ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

元気な古代──『ヤマト2202』第11話シナリオを読む

こんにちは。ymtetcです。

福井晴敏の『ヤマト2202』語り パート4」が2本の記事になりました。やはりインプットは大切ですね。

今日はもう一点、シナリオの方を進めていきたいと思います。

第11話は「チクワ」回。リメイクとして見れば、第10話のホタルに引き続いて『宇宙戦艦ヤマト2』のネタを拾う回でした。

宇宙戦艦ヤマト2』の「チクワ」回の見所だった波動砲による後進は、『宇宙戦艦ヤマト2199』第18話によって回収されてしまったため、『2202』では使えません。

この問題に対して、『2202』は波動砲による前進というアイデアで答えました。理屈の検証は私の力が及ぶところではありません。ただ理屈を抜きにすれば、波動砲による後進が使えないなら前進だ、という発想そのものは悪くないと思います。

チクワ問題への言及は、この程度にしておきましょう。

今回は、キャラクターに注目してシナリオを読んでいきます。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第11話『デスラーの挑戦! 空洞惑星脱出せよ(仮)』第一稿を読む

いきなり余談です。

珍しいことに、第11話のシナリオは本編とサブタイトルが異なっています。

今回調べて知ったのですが、「〇〇せよ」といった命令形のサブタイトルは、旧作テレビシリーズの中でも『ヤマト2』が他のテレビシリーズよりも多いようです。

結果として『2202』でも活発に取り入れられましたが、第四章という括りで見ますと、第11話を命令形にしてしまうと4分の3(第11話、第13話、第14話)が命令形になってしまいます。

また、第11話の主役はデスラーデスラーがヤマトを欺いて罠にはめているように見せかけて実はガトランティスを罠にはめていた、というのが第11話の肝です*1。その意味で、『デスラーの挑戦!』だけに集中させた本編のサブタイトルの方がよいかもしれませんね。

では、シナリオを読んでみましょう。

艦長のレリーフ問題

これは本編でカットされても致し方ないシーンですが、シナリオには沖田のレリーフをどこに置くか、と難儀するシーンがあります。リフトが使えなくなるからですね。

この問題、一度は気になったヤマトファンも少なくないのではないでしょうか。『復活篇』では発進前にこそ沖田のレリーフがありましたが、その後古代はリフトを使っている。あれ、どうしたんでしたっけ(笑)?

ヤマトファンにはクスりとくる沖田のレリーフ問題ですが、ドラマ的には単なるコメディシーンではなく、土方の艦長就任問題をめぐる古代の苦しみを描くシーンでもありました。

土方「艦長でない者が、艦長室に上がる必要はない」

全員の目が古代に注がれる。う、となる古代。雪がすかさず立ち上がり、

雪「了解ですが、土方司令が艦橋に来られた時、座っていただく場所がありません」

(「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第十一話『デスラーの挑戦! 空間惑星脱出せよ(仮)』第一稿」『シナリオ編』89頁。)

第10話で決断を下し、テレザートへ向かうことを決めたとはいえ、古代は未だ艦長就任のプレッシャーから解放されてはいません。結局、この場は佐渡が「沖田の親友だから」と言い、土方の席はここに決まります。佐渡が沖田と土方の仲に言及するのは『2199』の第1話を思い出しますね。

では以下に、シナリオを読んでいきましょう。

誰の判断か

デスラーの全方位攻撃にさらされたヤマトは、小惑星帯に逃げ込みます。

本編では、波動防壁無双になっていた部分ですね。波動防壁の力に制限があった方が戦闘シーンの組み立てとしては面白いのですが、本編では尺を確保するために波動防壁で凌ぎきることにしたのでしょう。

そしてヤマトはワープをし、異空間に誘い込まれます。ただ、その経緯が本編とシナリオでは若干異なります。

<本編>

土方:艦長代理、どうなっとる!?

古代:脱出経路を計測中です!

AU09:計測完了。18秒後、1時16分の方向に6秒間だけ開放されます。

土方:罠かもしれんぞ。

古代:(苦しげな顔で土方を振り返る)

太田:ワープ明け座標軸が不安定です!

土方:(目に力を込める)

古代:島!

島:ようそろ!

徳川:波動エンジン、出力最大。

古代:緊急ワープ!

<シナリオ>

土方「(無視して)艦長代理、これでは隠れている意味がない。重力干渉のないところまで一気に駆け抜け、ワープで逃げきってはどうか?」

古代「(振り向き)ワープで……⁉」

土方「この小惑星帯は密度が異常な分、範囲はあまり広くない。最大戦速で三分も飛ばせばワープの安全圏に出られる。波動防壁と対空防御でもたせられるはずだ」

おお、さすが……という感じで土方を見つめる一同。

土方、むっと睨み返し、

土方「以上、意見具申。決断を急げ!」

(「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第十一話『デスラーの挑戦! 空間惑星脱出せよ(仮)』第一稿」『シナリオ編』91頁。)

シナリオでは、土方がワープを提案したことになっています。「今日は敵の罠にはまった。自分の尻拭いをしただけだ」という本編ラストのセリフはこの名残です。

少し話が逸れますが、シナリオの記述からは土方が依然として艦長就任を固辞していることが改めて分かります。「すげぇ」となっているところを睨み返して「意見具申」(上の立場の存在に対して意見を申し述べる)という表現を使っていますからね。

元気な古代

さらに古代の艦長問題をめぐっては、シナリオにこんなシーンがあります。

〇長楕円惑星

――に接近するヤマト。

敵の砲弾が急に当たらなくなる。

〇第一艦橋

太田「(逸れてゆく火線に)なんだ? 急に狙いが……」

古代「南部、敵弾は目視できているな?」

南部「は? はい!」

古代「よし、お返しだ!」

〇異空間

ヤマトの主砲が火を噴き、三式弾がガトランティス艦に向け飛来する。

直撃! 大破撃沈する艦。

(「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第十一話『デスラーの挑戦! 空間惑星脱出せよ(仮)』第一稿」『シナリオ編』93頁。)

デスラー艦隊に対してヤマトが三式弾で応じるシナリオ編の記述は、『2199』第25話のオマージュでしょうかね。

そして、古代はとても元気そうです。

 

シナリオでは、ヤマトは土方の提案でワープをし、その結果、罠にはまってしまいます。土方はその「尻拭い」をするために、今回は艦長に近い役回りを担います

その中で、古代は「よし、お返しだ!」という元気そうな振舞いを見せていました。

これはどうやら、脚本チームが意図的に行っていたことのようです。

雪「ですが、艦長代理は……。久しぶりに見ました。あんなふうに、生き生きしている姿。やはり、ヤマトの指揮官は――」

(「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第十一話『デスラーの挑戦! 空間惑星脱出せよ(仮)』第一稿」『シナリオ編』95頁。)

これが今回、私の示したかったポイントです。

元気な古代を描くということ

『2202』の古代進を考える上で無視できないのが、「沖田の不在」という事実です。「沖田の不在」について私は以前ポエムのような記事を書いていましたが、

2202の描く「沖田の子供たち」が尊かった理由 - ymtetcのブログ

とりわけ『2202』で古代進が思い悩んでいるその背景には、ヤマトのメンバーは帰還時と全く変わっていないのに沖田艦長がいない、という事実があると思います。

私たちはつい忘れてしまいがちですが、沖田は『2202』冒頭時点で、宇宙戦艦ヤマトの最後の殉職者。『2199』最終話の時点では、古代は沖田の死を知りません。覚悟はしていたかもしれませんが、最終話の時点ではなんとか間に合った、沖田と共に地球に帰還できたという思いはあったでしょう。ですが古代は地球に帰還した後、その事実を知ることになった。その悲しみや喪失感は大きかっただろうと思います。

そこにきて3年後、沖田の「代理」を任されることになる。すごい重圧ですよね。

 

シナリオ『2202』第11話の古代進が「生き生き」とした姿で描かれようとしていたこと、そして雪がそれを「久しぶり」に見た姿だと表現したこと。

これは恐らく、惑星シャンブロウでの戦い、あるいはデスラーとの戦い以来の古代の「生き生き」さを表現したい、という狙いがあったのだと思います。

ですがこの描写は本編ではごっそりカットされていると言ってもいいでしょう。土方の艦長就任問題にまつわるドラマがカットされていますからね。

とはいえ、『2202』の「デスラー復権」ドラマに先鞭をつけるのが第11話の主な役割です。その点において、このキャラクター描写がカットされたことには納得できます。

ただ、ただですね、『2202』の古代進像は『2199』『方舟』の古代進像とのギャップがあると指摘されることも少なくありません。そして、その背景として「沖田の不在」を挙げることは、本編の枠内では好意的解釈でしかありません。

その意味で、古代進のメンタルが持っている二面性のようなものをここで描く意義は、十分あったのではないかと考えます。『方舟』までの古代と『2202』の古代には確かにギャップはありますが、連続性に配慮がなされていないわけではありません。

その辺りを本編が描くことができれば、『2202』はアニメーション作品としてまた一歩、『2199』と繋がりをもった「続編」に近づいたのではないでしょうか。

*1:ズォーダーはそれをも予見して「執念を見せろ」とデスラーに伝えていました。全てデスラーの計画通りと見せかけて実はそれすらもズォーダーの予想通りだった、という重層構造をとっています。