ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

『宇宙戦艦ヤマト2202』は誰の作品か

こんにちは。ymtetcです。

今日は『ヤマト2202』定番の問いです。

Q:『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』とは、誰の作品だったのか。

内容的には「あなたの物語」なんですが、そんな深い話ではなく。

スタッフのお話をします。

簡単すぎる答え

答えは簡単です。『2202』は誰の作品だったのか。それは、私たちがその時『2202』の何を語っているか、によって変わります。

 

ストーリーに着目するのであれば、シリーズ構成(シナリオ監督)の福井晴敏

メカに着目するのであれば、副監督(メカ監督)の小林誠

演出に着目するのであれば、監督羽原信義副監督小林誠

 

ここでいう「監督」は、いわゆる「演出家の代表としての監督」です。宮崎駿庵野秀明新海誠のような、作品の全てをコーディネートする「原作者(に近い存在)としての監督」ではなく、シナリオの映像化を主な役割とした「絵コンテ・演出」のスタッフたちを統括する存在としての「監督」であり「副監督」である、との位置づけです。

このようにして、『2202』は語り手の着目点に応じて、”福井晴敏の作品”、”小林誠の作品”、”羽原信義の作品”と姿を変えていくものと考えます。

「総監督」不在の『2202』

どうしてこんなことになっているかというと、『2202』は「総監督」職を設置しなかったがために、責任の所在が極めて曖昧になっているのです。

『2199』と『2202』は、おおざっぱに言うと、こんな違いがありました。

まず『2199』はこうです。

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<総監督>

<各セクションの「ディレクター」(監督)>

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組織構造図に置き換えて考えていただきたいのですが、まず、シナリオ、演出、メカの各方面においてこれを「監督」する役割のスタッフがいますね。そして、その上に「総監督」がいる。しかも総監督はシナリオ監督を兼任している。『2199』の全ては、ある意味「総監督」のフィルターを介して形になっていくシステムになっていたわけです。

一方、『2202』はこうでした。

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<各セクションのディレクター>

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さすがに羽原監督は『2199』の榎本さんよりは作品に対する権限を持っていたはずですので、必ずしも対比は出来ません。羽原さんの『2202』に対する権限は、榎本さん以上出渕さん以下といったイメージでしょうか。

さて、『2202』は『2199』と違って組織構造図を作れず、演出・メカ・シナリオの三つの柱が並び立っている様子が分かります。もちろん、こういった形のスタッフ構成をとるアニメ作品は山ほどありますが、それらの作品は決まって責任の所在が曖昧になっています。また、責任の所在を明確にする必要のない作品であるケースも多いです。

『2202』はこのような形で、演出などの映像面は羽原さん&小林さんのフィルターを介してメカなどのデザイン面は小林さんのフィルターを介してシナリオは「絵コンテ段階まで」福井さんのフィルターを介して、それぞれが『2202』という一つの作品に向けて各セクションにおいて責任を持ちながら形にしていくシステムだったわけですね。

しかも今回は、「シリーズ構成:福井晴敏」ありきの作品です。その一方で、映像作りでは「副監督:小林誠」がぐいぐいオレ流に引っ張っていく。「監督:羽原信義」にも彼なりのこだわりがある。こういった中で、「船頭多くして……」というより、もはや船頭が誰かもわからない状況に『2202』は陥っていったのではないでしょうか。想像でしかありませんが、福井さんが「こんなので行きましょう」とシナリオを出し、小林さんが「これでどうか」と言い、羽原さんが「すげー!」と言い、福井さんは「まぁいいんじゃないですか」と言う。誰の作品か分かりませんよね(笑)。そういった形で作品が作られていたのかもしれません。

その結果『2202』は、責任の所在としては以下のような状況に陥ったと考えます。まず、シナリオの問題は羽原さんや小林さんの責任ではないし、もちろん、演出やメカや美術の問題は福井さんの責任ではない、でも羽原さん&小林さんはシナリオを改変できる立場だし、福井さんは絵コンテ段階までシナリオに関わっていると言うから全く責任が無いわけでもない……という、極めて曖昧な状況です。

『2199』の、「シナリオ、メカ、美術、演出……全て『総監督』がオッケーを出してるんだから『総監督』の責任だ」という潔さに比べると、『2202』の、全体像として「〇〇の作品である」とは言い難い状況が見て取れます。

『2202』スタッフ余談

ところで、こう見ると『2202』は、

  • メカ・演出:『復活篇』スタッフ
  • 脚本:『復活篇』を(酒の席とはいえ)バカにしていた福井晴敏

の、奇妙な組み合わせになっています。

『2202』スタッフの全体は「旧作の雰囲気の復活」という方向性ではある程度一致していたようですが、言い換えるならば、

  • 『復活篇』の「西崎学校」で旧作『ヤマト』の作法を叩き込まれた羽原信義小林誠*1
  • 旧作『ヤマト』の雰囲気は尊重するけれど正直「古臭い」と思っている福井晴敏

の組み合わせだったわけで、実際の作劇路線はかなり異なっていたのではないかと思います。『復活篇』を笑っていた福井晴敏のシナリオを『復活篇』スタッフが映像化する……と書くと、現場の混乱は不可避だと分かりますよね(笑)。『2199』ファンの岡秀樹さんを加えたところで、焼け石に水だったのかもしれません。

この混沌とした『2202』を、総集編でどこまでこれを一本にまとめられるのか。

総集編には羽原さんは加わらず、構成/監修を福井さんが担当、皆川ゆかさんが脚本、ディレクターは『方舟』OPと毎章PVでお馴染みの佐藤敦紀さんで行われます。決して羽原さんが悪いわけではありませんが、少なくとも総集編は福井さん一人のアイデアをベースにまとめられるわけで、混乱は少ないと予想されます。しかも、『2199』への深い造詣を小説版で見せている皆川さんが携わるので、未来の『宇宙戦艦ヤマト』への期待を抱かせるには十分な布陣でしょう。期待したいと思います。

*1:小林さんをこちらに含めてますが、彼は『2199』第14話を褒めていた人間でして、実は旧作『ヤマト』路線へのこだわりが強いとも思えない現実があります。メカを見て分かる通り、彼はどちらかと言えば『ヤマト』の枠にとらわれない変革を求めるタイプだと思われますね。メカはともかく、演出家としては、ある意味羽原監督の意向に合わせて仕事をしていたのではないでしょうか。