ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

福井さんって「シリーズ構成・脚本」と言わなくなりましたよね

こんにちは。ymtetcです。

最近『銀の匙 Silver Spoon』という数年前のテレビアニメを観ています。

ここまでだと「"etc"」の方のブログに書くべき話題なのですが、タイトルに書いてある通り、ちゃんと『宇宙戦艦ヤマト』と関係のある話です(笑)。

さて、このアニメについて語ることはまだありませんが、ひとつだけ、気になったことがありました。

このアニメ、オープニングでは「シリーズ構成・脚本」として岸本卓さんの名前がクレジットされています。そして、エンディングに「脚本」のクレジットがありません。

多くのテレビアニメでは、オープニングで「シリーズ構成」がクレジットされ、エンディングで「脚本」がクレジットされます。「シリーズ構成」は常に同じ人が担当されますが、「脚本」の場合は「絵コンテ」や「演出」と同様、各話で異なる人が担当されるのが通常です。

それが『銀の匙』の場合、全話の「脚本」を岸本卓さんが担当する、という形をとっている、という事情があります。

 

「ああ、だからオープニングで『シリーズ構成・脚本』とまとめてクレジットしているのか……」

 

と思ったその時、今日のタイトルになった出来事を思い出しました。

『2202』の福井さんは当初、「愛の宣伝会議」等で自己紹介する際、「シリーズ構成・脚本の福井晴敏です」と言っていました。それが次第に、「シリーズ構成の福井晴敏です」としか言わなくなりました。

それに気がついた時、「福井さん何かあった?」と少し心配になったものです。

ちなみに『2202』の公式HPには、福井さんは「シリーズ構成」としてクレジットされています*1。一方で、総集編タイトル発表のニュースには「シリーズ構成/脚本」とクレジットされています*2

なので、深く考えていない可能性も大です(笑)が、こちら側はもう少し考えてみましょう。

 

そもそも「シリーズ構成」とはどんな役職なのでしょうか。

シリーズ構成とは - Google 検索

「シリーズ構成」は、複数の脚本家を擁する作品において、そのシナリオを統率する「脚本監督」の役割を担います。「チーフシナリオライター」という表現を用いる方もおられます*3

余談ですが、『2199』の出渕裕さんは「総監督」であり「シリーズ構成」でしたので、シナリオ面も「監督」したという意味で、文字通り『2199』の総ての「監督」だったと言えます。

『2199』には出渕さん自ら脚本を書いた回もあれば、大野木さんや森田さんなどに脚本を委ねた回もありました。ですが、出渕さんの肩書はあくまで「総監督・シリーズ構成」であり、「総監督・シリーズ構成・脚本」ではありません。

このように、「脚本監督」として「シリーズ構成」の役割を考えてみると、『2202』における福井さんの役割をどうクレジットするかは、確かに難しかったと思います。

まず、福井さんが「シリーズ構成」であることに違和感はありません。そして、福井さんは全話の「脚本」を担当するスタッフでもあります。そうすると、「シリーズ構成・脚本」というクレジットが正解……

ではありません。岡秀樹さんがいます。

岡さんは『2202』全話で、福井さんの構成案に基づく各話のプロット作りとゼロ稿作りを担当しました*4。福井さんの初稿は岡さんのゼロ稿をベースに書くわけですし、具体例を出せば、第二章第5話の山南をめぐるドラマはほとんどが岡さんの仕事だそうです*5。岡さんの仕事は「脚本」といっても差し支えないと考えます。

こう考えていくと、正解は『2202』のオープニングとエンディングにあることが分かります。

『2202』では、オープニングで福井さんが「シリーズ構成」としてクレジットされ、エンディングで福井さんと岡さんが「脚本」としてクレジットされました。

これが『2202』の実態に合っているクレジットだと言えるでしょう。

その点から言えば、『2205』スタッフ発表の「シリーズ構成/脚本:福井晴敏」「脚本:岡秀樹」という表記は間違ってはいませんが、どこか違和感が残ります。福井さんが何をしているか、岡さんが何をしているかが反映されていないからです。

名前が重複することを嫌がったのかもしれませんが、ここも「シリーズ構成:福井晴敏」「脚本:福井晴敏・岡秀樹」とクレジットすべきだったと考えます。

 

さて、こう考えると、次に気になるのは「なぜ福井さんは最初『シリーズ構成・脚本』と言っていたんだろう?」ということです。

これを考える上で、『2202』シナリオチーム結成の経緯が重要になってきます。ポイントは、岡秀樹さんがどのタイミングで『2202』に加入したかということです。

そもそも『2202』のシナリオチームは、西﨑彰司さん率いる「ボイジャーエンターテインメント」が福井晴敏さんを2015年4月に、羽原信義さんが取締役を務める「XEBEC」が岡秀樹さんを2015年6月に招聘したことがきっかけで、福井さんの企画をベースに岡さんが助言を加える「福井・岡」体制が成立しました*6

二人が初めて顔合わせをした2015年6月。彰司さんからオファーを受けて4月の時点で『2202』の企画書を提出していた福井さんに対し、羽原さんから5月にオファーを受けた岡さんが、『2202』とは全く異なる企画書を持ち込みます。その企画書は現在読むことはできませんが、「『さらば』の展開を前半13話で使い使い切り、後半の13話は全くのオリジナルストーリー」だったそうです*7

岡さんの企画は(どのような経緯かは不明ながら)没となり、時間断層など、一部の設定は福井さんの判断で『2202』へと盛り込まれてゆきます。そして岡さんは福井さんの「助手」として*8、『2202』に加わることになりました。

この経緯を見ると、どうやら『2202』は、製作委員会内で複数の企画を戦わせつつも、あくまで福井さんの企画ありき&ボイジャー中心で進んでいたことが分かります。

ここから、この「シリーズ構成・脚本」をめぐる動きについて、いくつか推測を重ねてみると、およそ三つの説が浮かんできました。

まず一つ目は、「単純に対応が遅れた」説です。『2202』が、仮に「シリーズ構成・脚本:福井晴敏」という構図ありきで企画され、メディア向け資料を整備していたとします。その後、「脚本」として岡秀樹さんが加入し、実態が「シリーズ構成:福井晴敏」「脚本:福井晴敏・岡秀樹」へと変わっていく中で、本編では修正してクレジットしたものの、「愛の宣伝会議」などの台本を作る上では修正されなかった、という可能性です。

もう一つは、「岡さんを『脚本』にするつもりがなかった」説です。かつて『けものフレンズ』をめぐって一悶着あったようなのですが*9、クレジットは権利の帰属も絡みますので非常に敏感な問題で、正確に行う必要があります。ここで重要なのが、岡さんが『2202』製作委員会にオファーを受けた際の「助手」というワードです。

すなわち、製作委員会の認識として、岡さんは「助手」で、クレジットにするのであれば「文芸」あたりを想定していたものの*10、役割から考えるとむしろ「脚本」とクレジットする必要があると認識されるようになった。そこで、本編では「脚本」としてクレジットしたものの、企画当初の「シリーズ構成・脚本:福井晴敏」という表記がしばらくは残ってしまった、という可能性です。

 

最後は、「特に意味はない」説です。実は『シナリオ編』の福井さんと岡さんの対談でも、福井さんは「シリーズ構成・脚本」と表記されています。また、『2202』情報解禁当初のメディア記事でも「シリーズ構成」とだけ表記されていることもあります。何より、本編のクレジットは『2202』の実態に即しているため、『けものフレンズ』のような問題が生じることはありません。

ですが、やはり「シリーズ構成・脚本」と「シリーズ構成」では、若干ではありますがニュアンスが変わってくることは間違いありません。それは、『2199』において仮に出渕さんが「総監督・シリーズ構成・脚本」という肩書きだったとしたら……と簡単に想像してみるだけでも分かります。

「シリーズ構成・脚本」か「シリーズ構成」か……一見すると些細な問題ですが、『2202』の時に一度心配になってしまった私としては、その背景を考えずにはいられませんでした(笑)。何かのきっかけになれば幸いです。

 

これは本当の余談ですが、冒頭で名前を挙げた『銀の匙』には「副監督」という役職があります。あまり一般的な役職ではないのですが、それでも、他のアニメを観ていて時々見かける役職名ではあります。

一体、どれくらいの割合でアニメ作品が「副監督」という役職を置いているのでしょうか。検証したい気持ちも湧いてきましたが、全てのアニメ作品を網羅するか統計学的アプローチをとるか、と考えると、今の私にはなかなか難しそうですね。

*1:STAFF┃宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち

*2:NEWS | 宇宙戦艦ヤマト2202

*3:「シリーズ構成」ってどんな仕事? 『アプモン』加藤陽一さんが語る二つの役割と脚本の極意 - 理想は「何も知らないで見ても面白い」 | マイナビニュース

*4:『2202』のシナリオ成立過程から『ヤマト2205』=「短期決戦」へ - ymtetcのブログ

*5:私の岡さんに対する評価が高いのは、山南のドラマを作ったことや、過去記事「2202第8話Aパートは再評価されるべきだと思う - ymtetcのブログ」で引用した岡さんのツイッターでの発言、などなどの背景があります。

*6:『シナリオ編』346頁、インタビューより。二人は結果的に『2202』に携わったため明言されているものと思います。他にも企画段階で「製作委員会」に招聘された脚本家がいたかもしれません。

*7:『シナリオ編』347頁。

*8:「会議室を出る直前に偉い人から、福井さんの助手をやってくれないかって要請を頂いた」

*9:けものフレンズ シリーズ構成・脚本 クレジット問題 - Google 検索

*10:実際に岡さんは「文芸」的なお仕事もされていたようです。「宇宙戦艦ヤマト2202」 羽原×福井×岡インタビュー - アキバ総研