ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【ヤマト2202】「山本玲の生還」による違和感をなくしたい

こんばんは。ymtetcです。

前回の記事を振り返る

前回の記事では、『2202』最終話それ自体の意味について考える、ということをやりました。

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『2202』の最終話にはストーリー上の重要な意味がありましたが、とはいえ、あの最終話が何一つ欠点のないパーフェクトなアニメーション作品だったかというと、そうではないと思います。

そこで今日は、私が一年来引っかかっている山本玲の生還について考えていきましょう。

一年来の疑問・山本玲の生還

『2202』最終話の山本玲については、当時から疑問に思っていました。

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しかし、何故山本だけが戻ってきたのかはよく分かりません。

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コスモタイガーⅠのコクピットは明確に「爆発した」という表現がありません。ということで、コクピットは辛うじて滅びの方舟のどこかに不時着したことにします(なかなか無理がある)。

そして、今も疑問に思っています。

この山本玲の扱いについて、シナリオ側はどう考えていたのでしょうか。『シナリオ編』では、山本玲が帰還してくる理屈について言及されています。

シナリオ編の種明かし

同じ黄金色の光が、古代と雪の顔を照らす。二人は知らないことだが、艦内で倒れている玲の顔も……。古代と有沢*1を脱出させたあと、自らも機を捨てた玲は、外壁に生じた亀裂を抜けてヤマト艦内に漂着していたのだった。昏々と眠り続ける玲を、兄やキーマン、鶴見の霊体がじっと見下ろしている。この先に待つもののために……彼女の役割は、まだ終わっていない。

(『シナリオ編』284頁)

これを読むと、理屈としては、山本はコスモタイガーⅠを失った後(自力で、あるいは偶然に)艦内へ戻りヤマトごと冥界に送られてしまった、ということになります。「この先に待つもののために」という表現からして、これもテレサの導きなのでしょう。

『2202』がやりたかったこと、それ自体は何となく理解できますが、もう少しうまいやり方があったように思います。

ちなみに、昨年の私は「古代と同じように、山本も生きることを選択した」という裏ドラマがあったことにしてはどうか、と書いていました。

一方、山本にとっては、あの世には兄やキーマン、戦死した航空隊クルーといった彼女にとっての大切な人がいますから、そこに居続ける選択肢もあったはずです。

そこで山本は「選択」を迫られますが、最終的には古代と雪を生かすため、ヤマトと共に帰還する道を選びます。選択を迫られたとはいえ、山本としては、死んでいった大切な人達の願いを汲むことに、大きな抵抗はなかったはずです。

山本が帰ってきた経緯を探る - ymtetcのブログ

一年たって読み返して、この解釈はこの解釈でナンセンスではないとは感じます。しかし、もっと根本的な改善があってもいいように思います。

山本をメッセンジャーにしない方法を考える

今作で山本を殺さない、という選択肢自体はかなり有力なものと言えます。

やまもとあきら」は旧作で戦死したキャラクターではありますが、(上記記事のコメント欄でも言われているように)今回はスポンサーとのコラボを担当するキャラでもありましたからね。

ですからこの際、山本は普通に生還させることにすればいいのです。わざわざ旧作を再現して古代進に「山本!」と叫ばせる必要は、正直ありません。

しかも、福井さんの当初の構成メモには、

一年後、ぼろぼろの状態で地球に帰ってくるヤマト。しかし古代と雪は乗っていない。二人が高次元の狭間に留まっている可能性が示唆される。

(『シナリオ編』267頁)

としか書いてありません。要は「二人が高次元の狭間に留まっている可能性」を示唆するギミックが必要になり、その結果『2202』は「あの世とこの世を往復する山本」というギミックを選んだ、ということなのです。山本を利用したのは、あくまで後付けに過ぎないと言えます。

では、どんな選択肢が他にあるのでしょう。

今日は後出しジャンケンなので、もっとシンプルに考えたいと思います。

「二人が高次元の狭間に留まっている可能性」を示唆するギミック……は、

テレサでいいのではないでしょうか。

 

第一話を思い出そう

第一話を思い出しましょう。

第一話では、テレサのメッセージが死者の姿を介してヤマトクルーに届けられました。

最終話も、「古代と雪は生きている。二人を迎えに来てほしい」というメッセージはそもそもテレサから発信されているわけですから、同じように送ればいいんです。

ただし、今回は地球人全員に送ることにします。

どういうことか。

 

滅びの方舟が消滅して半年後、今度は地球の市民全員に対してコスモウェーブが送られてきます。「二人を迎えに来てほしい」と、既にこの世にはいない親しい存在をメッセンジャーとして。

亡くなった親しい人からのメッセージを受け取った地球市民たちは、ぐっと心を揺さぶられるはずです。第2話の古代進のように、「助けなければならないんだ……!」と力が入ることでしょう。何しろ、真田のような人間でもそうなったのです。

テレサのメッセージを信じない者もいるでしょうが、そこへ、あたかも証拠のように、ボロボロの宇宙戦艦ヤマトが還ってきます。

「二人を助けにいくべきだ」と沸騰する世論。

しかし、二人を助けるためには時間断層を犠牲にしなければならないと分かり……。

国民投票へと至ります*2

”助けたい”という本能に似た感情と、公共の利益という現実との狭間で、国民投票が地球人全員の注目する一大イベントになるはずです。

何しろみんな、死者を介してテレサを見、心を揺さぶられてしまったのですからね。

おわりに

少なくとも『2202』には、(偶然とはいえ)死んでしまった山本をわざわざメッセンジャーとして生き返らせる、というドラマを盛り込む必然性がなかったと考えます。

そこで今回考えたのが「コスモウェーブ再び」です。

国民投票、と言われてどうにもイメージしがたかったのは、地球に住む人々の多くが国民投票に注目し、進んで議論・投票をしている様子でした。

その状態へと持っていくまでには大々的な広報活動が必要で、それを想像するに、何ともドラマとして滑稽と言うか、リアリティに欠いているなと感じます。

となれば、ファンタジーの力を借りるのも一つの手だと考えました。

死者を介して伝えられるテレサのメッセージには、人の心を動かす力があるようです。これが地球人全員に届いたとなれば、あっという間に世論は過熱するでしょう。

「コスモウェーブ再び」案は、山本を巡る動きの違和感を払拭するだけではなく、国民投票への違和感も一定程度軽減させることが可能だと考えています。

*1:注──決定稿では永倉

*2:国民投票に至る経緯について考えた記事はこちら:「政界の地図」に起きた異変とは何か - ymtetcのブログ