ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

『ヤマト2202』「力と力の衝突」構図をどう見るか

こんにちは。ymtetcです。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』においては、「力と力の衝突」が一つのテーマになりました。

「滅びの方舟」から無尽蔵に戦力を得られるガトランティスと、「時間断層」から(資源の許す限り)無尽蔵に戦力を得られる地球。それぞれの無限大に近い「力」が、互いに衝突するさまが描かれました。

第五章の土星沖海戦においては、この構図そのものが「これはヤマトの艦隊戦ではない」として、批判の対象となりました*1。反面第六章では、「力と力の衝突」によりもたらされる「戦いの虚しさ」がドラマの中核として機能し、ドラマとしてはそのまま第七章ラストへと続いていきました。結果、「力と力の衝突」構図に対する評価は、第五章の時点よりは随分と持ち直しているように思われます。

ですが、この「力と力の衝突」構図そのものがどこから『2202』へと盛り込まれたのかについては、まだ充分に議論されているとは思いません。まだまだ議論としては、「つまらない物量戦が描かれた」→「小林メカが画面を埋め尽くした」→「小林誠のゴリ押しでこんな有様になった」→「小林誠のせいだ」といった、公開当初の議論レベルでとどまっている状況もあるのではないでしょうか。

今日はこの「力と力の衝突」構図について、考えてみたいと思います。

『ヤマト2202』における「力と力の衝突」構図は、製作委員会からの「ガトランティス」像リクエス小林誠による「滅びの方舟」デザインの採用岡秀樹による「時間断層」アイデアの採用、の三つの要素が半ば偶然にも重なったことで、結果として生み出されたものなのではないでしょうか。

①三方向からもたらされたアイデア

後述しますが、福井さんの当初案である「企画メモ」に「力と力の衝突」構図は盛り込まれていません

そして言うまでもなく、「力と力の衝突」は「お互いが力を持っている」状況を生みだせなければ描けません。すなわち、『2202』において、ガトランティスと地球の「お互いが力を持っている」描写が実現可能だと気付いたその時(外堀が埋まった時)に、『2202』制作チームとりわけ福井晴敏さんの脳裏に、「力と力の衝突」構図がアイデアとして浮かび上がってきたのだと私は考えます。

まずガトランティスに関しては、製作委員会サイドから福井さんにリクエストがありました。それは、「(『2199』の蛮族ではなく)昔のような荘厳かつ巨大な敵にせよ」です*2

また、確か「愛の宣伝会議」か舞台挨拶だったと記憶していますが、福井さんは小林誠さんの「都市帝国」(要塞の中に複数の惑星を抱え込む)ラフ画を見て、「今回のガトランティスは莫大な物量のイメージでいこう」と決めたと証言しています。すなわち、”ガトランティス=物量”の構図が確定したのは小林さんがプロジェクトに参加した後だということです。

そして、「時間断層」はご存じのように、ボツになった岡秀樹さんの「続『2199』」プランから福井さんが「採用」したものです。ここから、”地球=物量”の構図もまた、当初は福井さんの頭にはなかったことがうかがえます。

製作委員会からの「荘厳かつ巨大」リクエストは小林誠デザインを考慮していないでしょうし、小林誠デザインも小林さんの引き出しから持ち出されたもの、岡さんのアイデアに至っては福井さんが「採用」しなければお蔵入りになっていたものです。

それなのに、どれか一つでも違えていたら、「力と力の衝突」構図は存在しなかった可能性もあります(製作委員会のリクエストは微妙ですが)。以上のことから、半ば偶然に重なった複数のアイデアが『2202』制作チームのもとに集結したことで、自ずと「力と力の衝突」構図が『2202』へと盛り込まれていったと考えます。

②アイデアの持ち込まれた順序:ガトランティス

ここからは、先ほどの話をもう少し掘り下げて、それぞれのアイデアが『2202』に盛り込まれた経緯と流れについて考えてゆきます。

まずは『2202』の端緒となった福井さんの「企画メモ」ですが、ここには2015年4月13日の日付が記されています(シナリオ編、225頁)。これは福井さんが『2202』の企画を提出した時のメモ、すなわち、案として採用される前の段階のものですから、この時点ではまだ小林さんは「都市帝国」デザインを描いていなかったものと推測できます。

「企画メモ」におけるガトランティス像はシンプルです。『2202』の決定案から「滅びの方舟」(=古代アケーリアス文明が遺した破壊装置)の設定を取り除いたものです。ズォーダーの生い立ちや、彼が「人類は抹殺しなければならない」と考えるに至る過程について言及されていますが、「滅びの方舟」や莫大な物量を思わせる記述はありません。これを踏まえると、やはり福井さんが小林デザインを目にしたのは「企画メモ」より後であり、そのタイミングで「莫大な物量」へと舵を切ったと考えられます。

ガトランティスの設定については、「設定メモ」として詳細に整理されています。「企画メモ」と同様に、彼らがクローン体であることと、ズォーダーの過去が語られていますが、決定的に違うのが、後に「滅びの方舟」となる要素への言及です。

「設定メモ」では、ズォーダーは古代アケーリアス文明が「失敗時の安全機構として残していたらしい天文規模の破壊システム」を復活させ、「最初の標的」を「故郷のガトランティス星」に設定し、「その機構の内に星を呑み込」んだとあります(290頁)。特に太字で記した部分は、小林デザインの「都市帝国」を目にしていなければ書けないものです。

この「設定メモ」には2015年9月25日とあります(293頁)。「構成メモ」に目を向けると、この時点で完成していたのは2015年9月4日の「構成メモ②」(第9話まで、244頁)。ここからは、2015年4月~9月の間に小林デザインの提示があり、そこから福井さんが2015年9月までに、ガトランティスのイメージを「天文規模」へと移行させたことが分かります。

③アイデアの持ち込まれた順序:地球、まとめ

さて、もう一方の「時間断層」ですが、これは岡さんの動向を追わなくてはなりません。岡さんに声がかかったのは2015年5月、岡案「『2199』の続編」が製作委員会に持ち込まれたのは6月だと明かされています(『設定編 下巻』152頁)。ゆえに当然、「企画メモ」(2015年4月)には「時間断層」のアイデアはありません。

2015年6月以降に「時間断層」のアイデアが「採用」され、2015年7月31日時点の「構成メモ①」では、既に「時間断層」が物語に組み込まれています。このような流れで、福井さんは「時間断層」のアイデアを自己流に「採用」していったと考えられます。

以上の流れを時系列に沿って整理しますと、

  • 2015年4月:福井「企画メモ」提示
  • 2015年4月~9月:小林「都市帝国」デザイン提示
  • 2015年6月:岡「時間断層」案提示
  • 2015年7月:福井「構成メモ①」完成
  • 2015年9月:福井「構成メモ②」完成(~第9話)
  • 2015年9月:福井「設定メモ」完成

となります。

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小林さんが「都市帝国」デザインを持ち込んだタイミングが分からないものかと思い、久しぶりに小林さんのTwitterを覗いてみました。「小林さんのツイートはどこまでが真実なのかは微妙だ」とよく言われますが(個人の主観なのだから当然です)、少なくとも私の憶測より遥かに真実に近いのは間違いありません。

小林誠 2220 on Twitter: "なんちゃら2202の時も。アンドロメダは一隻しかねぇし地球ガミラス連合の数はしょぼいし溶岩惑星は「スターウォーズepisode3出でてきたから」ときう理由だし山南フリートもしょぼかった。宇宙を渡ってきた最強の敵の話でこれ?思うてすべてスケールアップして脚本に組み込んで貰った。"

このスレッドで言及されているのは、脚本の物量をスケールアップさせたのは小林さんのアイデアだ、との主張です。ここから、今回の記事冒頭で私が言及した「物量ばかりになったのは小林誠のせいだ」論はかなり的確な指摘だということが分かります。

ただ、小林さんの一連のツイートからうかがえる、

  • 何もなかった脚本に全て俺が付け加えた

的な論調には少し疑問が残ります。というのも、物量のスケールアップは「メモ」レベルでも回を追うごとになされています。もちろん『2202』本編ほどではありませんので、小林さんはそこを指して言っているのかもしれませんが。また、福井さんも物量戦を脚本としてどう処理するか(山南に集約させて回収したわけですが)については、かなり噛み砕いて理解できていたように思います。

これらを総合して改めて考えます。

『2202』の「力と力の衝突」構図ですが、ある意味小林さんと福井さんの「共演」のような形で、相互に共通理解を作りながら進めていった結果なのかもしれません。

脚本として筋が通っているのは小林さんも脚本を理解しながら物量を追加していったから、福井さんが物量戦を噛み砕いて処理できているのは自分の根幹のアイデアが揺らいでいないから。こう考えた方がいいのかなと思いました。

最後に全く違う話を追加する形になりましたが、些細な「確認」が話を動揺させてしまったので……。それにしても、やはり物事をはっきり言うタイプのTwitterは(傍から見るだけなら)面白いなと改めて思いました。現在進行形の作品でやられるとたまりませんけどね。