ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

『ヤマト2202』第五章から二年──だからこそ観たい動画

こんにちは。ymtetcです。

2018年5月25日に公開された『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第五章「煉獄篇」。今週の月曜日で、公開から2年が経ちました。

そんな中、MMD*1創作やPSゲーム『ヤマト』の実況でお馴染みのFGT 2199様が、「土星沖海戦について語ります。」という動画を23日に投稿されました。

www.youtube.com

(例によって勝手にリンクを貼りました。すみません)

FGT 2199様は私よりも遥かに知名度のある方なので恐縮ですが、私なりに簡単に紹介しますと、

FGT 2199 - YouTube

これまで多くの魅力的な艦隊戦を演出しておられる方です。次世代を担うクリエイターの一人だと私は思います。

FGT 2199様の作風としては、『2199』と『2202』の双方をリスペクトしているのが特徴的でしょうか。

私の記憶では、確か『2199』にはやや批判的で『2202』にはやや肯定的、という立場を自認されていたように思いますが、その内実、ツイッターでは両作品とも認めるべき点は認め批判すべき点は批判するといった筋道の通った主張を、MMD動画では両作品が試みた成果を活かして、両作品の魅力を両立させた演出をされているように思います。この動画に関しては、『2202』の土星沖海戦をやや批判的な立場から分析されていますね。

 

さて、この動画は、『シナリオ編』に収録されている「シナリオ」第17話の第一稿、第18話の第二稿を資料として「シナリオ」と本編との比較をする、というのがテーマになっています。

内容面では、『2202』シナリオの艦隊戦を構造的に読み解いておられた点が、さすがだなと思わされました。触発されて私も「シナリオ」第17話第18話を読んでみましたが、「シナリオ」の記述をここまで再構成するのは容易なことではありません。これは数多の艦隊戦を演出されてきたFGT2199様だからこそ、と思います。

 

その中で一点、私が注目すべきだなと思ったことがありました。

それは画面上に字幕で表示されている、

両者、大砲を撃つリスクを背負ってて良い描写だと思う。

https://youtu.be/MOVnBPEYbXc?t=678

という記述です。

というのも、この記述はPSヤマト、特にPS2の暗黒星団帝国三部作をプレイしたことのある方なら共感するポイントだと思うからです。

このゲームは私もかつてプレイしたことがあるのですが、このゲームの艦隊戦で『2202』の「波動砲艦隊構想」チックな戦術を行うのは、実はかなり難しいんですね。

このゲームでは、波動砲のチャージ中は一切の攻撃ができなくなるどころか(これは記憶違いかも……)、速力さえも大幅に低下してしまう。とにかく、波動砲チャージ中の艦隊を敵の面前に晒すのはとてもリスクが大きいわけです。

波動砲チャージ途中に敵艦隊と遭遇してしまったら、波動砲チャージを切って即座に何らかの対応するか、チャージが終わるまでボコボコにされるか、のどちらかを選ばなければなりません。このゲームで「拡散波動砲が撃ちたい!」と躍起になっていたymtetc司令は、何度もチャージ中の艦隊を犠牲にしてきました(笑)。

その意味で、「シナリオ」で山南司令が採った戦術は理解できます。ゲームに置き換えるなら、敵のレーダー範囲外で波動砲艦隊に波動砲をあらかじめチャージさせておいて、動ける艦隊で波動砲の射程圏まで敵を誘導する……そんなイメージですからね。

波動砲での攻撃を基軸に海戦を行うリスクとその対応策が描かれるだけでも、本編『2202』の土星沖海戦にはかなりのリアリティが付加されたのでは、と思わされる記述でした。

 

最後に「シナリオ」第17話を読む中で、私が「かっこいい」と思ったシーンがありましたので、以下にこちらを付け加える形で紹介してみたいと思います。

本編にもあった、中央作戦室で古代が「自分たちをも含む、全生命の抹殺」というズォーダーの狙いに気づき、戦慄するシーン。その直後に土星沖海戦が始まるわけですが、「シナリオ」では、この場面の演出がかなり良さそうに見えました。

〇中央作戦室

(略)

島「(戦慄し)じゃ、奴らの目的は──」

古代「(頷き)全宇宙の支配……そんなものじゃない」

〇美しいリングを誇る土星

古代の声「自分たちをも含む、全生命の抹殺……それがズォーダーの──」

突如、そのリングの中からすさまじい閃光が発し、みるみる膨れ上がってゆく。

リングを構成する氷片や小惑星を呑み込み、土星本体にまで迫る閃光。

付近を航行していた地球のパトロール艦などは、大波に洗われる小枝ですらない。膨張する光に呑み込まれるパトロール艦。

× × ×

激震するパトロール艦の艦橋にて、必死に報告する艦長。

(略) 

”古代の声”というのは、絵コンテで表現するなら”古代(OFF)”でしょうね。演出の流れとしては、ざっとこんな感じかと思います。

  • 古代「(頷き)全宇宙の支配……そんなものじゃない」
  • カメラが”美しいリングを誇る土星”を映し出す。静寂。
  • カメラが土星のリングをアップで映す。氷片や小惑星で構成されたリングの中、付近を航行するパトロール艦。静寂。
  • 古代(OFF)「自分たちをも含む、全生命の抹殺……それがズォーダーの──」
  • 土星のリングが閃光に包まれ、先ほどまでの静寂が破られる
  • 強力な重力場が発生し、パトロール艦たちが呑み込まれていく。
  • 白色彗星が出現する。土星沖海戦のスタート。

この演出は『2202』に特徴的なものでしょう。

本編第2話で、キーマンが古代に「月面のガミラス大使館に(招待する)」と言った際、カメラは月を映しています。そして、古代とキーマンの会話とは直接関係のないコスモタイガーが画面に入り込んできて、訓練を通して山本・加藤の現在が語られる。

このシナリオ第17話の演出は、本編第2話のそれと同じイメージと解釈していいと思います。

ヤマトクルーがズォーダーの真の目的を確信した直後に映し出される土星の静寂は、古代の戦慄を受けた不穏な”静けさ”です。シナリオでわざわざ強調される「美しいリングを誇る」という一節は、これから土星に訪れる凄惨な戦い、破壊されていく土星の姿を強調するための前振りのようなものでしょう。

そして、この不穏な静寂を破るように、白色彗星=ズォーダーそのものが土星に襲い掛かる迫力と、凄み。美しい姿を持つ土星が白色彗星に食われてゆく悲劇性。小さなパトロール艦が、轟音をたてながら白色彗星に呑み込まれていく絶望感。

こういったものが、シナリオ第17話では演出されています。このシーンが実現していたら、きっと私のお気に入りシーンの一つになっていたと思います。

 

福井さんも(『シナリオ編』巻末の岡秀樹さんとの対談で)認めているように、『2202』のシナリオの”ト書き”はかなり細かく書かれています。

シナリオには小説ほどの丁寧さと重厚感、面白さがあるわけではありませんが、その分、読みやすくなっているといえます*2。そして文字情報だからこそ、アニメほどの「わけわかめ」ではない。そういう意味で、『シナリオ編』は『2202』を語る上での最高の副読本と考えます。

私からもおすすめしておきます。

*1:

MMDとは (エムエムディーとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

*2:何より、シナリオは本編の元になった一次情報。小説版はシナリオと本編と2199とのギャップを踏まえて再構成した二次情報ですから、シナリオの方が、『2202』を検証するための情報源としては有力なものです。