ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【ヤマト2202】『さらば』との乖離を促進したメカニズム

こんにちは。ymtetcです。

〇はじめに

前回の記事では、福井さんの『2202』反省を取り上げました。

『2202』のときは、序盤はともかく後半へ進むにつれ、どこに『さらば』や『ヤマト2』(の要素)があるんだ? っていう展開になっていきましたから。「言ってることは違うけど、やっていることは同じ」というプランで進めていたんですが、いざフィルムにしてみたら、やっていることも相当違っていたってところがあったんですよ。

(『STAR BLAZERS ヤマトマガジン 9号』株式会社ヤマトクルー、2020年11月、13頁。) 

今回も前回と同様、「言っていること」とは作品のテーマ、「やっていること」とは作品における具体的な出来事を指すとします。『2202』は当初、作中の具体的なエピソード等は旧『さらば』『2』を踏襲しながら、作品のテーマとしては「新しいもの」を提示するつもりで構想していたのだと思われます。ですが、実際は具体的なエピソードについても旧作からの乖離が著しくなっていた、と福井さんは見なしているのでしょう。

『2202』を「『さらば』のリメイク」と称することに疑問を呈する人もいますが、それだけ『2202』が『さらば』と乖離していた、ということでもあります。今日はこの「言っていること」と「やっていること」を基準に、『2202』を振り返ってみます。そうすることで、『2202』が少しずつ『さらば』と乖離していった、そのメカニズムを読み取ることができるのではないでしょうか。

〇私の感覚

さて、この福井さんの言を読んだ時、実は私は違和感を覚えました。なぜなら私は、むしろ

  • 「やっていること」は違う
  • 「言っていること」は同じ

ものとして、『2202』を見ていたからです。

事実から見て、『2202』が描いている出来事やエピソードの中身は、『さらば』『ヤマト2』とはまるで異なるものが少なくありません。ですが、そこで提示されるテーマはいずれも『さらば』『ヤマト2』を踏まえて現代風にアップデートしたものであり、その点において、『2202』が描いたテーマは「まるで異なるもの」ではありませんでした。

それだけに、私はむしろ「やっていることは違うけど言っていることは同じ」とのプランで進めていたのではないかと思ってしまったのです。

〇福井さんの『2202』プラン

そこで、今少し福井さんの『2202』プランを深めてみたいと思います。

(略)(『ヤマト2』から―引用者)ところどころ懐かしいガジェットは引用しつつも、基本は『さらば宇宙戦艦ヤマト』を原作として、先述したそのテーマの再話を目的としたストーリーおよび設定の改変、再定義を行っています。

(『宇宙戦艦ヤマト オフィシャルファンクラブマガジン 航海日誌』株式会社ヤマトクルー、2016年3月、12頁。)

まずここでは、『2202』は『ヤマト2』から「懐かしいガジェット」を引用しつつも、基本は『さらば』を原作に「テーマの再話を目的としたストーリーおよび設定の改変、再定義」を行って、作るつもりだと語られています。「懐かしいガジェット」とは、『2202』本編にも登場した「宇宙ホタル」や「チクワ」を指すのでしょう。

さらに、シリーズ「福井晴敏の『ヤマト2202』語り」における整理によれば、福井さんは『2202』と『さらば』の関係について、

  • <『さらば』として>
  • 『さらば』が訴えていたものを「解体」し、時代的な違いを反映させた作品。
  • 「『さらば』に触れた人」が、それを「もう一度体験する」作品。
  • 「『さらば』のリメイク」を筆頭としたお題に100%答えた作品。
  • 当時『さらば』を見た人たちが「どう感じたかということを今風に読み解いて」作った作品。
  • 「自分たちの中の古代進と向き合って」、「意思疎通」する作品。
  • 40年前と今の「違い」という「ストレス」を抱えている「あなたの物語」。
  • 「40年前の旧作に対して、今の日本はどうなんだ」という作品。
  • さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』に対する(福井晴敏なりの)返答。
  • <『愛の戦士たち』として
  • 愛をヒューマニズム人間性)として描き、肯定した作品。
  • 「愛の戦士たち」という「タイトルに恥じない現在の作品」。
  • 「愛のために人間がどれだけ自分自身を裏切らなくてはいけないか」を描く作品。
  • (特攻=自爆テロ、特攻≠神風になりつつある時代に)「もう一度、愛を描く」作品。

と語っています。ここからは、『2202』の「言っていること」が、主観的には『さらば』で描かれたテーマを現代風にアップデートする形で作られていたことが分かります。

福井さんは、「『ヤマト』を再構築する際に気をつけている部分」として、

  • 「成りだけ真似ること」をしない
  • 物語で描こうとした本質は何なんだろう? ということを考えた上で、その本質が再び現代で語るのに値するかどうか? を検討する
  • カニックだったり、ファンの皆さんの記憶に焼き付いている名場面だったりとかは、今風に精度を高めたうえで、ばっちりと見せていきたい
  • 当時の制作者たちが伝えようとしていたことを、細かく”解体”したうえで、今の人々に適したメッセージにしていかなければならない

の4つを挙げていました*1。 これは『2205』へ向けた発言ですが、『2202』もほとんどこれと同様の方針をとっていたと思います。

〇なぜ「やっている」ことが違っていったのか

「愛をヒューマニズム人間性)として描き、肯定」する。これが『2202』のメインテーマでした。これは『さらば』やその他の『宇宙戦艦ヤマト』作品を踏まえた上で設定されたテーマですが、『さらば』のテーマそのものではありません。『さらば』のテーマを福井さんなりに「今の人々に適したメッセージ」に変換したもの、と言うことができるでしょう。

このように、福井さんは『さらば』のテーマをアップデートして「言っていること」(作品のメインテーマ)を設定し、具体的なエピソードは『さらば』の「やっていること」を踏襲することで『2202』を「『さらば』のリメイク」として成立させるプランを構想していたのだと思われます。

例えば、このプランが完遂された例としては、『2202』第13話のゴーランド親子のドラマが該当すると思います。

テレザートを前にしてヤマトがゴーランド艦隊と衝突し、波動砲で敵艦隊を打倒する。「やっている」ことは『さらば』と同じです。ですが、そこで描かれたテーマ(「言っていること」)は『さらば』と異なっていました。「言ってることは違うけど、やっていることは同じ」、としていた福井さんの当初のプランが、上手くハマった場面だったと言えます。

ですが、「言っていること」が『さらば』そのままでないがゆえに、『2202』は少しずつ「『さらば』のやっていること」との間で不具合を抱えていったのではないでしょうか。

例えば、『2202』の土星沖海戦は『2202』の「言っていること」と直接的には結びついてきません。むしろその後の火星沖海戦の方が結びついています。ですが、旧作ファンからすれば土星沖海戦は外せない。その結果、中途半端な艦隊戦が盛り込まれ、『2202』の土星沖はその後の火星沖の単なる前振りのようになっています。

「『2202』の言っていること」と「『さらば』のやっていること」の間に矛盾が生じた時、優先されるべきはどちらか。色々な考えがあると思いますが、福井さんは前者を選んだのでしょう。『2202』は、『さらば』を踏まえた人間ドラマで観客を泣かせなくてはならなかったのですから、そうなるのは当然ではあります。

その結果、「やっていること」がどんどんと変わっていったわけです。古代に突きつけられた悪魔の選択、加藤に突きつけられた悪魔の選択、AI艦銀河のドラマ、山南のドラマ……いずれも「『さらば』のやっていること」とは大きく異なります。

ですが、「愛をヒューマニズム人間性)として描き、肯定」する「『2202』の言っていること」を効果的に組み立てる上では、容易には変更できないものでした(もちろん、今から考えれば色々とやりようはあったかもしれませんが)。

結果として、『2202』の「言っていること」と「やっていること」は、そのどちらも『さらば』との距離が離れてしまったのでしょう。

〇おわりに

福井さんはそれを反省し、今度(『2205』)こそ、「言ってることは違うけど、やっていることは同じ」リメイク作品を作ろうとしています。具体的なエピソードは『新たなる旅立ち』を踏襲しながら、そこで(『新たなる旅立ち』を踏まえた)新しいテーマを描いていくプランなのだと思われます。

先ほど、『2202』の当初プランが完遂されていた例として挙げた第13話は、『さらば』のエピソードの大枠を踏襲しながら、ゴーランド親子の人間性と悲哀を事実上の一話完結で描き、かつ『2199』から続く古代進のドラマの一環としても機能していました*2。『さらば』のリメイク、という側面から言えば、『2202』の中でも最も(シナリオ的に)上手く構成された回だったのではないでしょうか。

『2205』が『2202』第13話のように、リメイクとして効果的に組み立てられたドラマを『新たなる旅立ち』の枠内で描けたなら、『2205』は『2202』以上の評価を得られる作品になると思います。

 

 

<コメント返信しました>

【売上度外視】私の観たい『宇宙戦艦ヤマト』 - ymtetcのブログ

*1:『STAR BLAZERS ヤマトマガジン 9号』株式会社ヤマトクルー、2020年11月、13頁

*2:2202 ─第13話:古代進の涙─ - ymtetcのブログ

最新インタビューで『ヤマト2205』を語る

○はじめに

こんにちは。ymtetcです。

昨日の『2202』公式Twitterに投稿された画像で、『ヤマトという時代』にさりげなく「ボラー」(ネタバレかも?)が登場すると明かされました*1。話題作りとしてはよかったと思います。

mantan-web.jp

さて、今日もこちらの記事について考えてみたいと思います。この記事では『ヤマトという時代』が中心に語られていましたが、一方で、『2205』についても一部語られていました。今日は『2205』について考えていきましょう。

  • ○はじめに
  • ○『新たなる旅立ち』であること
  • ○『2202』の反省
  • ○「希望」
  • ○「新たなる旅立ち」を描く『新たなる旅立ち』

*1:

宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会 on Twitter: "⚓Blu-ray&DVD商品情報③
本日は #ヤマトという時代 特別限定版特典、新規パート絵コンテ/シナリオ集をご紹介!

冊子は両表紙の仕様!
麻宮騎亜 による絵コンテの中身をチラ見せ…!
シナリオも大ボリュームで収録している豪華な一冊です。
お楽しみに!

詳細⇒https://t.co/DyFhcsxnfGhttps://t.co/jdLYOcNyai"

続きを読む

最新インタビューで『ヤマトという時代』を語る

※念のため「ネタバレ注意」です。

〇はじめに

こんにちは。ymtetcです。

mantan-web.jp

福井晴敏さんの新しいインタビューが公開されていました。『ヤマトという時代』と『2205』について語った内容で、これまで私が疑問を抱いていた点について、ヒントをくれるものになっています。今日はこれを取り上げたいと思います。

続きを読む

西暦2021年の『宇宙戦艦ヤマト』展望

こんにちは。ymtetcです。本年もよろしくお願いします。

今年はたくさんの『宇宙戦艦ヤマト』新作が登場します。そして、業界で最も有名な(?)『宇宙戦艦ヤマト』ファンである”彼”の新作も登場します。しかもその中身は……?

西暦2021年のブログは前向きな、希望のある内容で始めましょう。

続きを読む

西暦2020年の『宇宙戦艦ヤマト』回顧

こんにちは。ymtetcです。

西暦2020年が終わろうとしています。本年もお世話になりました。

今年はブログ再開初年度でした。今回の記事を書くにあたり、改めて2月から12月までの記事タイトルを振り返ってみましたが、前半は『2202』の話題を延々と、後半からは徐々に新作の話題が増えてくるといった状況で、今思えば、我ながらよくあそこまで『2202』の話題を書けたなと思っているところです。実は私にとって、今年は『2202』の年でもあったかもしれません。

さて、今日は、西暦2020年の『宇宙戦艦ヤマト』を簡単に振り返りたいと思います。

続きを読む

「ヤマトファン」という希望

こんにちは。ymtetcです。

〇はじめに

既存ファン向けの『宇宙戦艦ヤマト』を作る。最近、私が注目している方法論です。

この言葉にいい印象を抱かない人もいるでしょう。それでは未来がない、と考える人もいるでしょう。

ですが一口に「既存ファン向け」と言っても、そこには二つの路線があると考えます。一つは「既存ファンに甘えるヤマト」、もう一つは「既存ファンを満足させるヤマト」です。

  • 〇はじめに
  • 〇「既存ファンに甘えるヤマト」
  • 〇「既存ファンを満足させるヤマト」
  • 〇『宇宙戦艦ヤマト』の現在
  • 〇若者世代向けの落とし穴
  • 〇新規層獲得のために
  • 〇これからのヤマトにできること
続きを読む

『ヤマトという時代』を「考える」準備

こんにちは。ymtetcです。

〇はじめに

今日は映画『ヤマトという時代』の狙いと、それに対する論点を整理していきます。映画『ヤマトという時代』に対しては、初期には大きな期待をかけていましたが、最近ではその期待を意図的に抑えようとしています。『2202』土星沖海戦の反省を活かしたものです。

そこで、今回は改めて映画『ヤマトという時代』の論点を整理することで、本作を「考える」一つの準備を行っていきます。これまでブログで公開してこなかった情報も含まれているので、予めご了承ください。

  • 〇はじめに
  • 〇映画の狙い
  • 〇評価ポイント
  • 〇「そもそも」の論点も忘れずに
続きを読む