ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【ヤマト復活篇】古代が上条から引き金を奪った理由

こんにちは。ymtetcです。

『ヤマト復活篇』09年版のラストシーンは、迫りくるカスケード・ブラックホールに対して、”6連発の波動砲を一度に放つ”ことによって地球の危機を乗り切る、というものでした。

この過程で、タイトルにも書いた場面が登場します。波動砲の引き金を引くことに躊躇した上条了(戦闘班長)に対して、古代進(艦長)は「俺がやる!」と宣言し、実際に古代が波動砲の引き金を引きます。この一連の場面は、”結局古代かよ” ”どうして部下を信頼しないんだ"といった批判を当時から招いていました。

私自身、『復活篇』は圧倒的にディレクターズカット版(地球滅亡篇)派だったこともあり、この場面についてはあまり考えた機会がありませんでした。そこで今日は、このシーンの解釈について考えてみたいと思います。

○未熟な親心

古代が上条から波動砲の引き金を奪ったのは、今の上条に地球の運命を一人で背負わせたくないという親心から出た行動なのではないでしょうか。

もちろん、『ヤマトⅢ』の森雪よろしく手を添えてもよかった(笑)……なかで奪ってしまったのは、指揮官としての若さゆえなのかもしれません。

○『アクエリアスアルゴリズム』が示したもの

アクエリアスアルゴリズム』がなければ、このシーンについて考えることは生涯なかったかもしれません。

アクエリアスアルゴリズム』では、『完結編』で波動砲の引き金を引いた沖田艦長と、本作の中でで波動砲の引き金を引く古代進が対比されていました。

「誰が波動砲の引き金を引くんだ」という沖田のセリフは二度もリフレインされ、なぜ自動操縦ではなく人間が波動砲の引き金を引かなければならなかったのかも語られていきます*1。そして古代が沖田の遺体と対面する場面では、沖田はあの日のまま、波動砲の引き金を握りしめています。

ここで暗に語られているのは、地球の命運を一つの引き金で背負うことの重さです。もちろん波動砲は一人で撃つものではありません。しかし砲手は一人で、時に沖田のように孤独でさえあります。

古代進の経験

翻って、『アクエリアスアルゴリズム』『復活篇』に連なる古代進の経験はどうでしょうか。『さらば』ルートならば、一度古代は地球を背に波動砲を放った経験を持っています。ですが、『2』ルートではその経験を持っていません。地球の命運を背負う波動砲は何度も放ってきたけれど、本当の意味で地球を背に、最後の「最後の希望」として放った経験はありません。最初で最後の機会になるかもしれなかったアクエリアスとの対面は、沖田がその代わりを務めました……。

すなわち、古代が地球を背に波動砲を放った最初の経験は、『アクエリアスアルゴリズム』だということになります。古代は、たった一人で地球の命運を背に引き金を引いた沖田と対面し、そして沖田と同じように、波動砲の引き金を引くわけです。

○上条了と波動砲

『復活篇』ラストで上条がやろうとした仕事は、言ってしまえば『完結編』で沖田がやった仕事、『アクエリアスアルゴリズム』で古代がやった仕事と同じものです。

そもそも『復活篇』で登場する上条了は、有り体に言えば波動砲の引き金の重みを理解していません。それはブルーノアの主砲発射機構が”引き金”式であったことも含めて、上条自身が何度も引き金を引いた経験をもち、そのことにためらいを持っていないこともあるでしょう。だからすぐに波動砲を使おうとするし、5連射することもできた。

ですが、突然降ってきたあの機会ではどうでしょうか。上条は突然、たった一度しか放つことのできない波動砲を、それもヤマトを吹き飛ばしてしまうかもしれない波動砲を、地球の命運を文字通り背負って放つ機会に直面しました。古代があれだけの戦いを経ても一度しか経験できなかった、どの引き金よりも重みのある、たった一発の波動砲の引き金。上条の手が震えていたのは当然です。

古代進と上条了の成長譚

古代進は、上条が受けたプレッシャーを誰よりも理解できる立場にあります。”父”である沖田が経験したように、自身もまた経験したように、”成功すれば地球を救える、失敗すれば地球が滅ぶ”、そんな運命を背負って放つ波動砲は何よりも重いものです。

だから、「上条にはまだ背負わせるべきではない――(重すぎる)」との判断を、あの時の古代は瞬時に下したのではないでしょうか。

 

『復活篇』第2部を想像したとき、ディレクターズカット版の結末からその続きを考える人も多いのではないかと思います。

それは『復活篇』09年版は一本の映画として完結した構造になっており、なおかつディレクターズカット版のラストは3部作構想の頃から温められていたものだからです。

ですが、上条の成長譚として考えれば、実は無印版のラストは第1部として機能することができます。上条が背負えなかった地球の命運、引けなかった波動砲の引き金を最後に引けたとき、このシリーズは新たな主人公・上条了の物語として完成するかもしれません。それと同時に、地球の命運を背負える戦士を育て上げることができた、艦長・古代進の物語としても

 

*1:基本線は『完結編』の説明通りですが、より真に迫る説明になっています。