ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

『ヤマト2202』第10話は作り手の葛藤そのもの?

こんにちは。ymtetcです。

ネットフリックスで『宇宙戦艦ヤマト2199』の配信が始まりましたね。

NEWS | 宇宙戦艦ヤマト2202

まだチェックしていないので何とも言えませんが、字幕付きで鑑賞できるのがネットフリックスの強みでしょうか。スマートフォンで観られる、というのは私にとっては非常に助かる(ブログを書きながら手元でチェックしやすい)ので、この機会に『2199』を取り上げることも検討しています。

 

さて、前回の記事では「ヤマト2202」をどう見るべきか、ということで、「三人のymtetc」を分離して考えることが大切だと述べました。

これを意識して、前々回までの「『ヤマト2202』第10話三部作」を振り返ってみると、そこには「一人目のymtetc」を裏返したymtetcがいたことに気付かされます。

この「一人目のymtetc」とは、”「なぜ『ヤマト2202』で自分は感動したのか?」”を出発点にシナリオを読んで、その理由を調べようとしている存在ですね。

第10話に対して私は、まさにそれをそのまま裏返して”「なぜ第10話はつまらなかったのか?」”を出発点に、本編*1、シナリオ*2、構成メモ*3を読むことに決めていました。

そうすると、「三人のymtetc」ではなく「四人のymtetc」にすべきではないか、という感じもしてきますが、一旦議論を置いておきましょう。ここでは、区別をつけられたことが何より大切です。

今日は、前々回までの三部作を踏まえて、第10話についてちょっとした拡大解釈をやります。本編やシナリオ、構成メモや『2202』への評価はさておいて、この第10話という回の位置づけについて、一風変わった見方を提示できればと思っています。

 

一話完結ものの物語を回していくためには、物語を回す推進力となり、なおかつその回のうちに退場していく、力強く・潔い存在が必要になります。例えば『2199』には第7話の赤道祭、第8話の「ゲーム」、第9話のオルタetc……と、一話完結で物語を進めていくための仕掛けが(旧作から受け継ぎつつ)盛り込まれています。

一方『2202』は一話完結という形式をほとんど取らなかった(複数の話をまたいで物語を展開する手法をとった)ため、こういった仕掛けはほとんど見られません。

そんな中で、異彩を放っているのが第10話の「宇宙ホタル」です。「宇宙ホタル」は、あたかも『2199』の「オルタ」のように、その回を盛り上げ物語を回してその回のうちに退場していく、一話完結のための存在だったと言えます。

結局のところ、この宇宙ホタルは物語上でどんな役割を担っていたのでしょうか?

これについて、私は「シナリオ」を読んだ際にこんなことを述べています。

このドラマ全体の中で、ホタルが果たした役割は、ある意味でお酒と同じ、クルー達の本音を引き出す役割を果たしています。

宇宙ホタル=お酒のようなもの=クルー達の本音を引き出すもの裏を返せば別に「宇宙ホタル」でなくてもよかったということですが、それを今問うても仕方ありません。

「宇宙ホタル」は、当初こそ「シナリオ」では桂木透子がばらまいた設定になっており、その後のスパイ騒動と連なる存在として位置づけられていました。しかしどういうわけか、その設定は本編では消えています。この設定の改変にはそれなりの根拠があるはずなので、ここではそれも問いません。

この設定改変によって、「宇宙ホタル」はただ単に”クルー達の本音を引き出す”役割のみを担うようになった。その事実こそが重要です。

 

では、話を一気に方向転換しましょう。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』に携わったクリエイターたちが本作を作る上で、重要な役割を果たしていたものがあります。

 

居酒屋です。

 

「え?」って話ですが、実際にいくつかのインタビューで語られており、

福井二人はどうか分からないけど、俺はやっていけそうだとその日のうちに思って、飲みに誘いました。

羽原みんなで飲みに行ったのは良かったですよね。

 ● 飲みに行って、4時間くらい話していましたね。会議室を出る直前に偉い人から、福井さんの助手をやってくれないかって要請を頂いたんですけど、そんなの無理だと思っていたのでその場では返事をしなかったんです。それもあって飲みの場では福井さんと「ヤマト」を超えてもう少し違った色々な話をしてみました。

福井人生観とか色々ね。「人は死んだらどうなると思う?」って(笑)。今回のテレザートからのメッセージは、自分にとって死んだ大事な人の姿を借りてやって来るので、岡さんからのそのいきなりの問いかけに強く反応しましたね。(略)

 ● 初対面の福井さんを捕まえて、「宇宙はどうなっていると思う?」とか、「人は死んだらどこに行くと思う?」とか真顔で質問攻めにしましたね。とにかくストレートにぶつけたんですよ。『さらば』をリメイクするとしたら、そこは避けては通れない部分だと思っていたので。目に見えない物事をどう捉えるのか?そこがまるで異なる人間同士だと、助手とはいえ多分うまくいかないなっていう感覚がありました。ただ、福井さんが書かれた『2202』の企画書を事前に読んでいたので、ぼんやりした期待値はあったんです。それでいざ福井さんの話を聞いてみたら、腑に落ちることがたくさんあった。そういう死生観を持った人とだったら一緒にやれるかもなって思いました。

福井うん、そうだね。死生観。

 ● 最初の頃は毎週金曜に集まって企画の方向性に関してざっくばらんに話していたと思います。3回目の時に全26話の構成を話し合ったんですが、その場で羽原監督から「ラストシーンの光景」についてイメージの開陳がありました。「おお!そんなものを思い描いていたのか監督!」という感じで驚きました。その日のミーティング後、福井さんと居酒屋にこもって「羽原監督のイメージするラストの画にたどり着くお話しの流れ」を話し合ったんです。延々6時間くらい?そこで一つの結論が得られ、福井さんが本格的に航路図を書かれ始めた。暫く待っていると4話分が届いて、また暫く待つと4話分が届くというような感じが何回か続きました。5ヵ月くらいの間に福井さんは最終回までの流れを完全に書き上げられました。

SPECIAL┃宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち

ここには二度ほど、居酒屋が登場しています。

初めは羽原さん・福井さん・岡さんの三人で4時間、二度目は福井さん・岡さんの二人で6時間。このように、『2202』は居酒屋で腹を割って話し合いながら、その骨格が作られたと言えます。

それこそ『2202』第10話の真田のように、シラフでは語れないような宇宙論・人生観・死生観を語りながら、です。

 

私が今回この話を持ちだしたのは、まさにこの点が引っかかったからなんですね。

『2202』第10話のシナリオには、前々回までの三部作で振り返ってきたように、ホタルに酔った真田が突然宇宙や魂について語り出す、というシーンがあります。

これが、上に引用した「最初の話し合い」の構図、すなわち酒を飲みながら死生観や宇宙観を語り合う構図とよく似ているわけですよ。

 

しかも『2202』第10話が構成された時期は、作り手にとっても重要な転換点だったとされています。

 ● 古代のように「断じて違う!」と福井さんに言い放ったこともあるんですけど、でも、それも第十話くらいまでのことでした。そこを過ぎる頃には足並みは揃いましたね。福井さんが考えていることを形にしないことにはこの企画をやる意味がないんだと骨身に沁みて感じるようになったので、余程のことでなければ言わないだろうし、第十話以降は多分言ってないと思います。第十話までの間で色々な探り合いがあって、それ以降はチームになっていたってことですよね。

SPECIAL┃宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち

まさに劇中のクルーのように、それまでぶつかり合っていた岡さんと福井さんが、第10話を過ぎた頃には「チームになって」進むようになった。劇中の構図とよく似ていますよね

岡さんは、前回の記事で述べた「側」の論理でいけば、出渕さんと同様の「こちら側」のクリエイター*4。それ故か、初めの頃はよく福井さんに異論を唱えることもあったそうです。

岡 (略、キーマンについて)その話を聞いた瞬間、血管切れそうになりましたね。「キャラクターは殺すために生み出すものじゃねぇ!」と会議テーブルを飛び越して殴りかかりそうになった。

(「福井晴敏×岡秀樹」『シナリオ編』347頁。)

これも一例です。あるいは『シナリオ編』の第17、18話ゼロ稿を読んでみれば、これは相当、岡さんと福井さんの間だけでも物語が行ったり来たりしているんだろう、という様子が窺えます。また土星沖海戦に際して、岡さんが『ヤマト2』スタイルの艦隊戦(ヤマトと地球艦隊を共闘させる)を希望していたということはよく知られています。

一方で福井さんの方も、初対面の岡さんに

3人で新作のアイデアをすり合わせることになり、福井さんは、羽原さんと岡さんの用意したアイデアに厳しい意見をぶつけた。福井さんは「いまだに笑い話で言われるけど、僕は『ダメだ、こりゃ!』って言ったらしいんです」と振り返る。

宇宙戦艦ヤマト2202:愛を問う物語に 羽原信義、福井晴敏、岡秀樹に聞く - MANTANWEB(まんたんウェブ)

「ダメだ、こりゃ!」という厳しい言葉を浴びせるなどしていますから*5、この二人の感性は初めから一致しておらず、一定のズレがあります。だからこそ、福井さんや製作委員会は「助手」として、岡さんの力を必要としたわけですが。

そんな風に、酒飲み交わしてぶつかり合っていた(?)福井さんと岡さんが、ある意味「ここだ」と落ち着いて前に進み始めたのが、まさに第10話が作られた時期。

その第10話は、ホタルに酔って本音をぶちまけてぶつかり合ったクルーが(テレサの声を聞いて)一致団結し、艦長代理・古代が「向かうべき目的地」を一つに定める

岡 (略)僕はオリジナル至上主義の人間だから、『さらば』から劇的に変化させる必要を正直感じていない。同じ船に乗り合わせているのに航海長が引いた航路図に疑惑の目を向けていた部分も最初はありました。が、福井さんに伴走して書いていくうち、徐々に向かうべき目的地は一つに纏まっていったように思います。

(「福井晴敏×岡秀樹」『シナリオ編』348頁。)

それが、第10話の肝だったわけです。

この偶然の、でもどこか偶然とは思えないような一致が作品の内容と作り手をめぐって存在しているのが、『2202』第10話の不思議なところだと思います。

*1:1 本編を観る──【ヤマト2202】第10話を振り返る - ymtetcのブログ

*2:2 シナリオを読む──【ヤマト2202】第10話を振り返る - ymtetcのブログ

*3:3 構成メモを読む──【ヤマト2202】第10話を振り返る - ymtetcのブログ

*4:『2202』が批判される中でも、福井さんや小林さんほどには岡さんが批判されないのには、ひとつそういった背景があります。

*5:ただ、この時点では岡さんのアイデアが「『2199』の続編」というオーダーで作られたことを福井さんは知らなかった(自分と同じ「『さらば』のリメイク」だと思っていた)そうです。