ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

『2199』出渕体制から『2202』福井体制へ……その経緯に迫る

こんにちは。ymtetcです。

今日は予告通り、表題の件を考えていきます。テーマは「なぜ『2199』出渕体制は終わり、『2202』福井体制が始まったのか」です。

当然ながら、私は関係者ではないので”真実”は把握できません。ただ、この『2199』『2202』以降のプロセスはそこまでタブーではないのか、意外にもちらほらと情報が表に出てきています。今日は、私たちファンが触れることのできる情報を集めつつ、『2199』から『2202』移行期の内実に、可能な限り近づいてみたいと思います。

私は、『2199』出渕体制が終わり、『2202』福井体制が始まった理由は、「版元」、すなわちボイジャーホールディングスの抱く「3つの想い」があったからだと考えています。

「3つの想い」とは、

  1. 福井晴敏を『宇宙戦艦ヤマト』に起用したい
  2. 『さらば』のリメイクを作りたい
  3. 『2199』路線から転換したい

の3つです。

福井晴敏を『宇宙戦艦ヤマト』に起用したい

☆1回目の接触(2012年)

ボイジャーホールディングスの西﨑彰司さんは、『ガンダムUC』の成功を見て、福井さんに注目していたといいます。

─福井さんを起用された切っ掛けは?

西﨑:福井さんのことは以前から注目をしていまして、特に『ガンダムUC』は大ヒットしていて、羨しいなと思っていました。そこで関係者を通じて紹介していただいてお会いすることになりました。1回目は結構……大作家なのでもったいをつけられましてね(笑)。

https://yamato2202.net/special/special3_14.html

この「1回目」については、『航海日誌』でもう一歩踏み込んだ言及がされています。

西﨑―― 4年くらい前かな。まだ『宇宙戦艦ヤマト2199』の第一章が劇場公開したばかりの頃に遡ります。ある人を介して福井さんを紹介してもらい、三人で食事をしました。

(西﨑彰司『宇宙戦艦ヤマト オフィシャルファンクラブマガジン 航海日誌』vol.13、2016年、株式会社ヤマトクルー、6ページ。以下、西﨑『航海日誌13』と表記。)

ここから、ボイジャーと福井さんの最初の接触は2012年であったことが分かります*1

西﨑〇『宇宙戦艦ヤマト2199』の制作が始動したときには、既に『2202』の構想がありました。『2199』が初代『宇宙戦艦ヤマト』のリメイクですから、当然その次もやりたいと当初から考えていました。

(『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 全記録集 シナリオ編』2019年、株式会社KADOKAWA、350頁

ページ。以下『2202シナリオ編』と呼称。)

『2199』始動時点でボイジャーには続編構想はあったとのことですが、まだ第一章の公開時点で、出渕さんを交代させることまで検討していた可能性は高くないと考えます。そこで、この「1回目」の接触は、リメイクかどうかは関係なく、ただ一般に「福井晴敏に『ヤマト』を作らせたい」との動機で行われたものと推測します。

〇『さらば』のリメイクを作りたい

☆2回目の接触(2014年)

ボイジャーと福井さんの「2回目」の接触は、2014年だと思われます。

古川―― その後、『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』の製作中に再び福井さんに逢いました。その時は会社(ボイジャーホールディングス)まで来てもらい、こちら側の意図、依頼内容などを伝えました。

(西﨑『航海日誌13』6ページ)

この時の「依頼内容」は、『さらば』のリメイクであったと考えられます。

――お二人が『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』に参加された経緯はどのようなものだったのでしょうか?

福井〇ボイジャーさん側から直に呼ばれました。西﨑彰司代表から『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』のリメイクをやってもらいたいと明言されて、その企画が成立するかどうかの検証から作業を始めています。

(『2202シナリオ編』346ページ)

『方舟』制作途中の段階で「福井晴敏に『さらば』のリメイクを作らせる」オファーが行われていたことが分かりますね。

福井

甲斐田さんは方舟の時からの登板ということで。俺的には、方舟の時は「もしかしたら(ヤマトを)やるのかな」ぐらいな感じで観たんで、キャストに(甲斐田さんの)お名前を見出した時は「あー、これはきたな」と。これはもういっぱい出てもらわないと困るなと。

(『2202』第20話オーディオコメンタリー、太字は引用者)

☆『2199』の続編か『さらば』のリメイクか

ここでのポイントは、ボイジャー福井さんに作らせたかった新作は「『2199』の続編」ではないことでしょう。

福井〇もし、自分が単独で書いていて(引用者注:岡秀樹さんが参加しなくて)、羽原さんが監督でなかったのなら、また異なるものになっていたでしょうね。(略)極端な話、製作委員会側はそれでも新しい『ヤマト』が作れるのならと容認してくれる懐の広さはみせていたんですが、だとすると『2199』の次に作る作品としての必要性はなくなりますよね。

(『2202シナリオ編』348ページ)

福井さんは、羽原監督や脚本の岡秀樹さんが参加しなければ『ヤマト』とはかけ離れた作品になっていたかもしれないが、それでも製作委員会は「容認」してくれていた、と語っています。

そして、その直後に福井さんが語る

それに『2199』というリメイクがあったというのに次に作られる作品は、その続きではないけれど時間軸としては進んでいる旧作のリメイクだと言われてもファンは戸惑ってしまいます。

(『2202シナリオ編』348ページ)

この部分からは、製作委員会の「容認」の幅が相当に広かったことが伺えます。

もう一つ忘れてはならないのは、ジーベックと羽原さんが、岡さんに『2199の続編』をオファーしていることでしょう。しかもオファーは、2015年5月頃と考えられます。

――お二人が『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』に参加された経緯はどのようなものだったのでしょうか?

(略)

岡〇僕はXEBECさんからです。当時はまだ監督をやると決まっていなかった羽原信義さんから依頼されました。福井さんへのオーダーとちょっと違っていて『宇宙戦艦ヤマト2199』の続編として《白色彗星編》のリメイクの内容を考えろ、というものでした。

(『2202シナリオ編』346ページ)

――そんな状態から互いの存在を知ったのはどれくらい経たれた頃でしょうか?

(略)

岡〇着手の一か月後くらいですから2015年の6月初旬です。仕事で海外にいたときに発注され、一か月掛けて企画書を作って帰国したら「実は製作委員会が福井さんを確保していた」と羽原さんに聞かされました。

(『2202シナリオ編』346ページ)

福井さんの『2202』企画書は2015年4月付で提出されていますから、ジーベックが岡さんにオファーをしたのは『2202』企画書提出の1か月後と見られます。ジーベックが福井さんの『2202』企画を全く知らずに、岡さんにオファーしたとは考えにくいです。

ポスト『2199』の新作をどうするか、という点で、製作委員会は必ずしも一枚岩ではなかったことが伺えます。

〇『2199』路線から転換したい

さて、最も重大なポイントともいえる「出渕体制はなぜ終わったのか」という点については、当然ながら表に出ている情報はほとんどありません。よってこの部分は、かなり怪しい情報(個人の証言)を含めながらの推論になってきます。

まず確認しておきたいことは、出渕さんにも続編構想があった、ということです。

星巡るのときに、ぶっちゃんは書いてますよ続編構想。今回はそれは使わなかっただけ。

https://twitter.com/makomako713/status/1028046477208088577

同時に「あいつは続編作る気無いぞ!」という風評たてられて。辛かったんじゃないですかね当時。用意も準備も進めてましたのに。

https://twitter.com/makomako713/status/976384156639768577

結城信輝

出渕さんと話していた世界がなくなったのは残念ですが、

https://twitter.com/nobuteruyuuki/status/1099382592481062912

資料にさかのぼることはできませんでしたが、私自身、『方舟』の頃に出渕さんが「続編はこの映画次第」と語っていた記憶があります。

では、なぜ出渕さんは交代することになったのか。

公開は大赤字でね。

https://twitter.com/makomako713/status/1554106006464266241

一つは、『方舟』の劇場公開が赤字だったことです。これは公開規模と興行収入から考えても事実だと思います。仮に続編が「方舟次第」だったのだとすれば、方舟の成績が芳しくなかったことで、出渕体制が終わったとしても不思議ではありません。

もう一つが、ボイジャーが出渕さんに不満を持っていた可能性です。

その上星巡る方舟は製作中から2202の脚本部からイチャモンばっかり出てて。総監督は完成まで精神的に大変だったと思う。
その脚本部から「これからは総監督のしてきた事を全否定だ!」宣言。

https://twitter.com/makomako713/status/1554106006464266241

ここでいう「2202の脚本部」とは、必ずしも福井さんだけを指すのではなく、福井さんを起用したいと考えていた人たちも指すと思われます。これはソースが怪しいですね。

ただ、『2202』始動時の西﨑さんの語りは、あまり『2199』に好意的ではありません。

――(引用者注:『2202』の)脚本を読まれた感想はいかがですか?

西﨑――まず、普通に面白い! これはとても重要な事です。それに安定感もあるし、加えてスピード感、テンポがある。そういう意味では『宇宙戦艦ヤマト2199』とは対照的な描き方をしていると思う。(略)ヤマトが好きなのは歓迎すべき事だけど、そっちの”オタク度”だけが強すぎると、設定の整合性やリアリティの追求が優先になってしまい、肝心のドラマが薄くなってしまう。僕はそういう脚本が出来るのを懸念して、長い間”才能”を探してきた。そして、ついにその”才能”を見付けた訳です。

(西﨑『航海日誌13』7ページ)

西﨑さんは、「設定の整合性」「リアリティ」が優先され、「ドラマ」が薄くなることに懸念を示しつつ、『2202』はそうではない、と語っています。

また、「『さらば』=旧作のリメイクを作りたい」という点でも、ボイジャーには出渕さんを交代させる理由があったと推測します。

2199初代と違って、大多数が覚えていないような旧エピソードを追っても面白くならないのでオリジナルにするしかない。と言うていたね。

https://twitter.com/makomako713/status/979509448610754560

〇今回の結論

以上の情報から、私は

  1. 福井晴敏を『宇宙戦艦ヤマト』に起用したい
  2. 『さらば』のリメイクを作りたい
  3. 『2199』路線から転換したい

の3つの想いをボイジャーが抱いていたことが、『2199』出渕体制から『2202』福井体制への変化をもたらしたと考えます。

もちろん、真実は分かりませんし、それを解き明かすことがヤマトファンにとって大切だとも思いません。ただ、『2199』と『2202』について論じるとき、念頭に置きたいのは、

  • 出渕さんも続編を作りたくなかったわけではない
  • 福井さんは「『2199』の続編を作れ」とは言われていない

ことでしょう。『2199』が終わり、それと異なる『2202』が出現したのは、古典的な言い方をすれば「大人の事情」であり、2012年から2015年にまで至る、大人たちによる複雑な経緯があったわけです。

*1:福井さんを選んだ理由としては、同じボイジャーの古川寛高さんが、福井さんは「シナリオが最も重要」というボイジャーの要求に「きちんと答えられる”作家”」であることを挙げています。