「ヤマトファン」という希望
こんにちは。ymtetcです。
〇はじめに
既存ファン向けの『宇宙戦艦ヤマト』を作る。最近、私が注目している方法論です。
この言葉にいい印象を抱かない人もいるでしょう。それでは未来がない、と考える人もいるでしょう。
ですが一口に「既存ファン向け」と言っても、そこには二つの路線があると考えます。一つは「既存ファンに甘えるヤマト」、もう一つは「既存ファンを満足させるヤマト」です。
〇「既存ファンに甘えるヤマト」
これは『ヤマト』が決してクオリティの高くない新作を出し、それを既存ファンが「甘やかす」構図です。この路線の上に生まれる新作では、必ずしも質の高い『宇宙戦艦ヤマト』は求めません。ここでは、いかなる内容・質であれ、ただ『宇宙戦艦ヤマト』であることが重要なのです。
これは、コンテンツの側からすれば「既存ファンへの依存」にあたります。ですから、ここにとどまっていてはいけません。
例えば『復活篇』や『2202』に対する擁護意見としての「ヤマトってこんなもんだよね、ファンだからずっと見るよ」。もちろん、これはヤマトを愛する人の考え方だと思いますし、彼らは立派なヤマトファンだと思います。コンテンツの側からすれば、貴重でありがたい存在です。このような人々を失ってはいけません。
ですが反面、彼らに依存してコンテンツを延命させたままでは「未来がない」のです。「甘やかす」ことのできる人しか観なくなっていくからです。
既存ファン向けと聞いて「未来がない」と考える方々のイメージする「既存ファン向け」は、こちらを指しているのだと思います。
〇「既存ファンを満足させるヤマト」
これは『ヤマト』がクオリティの高い新作を出し、それを既存ファンが楽しむ構図です。この路線で生まれる新作では、ただ質の高い『宇宙戦艦ヤマト』であることを求めていきます。
これがもしも実現するなら、素晴らしいことです。ですが、これを実現することはとても難しいのが現実です。なぜなら『2202』はもちろんのこと、『2199』でさえ、既存ファンからは厳しい批判を受けたのですから。
「既存ファンを満足させるヤマト」は、とても困難な課題であることが分かります。そして、私が目指して欲しい『宇宙戦艦ヤマト』のあり方は、こちらになります。
〇『宇宙戦艦ヤマト』の現在
ですが『2199』や『2202』が少なからず批判されたことは、今の『宇宙戦艦ヤマト』が決して「甘やかされて」ばかりではないことの証明でもあります。今の『宇宙戦艦ヤマト』は十分、厳しい視線を持つファンに囲まれているのです。このような環境ならば、これからは新規層の開拓よりも、既存ファン向けの作品に注力してもいいのではないでしょうか。
〇若者世代向けの落とし穴
ファンの世代交代や、新規層の動員を企図する……それは大切なことですが、行き過ぎてしまうと、既存ファンの「切り捨て」に繋がりかねません。
あるいはそれもまた、いつかは必要なことかもしれない。でも、今の時点では得策ではないと考えます。なぜなら、今の『宇宙戦艦ヤマト』は既存ファンすら、十分に満足させられていないからです。
内の既存ファンすら満足させられないのに外に新規層を求めるのは、もはや新規層に対する「押し付け」に等しいと思っています。「あんたのためにわざわざ炎上したヤマトだよ」と押し付けられた新規層(として想定されている人たち)が、ありがたがって『ヤマト』を観に来るとは思えません。
〇新規層獲得のために
新規層獲得のために大切なのは、何よりも「面白そう」と思ってもらえることだと考えます。例えば『ガルパン』に端を発して一世を風靡した構文「〇〇はいいぞ」は、コンテンツの新規層拡大に一定の役割を果たしているフレーズです。
やれ悲壮感だ、副監督だと論争をしているコンテンツを、傍から見た人が「面白そう」と思うでしょうか。私なら思いません。でも、大局的に見れば、論争はファンの責任ではありません。作り手には、論争のリスクをできる限り低く抑える責任があるでしょう。
このように考えた時、シリーズものの新作に時々見られる「これは既存ファンは怒るだろうけど新規層獲得のためにやる」という方法論は、間違いとは言えませんが、少なくとも、今の『宇宙戦艦ヤマト』がすべきことではないと考えています。
今の『宇宙戦艦ヤマト』には、まずは実直に既存ファンを満足させ、彼らに「今のヤマトはいいぞ」と言わせることが求められるのではないでしょうか。
〇これからのヤマトにできること
何も、既存ファンも「昭和」で止まっているわけではありません。既存ファンも、「令和」を生きる西暦2020年代の住人です。ですから当然、時代相応のアップデートは必要になります。既存ファン向けだからといって、「昭和」のままの『宇宙戦艦ヤマト』ではいけないのです。
それは『2202』が、世代を問わず、『2199』と比較して批判されたという事実からも見て取れます。既存ファン向けであっても、丁寧に「現代のコンテンツ」として『宇宙戦艦ヤマト』を描き出さなくてはならないことは、言うまでもありません。逆に言えば、既存ファン向けを貫いたとしても、『宇宙戦艦ヤマト』は時代に適合した新たな姿を求め続けなければならないということになります。そこにはある意味、「未来がある」。
さらに、今や既存ファンは「旧世代」だけではありません。『2199』が微力ながらも動員した新世代もまた、既存ファンになりつつあります。今の『宇宙戦艦ヤマト』は、もはや世代論だけでは語れない時代に突入しているのかもしれません。
面白く、魅力ある作品を作ることで既存ファンを満足させる。その当たり前の作劇を突き詰めていって、初めて新規層に門戸を開くことができると私は考えます。
そして、厳しい視線を持った集団としての「ヤマトファン」の存在は、決して「老害」などといった言葉で切り捨てられる限りのものではなく、むしろ、作品の出来をくまなくチェックし、時には愛し、時には批判する形で論じる、とても貴重な存在なのではないでしょうか。