ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

1 本編を観る──【ヤマト2202】第10話を振り返る

こんにちは。ymtetcです。

現在「『シナリオ』を読む」と「福井晴敏のインタビューを読む」(タイトル:「福井晴敏の『ヤマト2202』語り」)を並行してやっています。どちらも私のお勉強企画のようなもので、作業自体で何かをするというのが目的というよりは、作業自体が目的といってもいいかもしれません。

とはいえ、この作業はお勉強の根本的な問いである

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』とは何だったのか?

を考えていく過程でもあります。

「〇〇とは何か?」という問いは様々な答え方があって非常に難しいのですが、その分、やってみる価値はあると考えています。

今日からチャレンジしてみる企画は「『シナリオ』を読む」の拡大版、「第10話を振り返る」というものです。絵コンテを読みたいと考えていたのですが*1、絵コンテを読んで何かを書けるほど私はまだアニメーション演出に詳しくない、ということで、映像を観る方向で進めたいと思います。まずは本編を観て、次にシナリオを読み、最後に構成メモを読む。そして、本編と構成メモを比較する。そんな挑戦をしていきます。

まずは基本情報を整理しつつ、なぜこの第10話にこれだけの手間をかけるのか、その背景をお話してみたいと思います。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第10話 基本情報

  • 副題

「幻惑・危機を呼ぶ宇宙ホタル」

  • スタッフ

監督 羽原信義/副監督 小林誠/脚本 福井晴敏・岡秀樹

絵コンテ アミノテツロ/演出 川崎ゆたか/作画監督 高見明男

  • 概要

第10話は、『宇宙戦艦ヤマト2』に元ネタを持つ”宇宙ホタル”の回です。

ですが、”『宇宙戦艦ヤマト2』のネタを回収する”こと以上に、この第10話は『ヤマト2202』の大切な回として、作り手に位置づけられています。

 ● 古代のように「断じて違う!」と福井さんに言い放ったこともあるんですけど、でも、それも第十話くらいまでのことでした。(略)それ以降はチームになっていたってことですよね。

福井(略)今までずっと走り続けてきた中で最初に訪れた箸休め回というのか。以後二度とない箸休め回(笑)。そこでそれぞれの振り返りがあって、俺の中でも思った以上に「ヤマト」っぽくなっている感じはしたんですよね。それは二人に色々と言われながら第十話に来るまでの積み上げで、自分の中でこうすればいいんだろうなという勘所が見えてきて。第九話で大冒険をして、その直後にその第十話だったのでその落差もあると思うんですけど。そういうところで『2202』がやろうとしている振り幅がみんなで共有できたし、あの第十話はそういう意味ではとても思い出深いです。(略)

SPECIAL┃宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち

公式HPにて公開されているスペシャル鼎談において、この第10話とは「以後二度とない箸休め回」であり、「思った以上に『ヤマト』っぽくなっている」回であり、福井さんにとってある意味「思い出深い」回であることが明かされています。

そしてこの第10話を作り上げた時、福井さんは『宇宙戦艦ヤマト』を”SF”ではなく”スポ根”と定義することに決め、以後、最終話までその勢いで『2202』は駆け抜けました*2

以上から、第10話とは、『ヤマト2202』のスタッフが”『2202』とはこういうものだ”と足並みを揃えて最終話に向けて走り出した、そのスタート地点だと言えます。

ところがこの第10話、正直言って評価は芳しくありません。「2202 ホタル」あたりでツイート検索をかけますと、まぁ「要らない」という声が大きい。

このギャップは一体何なのか。気になりますよね。

そこで今回は、「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』とは何だったのか」という問いを補助する「『ヤマト2202』第10話とは何だったのか」なる問いを立てて、本編を観て、その後、シナリオ、構成メモを読んでいきたいと思います。

本編を観る

  • Aパート

 第10話Aパートは、ノル(ゴーランドの幼生体)とザバイバルの訓練から始まります。尺は1分50秒から始まり、立ち去るゴーランドまでで2分59秒。およそ1分09秒をこのシーンに費やしています。ちなみに、途中で謎にゴーランドの顔がインサートされますが、これは絵コンテによれば「うぬぬ…と見ているゴーランドの鋭い目」だそうです。とすれば、あの派手な効果音は要らなかったかもしれませんね。

 次に、場面はゴーランドとザバイバルの会話に移ります。ここでは、ゴーランドがノルの戦いぶりに満足していないこと、ノルの初陣が近いこと、訓練のために「砂竜狩り」を行うこと、現在のゴーランドは先代のゴーランドによく似ていること、先代のゴーランドも自分の幼生体の育成に手間を惜しまなかったこと、それは自分自身を慈しむのと同じでありガトランティスにとってはあるまじき行為であることが語られます。これは3分00秒から始まり、4分12秒まで。1分12秒を費やしています。

 これに続くガイレーンとズォーダーの会話は、ゴーランドとザバイバルの会話を受けて、ガトランティス人が本来持たないはずの「親子」という概念が彼らの中に存在していることを語ります。4分13秒から5分47秒(1分34秒)。そもそも今から見れば、ガイレーンとズォーダー自体が「親子」です。ガイレーンがガトランティスにも「愛」があることを語り、ズォーダーが否定するという構図は、「タイプ・ズォーダー」もまた、「愛を否定する」という自らの矛盾に気づき始めていることを表しています。ガイレーンのセリフ「あなたの中に恐れが見える テレサに対する恐れか、それとも…」の裏には、「あなた(ズォーダー)もこの矛盾に気づいていますよね?」というニュアンスが含まれているように見えますね。

 「あなたの中に恐れが見える テレサに対する恐れか、それとも…」にオーバーラップして画面は桂木透子を映し、舞台が宇宙戦艦ヤマト艦内に移行します。古代が佐渡先生の診察を受けているシーンです。5分48秒から6分25秒(37秒)。

 6分26秒から7分20秒(54秒)は、中央作戦室での会議の様子です。キーマンが「今さらどうしたんだ」と語り、議題が「このままテレザートに向かうか否か」にあることが示唆されます。

 7分21秒から7分56秒(35秒)は、藤堂長官からヤマトへの通信を描きます。地球防衛軍の命令として、ヤマトには「現状の航路を維持し、可能な範囲で白色彗星に関する情報を入手せよ」と伝えられます。

 7分57秒から9分4秒(1分7秒)は、古代の状態を案じる雪・佐渡の様子が描かれます。数値上は体調に問題ないとのことですから、古代はかなり精神的に参っているということが分かりますね。雪に対して土方は「古代を信じてやれ」と語ります。

 ここまでは『2202』全体のドラマの中での動きを描写してきた第10話ですが、ここからはホタル回がスタートします。

 9分5秒から11分38秒(2分33秒)。空間騎兵隊の訓練中に突然現れたホタルは、あっという間にヤマト全体を包み込みます。そしてクルーによって捕獲され、ヤマト艦内に多数が入り込みます。真田は慎重に取り扱うよう命令しますが、クルー達はあっという間に”マイホタル”を持ち歩いて愛でるようになります。ホタルを見つめていたクルーが揃って懐かしく、センチメンタルな気持ちになっている様子が描かれ、キーマンが異変に気づきます。

 ここまでがAパートです。

  • Bパート

 CMを挟んで(?)11分38秒から12分7秒(29秒)。まずは佐渡が、ホタルについて「あまりよろしくない」と語ります。桂木透子はホタルに興味がなさそうです。キーマンはホタルに熱中するクルーを横目に、何やら忙しい様子。いつの間にか、ホタルは「ペレットから出さないよう」との真田の言葉を無視して艦内に浮遊するようになっています。そんな中、府抜けた古代を斉藤が見つけます。

 12分8秒から13分15秒(1分7秒)。艦長としての振舞いに思い悩む古代に向かって、斉藤は「お前は運良く助かってきただけだ」と語り、「地球に引き返せ」と言います。黙って聞いていた古代ですが、斉藤の「臆病者の艦」という言葉でスイッチが入り、二人の喧嘩が始まります。

 13分15秒から16分3秒(2分48秒)。反波動格子の様子を確かめに来たキーマンが動き出します。その一方で、斉藤と古代の口論は続きます。斉藤は「俺たちは死んでいった者の無念を晴らさなければならない」と主張し、古代は「ヤマトを侮辱した言葉を取消して謝れ」と応じます。時あたかもキーマンと真田がホタルの脳波への影響を食い止める中、ホタルのせいか波動エンジンに異常が発生。催眠が解けたことで、二人の口論は結果の出ないまま、有耶無耶になります。

 16分4秒から17分28秒(1分24秒)。ホタルの波動エンジンへの影響を食い止めるために古代が危険な賭けを決意する中、突如として開発された「殺虫剤」によってホタルは死滅します。ホタルの脳波への影響を食い止めた作業にはキーマンの尽力があった、と真田が語ります。

 17分29秒から17分49秒(20秒)。桂木透子は、ホタル対策に尽力したキーマンの狙いがあくまで反波動格子にあったことを見抜き、「黙っててあげる」とキーマンに告げます。

 17分50秒から20分20秒(2分30秒)。ホタル騒動が一段落したらしいヤマトに、コスモウェーブが届きます。古代守は「確証もないのにここまで来た」ヤマトを讃え、「今度はこちらが証を立てる」と真田に告げます。古代進は沖田艦長と向き合い、己の苦悩を打ち明けます。これに沖田は「お前は本当によくやっている」「心に従って針路をとれ」と語り、古代は涙を流します。そして、宇宙空間にテレザートとテレサが浮かび上がります。

 20分20秒から21分54秒(1分34秒)。古代は土方に艦長就任を打診しますが、土方は固辞します。ですが、第11番惑星で合流した空間騎兵たちにもコスモウェーブが届いた(彼らもテレサに呼ばれた)ことで、ヤマトクルーは一致団結します。斉藤が蘇生体であることが示唆されます。古代は、引き返す選択肢もある状況の中で、それでも「前に進もう」と決意します。「そこには、救いを待つ何かが存在する。祈ることしかできない、過酷な状況に置かれながら、でも、祈ることをやめようとしない。俺たち人間が、そうであるように」と結論めいたことを語り、ヤマトの針路はテレザートに定められます

 以上でBパートは終わり、エンディング後にCパートがあります。

  • Cパート

 23分25秒から最後まで。「負け犬」デスラーに艦隊を与えることをガトランティス首脳が訝る中、ズォーダーはデスラーに「執念を見せてもらおう」と命令を下します。

 以上が、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第10話「幻惑・危機を呼ぶ宇宙ホタル」でした。

本編を観て

「シナリオ」をしっかりと読んでみないと分かりませんが、個人的には、脚本チームがこの第10話で最も描きたかった部分というのはおおよそ検討がついています。

それは「ヤマトはテレザートに向かうのか否か」という葛藤です。この葛藤があって、その葛藤に古代の苦悩が反映されているからこそ斉藤と古代の口論が果たす役割が見えてきますし、最後のコスモウェーブにも意味があると言えます。

ところが、本編では中央作戦室のシーンで1分30秒しか描かれていません。むしろ尺を費やしているのは、「ガトランティスにも『親子』という概念がある」(3分55秒)や「ホタルに酔いしれるヤマトクルー」(3分2秒)。特に前者は第13話で非常に上手に(一話完結式で)描かれているテーマですから、この時点でそこまでの尺を費やす必要はなかったと、私としては考えます。

この辺りの問題は、「シナリオ」を読むときにもう少し考えてみたいと思います。

さて、第10話を久し振りにみていて、何とも「収まりの悪さ」を感じる部分がありましたので、最後にこの二つを考えてみたいと思います。

ひとつが、斉藤と古代の口論です。この二人の口論は、斉藤が「亡くなった者の無念を晴らすために戦いたい」と主張し、古代が「ヤマトを侮辱した言葉を取り消せ」と主張するものです。これ、対立は平行線にしかなりませんよね。「(このままの地球では)死んでいった者に顔向けできない」と語ったのも、古代自身ですから*3。この対立が有耶無耶に終わってしまったのも頷けるというものです。

もう一つが、なんといってもホタルと騒動の解決策です。

そもそもホタルは、シナリオでは確か桂木透子が持ち込んだことになっていたと思いますが、本編ではその設定はなく、ひたすら謎の宇宙生命体。そして、そんな謎の生命体の対応策が、謎の「殺虫剤」。「殺虫剤」はあくまで分かりやすく語るための俗称でしょうが、謎の生命体が謎のガスで死滅するという展開は、観ていて居心地が悪いものです。

フィクション作品というのは、作風によってはこうした居心地の悪さを引き起こしがちで、特にこれは未来モノの作品が陥りやすい症状でしょう。

こういった事象への対策方法は色々ありますが、一つに、”「謎の存在」を「お客さんが知っている存在」に置き換える”ことが挙げられます。

本編第10話の問題は、とにかく謎の存在が謎の対応策で解決すること。

例えばこれがシナリオ通り「桂木透子が仕掛けたホタル」だったとすれば、我々観客としては「ああ、あれは何かの生物兵器だったんだな」と納得できます。この時、あの宇宙ホタルは「謎の存在」ではなく「お客さんが知っている存在」になります。

あるいは『2199』であれば、科学的・SF的なアプローチから説得力を高める方法で「宇宙ホタル」あるいは「殺虫剤」を「お客さんが知っている存在」に置き換えたかもしれません。

 

また一つ、私から簡単な方法として提案したいのが、ホタルの色です。

劇中では、ホタルの色はでした。ですが、我々の知っているホタルは黄色とも黄緑とも言えぬ光を放っています。例えば改善案としては、『2202』も「ホタルらしい」色に準拠して、早々に宇宙生命体であることを真田に語らせ、最初は無害に見えたホタルだけれど実は……って、これ旧作のまんまですね(笑)。でも赤色のホタルは、明らかに怪しげな存在に見えます。自然のものだとは我々は直感的に思えません。結局劇中で正体が分からないのならば、敢えて謎めいた雰囲気を取り払っても良かったのではないか、と思います。

 

このように、第10話は口論には結論がつかないし、謎のホタルは謎の「殺虫剤」で解決するし……と、あまりいいところがありませんでした。キャラクター中心でもなく事件中心でもない掴みどころのない回だったわけで、振り返った時に「意味なくね?」と言われるのも致し方ないでしょう。

何か一つのテーマに絞って構成できれば、もっと良い回になったかもしれませんね。

*1:福井晴敏の『ヤマト2202』語り パート2 の最後で言及しました。

*2:ちなみに福井さんの「スポ根」の定義は「自分の人生とか世俗的な価値を自らの意思で封殺して、何かに対して我が身を滅ぼすような覚悟で突き通した者だけが到達できる、その境地を描くもの」だそうです。

*3:むしろ二人の思想的対決点は、「死んでいった者の無念を晴らす」ということの意味(戦わない未来を求める古代と、仇討ちを期す斉藤)にあります。そちらを軸に二人を戦わせても面白かったかもしれません。