったことで、私の第5話の評価が下がってしまったと考えます。この「イスカンダルを移動させる」シーンそのものは、本来の構成上、あまり重要ではありません。「ここで重要なのは」と福井さん自身が書いているように、重要なのは、古代が無理やりにでも作戦を決行しようとしてしまう点です。

しかし実際は、「イスカンダルを撃ってください」という(余計な)フックを投入した上、「イスカンダルの星が傷ついた」以上の犠牲を払っているとは思えない作戦を古代が「犠牲」として重く捉える、という要素が付け加えられていました。

前者が盛り込まれた理由は明白ですが*2、では、後者の狙いは何でしょうか。これは脚本上、”古代がこの作戦にこだわる理由”を説明したかったのだと思います。より正確にいえば、本来、脚本構成上は大きな意味をなさなかったシーンを、”古代がこの作戦にこだわる理由”の一部に組み込もうとしたのではないでしょうか。単なる旧作オマージュにとどめておけばスムーズであったものを、無理に「古代の物語」に落とし込もうとしたために、この違和感が生じたのだと考えます。

〇どうすればよかったのか

このシーン単体は決して悪いシーンではないので、丸ごとカットするのは好ましくありません。旧作オマージュになっていますし、キャラクターの配置もいいと思います。

そこで、私をすっきりさせる構成案を、二つほど考えてみます。

・「犠牲」の表現をなくす

古代のセリフにある「犠牲」をなくし、イスカンダルを移動させるミッションそのものを古代の物語から距離を置いたものにする、という手があります。

デザリアム軍がイスカンダルを移動させたことで、作戦を中止させたい土門からすれば、いわば”作戦を中止させる口実”ができました。そこで土門が作戦中止を提案するも、イスカンダルからの通信で状況が変わり、古代は作戦続行を宣言します。

古代には、(「犠牲」ではなく)「託された思い」を強調させておけば十分でしょう。多くの人の思いがこの作戦を動かしていることは事実です。『2202』を経た古代が後に引けなくなる理由は、十分に出そろっています。

・より大きな「犠牲」や悲壮感を描く

あるいはこの際、イスカンダル移動ミッションそのものに、もっと多大な犠牲を払わせるという手もあります。例えば、イスカンダルのダメージ描写をより豊かにする。またこの場合は、音楽をより悲壮感のあるものに変えておく。

この作戦が「イスカンダルを傷つける」ものであることを強調すれば、古代のセリフにあった「犠牲」も活きてくるはずです。

〇まとめ

このように、ほんの少しのかけ違いが、第5話に対する私の評価を狂わせてしまったと言えます。「イスカンダルを撃ってください」「託された思いを、犠牲を、ヤマトは」。全体構成案になかったこの二つのセリフは、構成案時点のプランからいくと、少々欲張りすぎたセリフ&演出だったのかなと思います。

*1:おそらくは「全体構成案」→「シナリオ」の過程で付け加えられたもの。

*2:Bパートへのフックを作りたい