ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

西暦2020年の『宇宙戦艦ヤマト』回顧

こんにちは。ymtetcです。

西暦2020年が終わろうとしています。本年もお世話になりました。

今年はブログ再開初年度でした。今回の記事を書くにあたり、改めて2月から12月までの記事タイトルを振り返ってみましたが、前半は『2202』の話題を延々と、後半からは徐々に新作の話題が増えてくるといった状況で、今思えば、我ながらよくあそこまで『2202』の話題を書けたなと思っているところです。実は私にとって、今年は『2202』の年でもあったかもしれません。

さて、今日は、西暦2020年の『宇宙戦艦ヤマト』を簡単に振り返りたいと思います。

〇『アクエリアスアルゴリズム』完結

今年の『宇宙戦艦ヤマト』を支えたのは他でもない「NEXTヤマト」の二作品、『アクエリアスアルゴリズム』と『スターブレイザーズΛ』でした。

まずは完結した『アクエリアスアルゴリズム』から振り返ります。

アクエリアスアルゴリズム』は、良い意味で「二次創作」的だったと思います。最終話を読んだ時の私の感想としては、「やりすぎだ!」が1割、「ありがとう」が9割でした(笑)。

本作は、『復活篇』の古代進を覆っていたあの暗い影を補完しながら、『完結編』の後を生きたヤマトクルーを描きつつ、新しい物語を提示し『復活篇』に繋げていく、そんな物語だったと考えます。また、ラストシーンでは、人々が「宇宙戦艦ヤマト」という存在を思い出す、とても壮大な場面が描かれました。あれは地球の人々にとって、英雄・ヤマトに別れを告げる追悼式であり、二度目の誕生に向けたヤマトとの「再会」でもあったと考えます。

「やりすぎだ!」と感じた部分はそこです。あのシーンでは、片っ端から旧作キャラクターを出してやろうという執念が、並ぶ文字からひしひしと伝わってきました。でも、まさにそこが「ありがとう」のポイントでもありました。

私はあの場面を読みながら、『復活篇』の頃に読んでいた二次創作を思い出しました。旧作のいわゆる「脇役」を推していた私にとって、『復活篇』は困難な作品でした。でも、それを支えてくれたのが、ネット上に転がる二次創作たちだったのです。それを公式がやった。それは「やりすぎ」かもしれませんが、一方で心の底から感謝したいと思います。私はずっと、こんな『宇宙戦艦ヤマト』を待っていたのかもしれません。

このように、本作は「ヤマトファンによるヤマトファンのための作風」を志向していたと思います。実際にヤマトファンに受け入れられるかどうかは別として、ただヤマトファンのための作品であり続けようとした作品だったのではないでしょうか。作者の高島雄哉さんには「アステロイド6」なるブレーン集団がついていましたが、本作における旧作要素の拾い上げとその密度の高さには、脱帽するしかありません。どうやらあるらしい、続編にも期待したいと思います。

そして、本作の一番の功績は、高島雄哉さんを『宇宙戦艦ヤマト』シリーズに招き入れたことだと考えます。後述しますが、高島さんは『Λ』にも協力しているといいます。そうした「横の繋がり」が、いつか高島さんや吾嬬さんのアニメシリーズへの参画(直接的ではないにせよ)にも繋がっていくなら、それはきっと、これからの『宇宙戦艦ヤマト』にとってとても良いことなのではないでしょうか。

〇『スターブレイザーズΛ』

次に、『スターブレイザーズΛ』を振り返ります。

『Λ』は吾嬬さんの代表作である『鉄腕アダム』の構図を受け継ぎながらも、それとは異なる、個人と集団の間にある葛藤を揺さぶるようなドラマが展開されています。強大な敵が現れ、それを迎え撃つ集団と、その中の個人。このシンプルな枠組みの中で人間ドラマ・ミステリー・コメディなどの諸要素が躍動し、物語は展開しています。

現在の『Λ』は、既に序盤の物語を進める大枠を提示し、その中に個々人の過去と現在にまたがるドラマを配置、各話ごとに山場を作ることでストーリーを進行させています。読み手のテンションも軌道に乗ってきた頃でしょう。

しかし、物語というのは多くの場合、ずっと同じ構造では展開しません。人によりますが、私は「回転」とイメージしています。物語の「前提」をくるっとひっくり返して、また新しい軌道を組み上げていくイメージです。こんな感じで、今「前提」になりつつあることが覆される瞬間がやってくることも珍しくありません。『Λ』もまた、少しずつそうなっていくのではないかと予感しています。

作者の吾嬬さんが意図しているかどうかは分かりませんが、たとえ意図していないにせよ、この新しい物語が『宇宙戦艦ヤマト』のタイトルを冠した時点で、本作は「『宇宙戦艦ヤマト』の再定義」という課題を読者に提示する役割を果たしています。その意味で、本作の企画意図というのはとても意欲的。「意欲作」と捉えておきたいですね。

西暦2020年は新しい『宇宙戦艦ヤマト』が生まれた歴史的な年だった……と振り返る日が来てほしいものです。

〇おわりに:『宇宙戦艦ヤマト』並走の2020年

本来であれば『ヤマトという時代』が2020年秋、『2205』が2020年12月~2021年1月あたりになっていたのではないかと思います。そうすれば2020年は、2014年(秋『追憶』冬『方舟』)によく似た一年になっていたはず。

それが延期になったことで、期待されていた新作アニメの公開が、西暦2020年の間に実現することはありませんでした。「残念な年」になるかもしれなかった2020年を「そんなことない!」と盛り立ててくれた作品こそ、『アクエリアスアルゴリズム』と『Λ』だったように思います。

この二作品の関係は興味深いものがあります。吾嬬さんは『ヤマトマガジン』のインタビューで、『Λ』に高島雄哉さんが協力していることを明かしています*1。先述したように、この二作品の作者である高島さんと吾嬬さんには「横の繋がり」があるのです。

しかし内実、作っている『宇宙戦艦ヤマト』のあり方はまるで異なります。高島さんは「アステロイド6」なるブレーン集団とともに「ヤマトファンのための『宇宙戦艦ヤマト』」を志向し、吾嬬さんは「全く新しい『宇宙戦艦ヤマト』」を志向しています。

この現状は、『宇宙戦艦ヤマト』の未来にとっては希望だと考えます

今、複数の『宇宙戦艦ヤマト』が並走しています。福井さんは『Λ』に対して、「まずは前進あるのみ!」とエールを送り、「こっちも絶賛出撃準備中だからね」「『アクエリアスアルゴリズム』も併せて、近くヤマトレースで相まみえましょう」と意気込みを語っています*2。「旧ヤマト」を継ぐ『アクエリアスアルゴリズム』が走り、「NEXTヤマト」の象徴たる『Λ』が続くその横に、リメイクヤマトの新作が加わろうとしているわけです。今の『宇宙戦艦ヤマト』は、実に多種多様な作品群を次々に展開しています。このことは、とても前向きに捉えたいと思います。

「NEXTヤマト」の先陣を切った『アクエリアスアルゴリズムの完結。「NEXTヤマト」の代表作になるであろう『スターブレイザーズΛ』の展開。西暦2020年を盛り立ててくれた両作品に改めて感謝し、本年最後の記事とします。

*1:『STAR BLAZERS ヤマトマガジン 7号』(株式会社ヤマトクルー、2020年5月)33頁。

*2:『ヤマトマガジン7号』35頁。