ヤマトオープニングにも変革が欲しい
◯はじめに
以前の記事で、クリエイターの創作を制限する「壁」について考えてみました。ヤマトシリーズの話でしたので、シリーズ作品としての「壁」に関する議論でしたが、今日は少し異なる「壁」について考えてみます。
それが音楽というフィールドにおける「壁」です。
特に今日は、『宇宙戦艦ヤマト2199』とUVERworldを題材に、アニメ作品と著名アーティストのタイアップ・コラボレーションを考えてみたいと思います。
〇アーティストは本来自由である
アートの世界は自由です。もちろん一定限度という名の制限はありますが、それでも、自由が奪われてはなりません。
特に、観客から「自分たちの作品」を期待されるUVERのような著名アーティストなら尚更。商業作品でありながら、自分たちのスタイルで自分たちのオリジナル作品を生み出すことが求められています。そこにあるのは、アーティストの自由です。
〇主題歌は自由ではない
一方で、主題歌に自由はありません。
「作品の世界観」という壁があるからです。
この壁が、アーティストの作品作りを制約します。
極端に言えば、アーティストの自由は奪われてしまいます。
だからこそ、本来主題歌は面白いのです。
自由を奪われたアーティストが、その中でどのように「自分らしさ」を出していくか。
葛藤の中で生まれる楽曲は、自分たちの作品でありながら、自分たちだけの作品ではない。
いわゆる「縛りプレイ」のような環境で、自分らしく立ち回ることが求められるのです。そこに、面白さがある。
〇タイアップという不幸な発明
しかし、誰が考えてしまったのか、アニメにもドラマにも「タイアップ」という選択肢があります。
作品があり、それと全く関係のない楽曲がある。
それらを半ば強引に結び付けて、双方のプロモーションに繋げていくという発想。
ヤマトファンに分かりやすい具体例を挙げるならば、ヤマト2199テレビ版のEDテーマたちです。
2013年第一弾シングルは、なんと! あの中島みゆきによる書き下ろし楽曲に決定!作曲にあたり、中島美嘉のこれまでの活動内容やインタビュー記事を集め、そのメロディーと歌詞に反映したという本作
Mika Nakashima official website
これは『愛詞』発表時の情報ですが、当時は「ヤマトのヤの字もない曲だな」と呆れたものです。この他の楽曲も同様に、ヤマトの世界を描いた楽曲ではない。
これが、主題歌の面白さを殺したタイアップという発明です。
〇脱タイアップの傾向も
2199と2202で音楽を担当されている宮川彬良氏は「最近のアニメは劇中音楽と主題歌の担当者が違うことが多い」ということについて不満を漏らしており、「劇中音楽と主題歌のアーティストが同じ」ことを理想としています。
その点、2016年に大ヒットした映画『君の名は。』では、劇中音楽と主題歌を共にRADWIMPSが担当しており(バンド故に複数人ではあるものの)、これによって、単なるタイアップに留まらない音楽づくりも再評価されていると思います。
また最近では、ヒットメーカーである星野源が『ドラえもん』をテーマに主題歌を作りました。
少しだけ不思議な 普段のお話
という一節から始まるその曲は、ややストレートすぎるきらいがありますが、実直に作品の世界観を描き出そうとしています。それでいて彼らしいメロディ運びがあり、随所に彼らしい歌詞が散りばめられているあたり、この『ドラえもん』が理想的なコラボ主題歌であることは言うまでもありません。
〇UVERworldなりの誠意
では、ヤマト2199テレビ版のOPはどうだったか。
そもそも、2199をテレビ放送した枠はソニーミュージックの影響下にあるため、もとより劇場版のOPEDを維持することは不可能であったと言えます。
1話~15話までOPを担ったProjectYamato2199による「宇宙戦艦ヤマト」はランティスの主導下で制作されましたが、こちらはスポンサーの一つであるアニソンレーベル・ランティスが、自社の都合と照らし合わせて作り出した妥協案だと思います。
さて、16話以降、26話に至るまでOPとして使われたのはUVERworldによる「Fight For Liberty」です。
まずはページトップから聴いてみてください。
色々な感想があろうかと思います。
歌詞については当初、さっぱりヤマトとは違うなと思わされたものですが、視点をデスラーに移動させてみると意外としっくりきます。2202で追加された設定を踏まえても同様です。
では、この曲がいかにして成り立ったのかを少しだけ振り返ってみましょう。
誰もが知っているアニメということのプレッシャーもありましたが、曲創りにおいてはなるべくそれを排除することを意識しました。数あるアーティストの中からUVERworldを選んでいただいたからには、それに応えられるよう“自分たちらしさ”を出すことに専念し、生まれたのが今回の楽曲になります
リメイクされた『宇宙戦艦ヤマト2199』に劣らぬよう、UVERworldの今のサウンドとメッセージを詰め込んだので、幅広いヤマトファンの方々にも満足していただけたらうれしいです
(TAKUYA∞)
当初作っていた違う楽曲もあったんですが、より合う楽曲を作りたくて、楽曲を書き直しました。レコーディングでの音作りなど細かいところにも苦戦しましたが、結果、本当に満足いく楽曲ができたので楽しみにしていてください
(真太郎)
完成した楽曲を聴いたとき、新しい『宇宙戦艦ヤマト2199』の主題歌としてふさわしい、強いメッセージを感じました。この楽曲なら、2199版ヤマトのイスカンダルまでの大航海を熱く、激しく、盛り上げてくれると確信しています
(宇宙戦艦ヤマト2199製作委員会)
これらのコメントからは、宇宙戦艦ヤマトの何を彼らが描こうとしたのかは見て取れません。一方で、「自分たちらしさ」を強調する言葉が目立ちます。
このアプローチはある意味、アーティストとしては間違いではありません。アーティストが自分たちのスタイルを貫くことに罪はありませんから。
それどころか彼らは、作品に合うように複数のパターンを用意して、調整している。
理想的な形ではありませんが、アーティストなりの誠意は見られると思います。
しかし現実として、この楽曲が作品と全くマッチしていなかったことは事実です。デスラーがもう一人の主人公となった第23話以外では、ほとんどの場合宇宙戦艦ヤマト側が主人公でした。「Just War」(正義の戦い)から始まるこの歌詞は、デスラーにはマッチしても(おそらくこれも偶然)、ヤマトには全く合っていません。
要は、主題歌として全く機能していなかったのです。
〇阿久悠、宮川泰に代わるヒットメーカーが必要
とはいえ、この一件を踏まえて「やはりヤマトはあの曲以外ありえない」という方向に持っていくのは間違いだと私は思います。
もちろん「宇宙戦艦ヤマト」は『宇宙戦艦ヤマト』の主題歌としてこれ以上なく優れた楽曲ですが、ヤマト2・ヤマトⅢ・復活篇・ヤマト2202の宇宙戦艦ヤマトが何故かイスカンダルに旅立ってしまっているように、この曲には「銀河をはなれイスカンダルへ」という歌詞の限界があります。
エンディングテーマには2199以来、多様性が生まれました。
など、著名アーティストと宇宙戦艦ヤマトのコラボが主題歌として実現しています。
私はさらに、OPでもこのようなコラボにチャレンジして欲しいと思います。
無論、主題歌としてのコラボレーションです。
もっと理想を述べるなら、タイトルは「宇宙戦艦ヤマト」が相応しいでしょう。これによって、主題歌としての制約、すなわち「壁」を極限まで高めることができますから。
最もヤマトファンにとって理想的な布陣は、作曲を宮川彬良、作詞を畑亜貴(大のささきいさおファン)で、ささきいさお氏に歌唱してもらうことでしょうか。
しかしながら、それにさえこだわる必要はないと考えます。
星野源の「宇宙戦艦ヤマト」、RADWIMPSの「宇宙戦艦ヤマト」があっていいんです。
阿久悠・宮川泰という、時代のヒットメーカーが生みだした「宇宙戦艦ヤマト」です。
それに代わる新しい主題歌を生みだすには、今のヒットメーカーの扉を叩くことも選択肢に入れるべきだと、私は思います。
◯訃報
2199、2202で土方艦長を演じておられた石塚運昇さんが亡くなったと……合掌。
素晴らしい演技でした。ありがとうございました。