ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

『ヤマト2202』以降の『ヤマト』の進む道

こんにちは。ymtetcです。

前々回の記事では、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズを血統に見立て、血統の中での『Λ』の立ち位置について考えました。今日はそこから発展させつつ、『2202』とそれ以降の『宇宙戦艦ヤマト』について、「”才能”を探す」との言葉から考えてみましょう。

①『完結編』以後の『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ

『完結編』以後の『宇宙戦艦ヤマト』シリーズは、複数の企画を同時進行させる傾向にあります。例えば『2520』と『復活編』はそうですし、『復活篇』『2199』『実写版』の企画が同時に進行していたこともよく知られています。また、『2199』シリーズが展開されていた間、『復活篇第二部』や『ハリウッド版』の企画が公表されたことも、記憶に新しいと思います*1

そして現在は、『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』『アクエリアスアルゴリズム』『宇宙戦艦ヤマトNEXT スターブレイザーズΛ』が同時に進行していますね。映画だ、テレビシリーズだ、実写だ、ハリウッドだと活気づいていた頃を思えば徐々にスケールダウンしている感は否めませんが、それでも『宇宙戦艦ヤマト』シリーズは、今もなお一定程度の推進力を維持していると言えます。

②現在の『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ

では、現在の『宇宙戦艦ヤマト』はどんな状況にあると言えるでしょうか。

まず、『「ヤマト」という時代』は『2202』の総集編。とはいえ、ドキュメンタリー形式で1900年代から『宇宙戦艦ヤマト』世界を捉え直す試みだそうです。また、本作の制作には、宇宙戦艦ヤマト』のために作られた新しいアニメーションスタジオ<Studio Mother>が携わっている点にも注目しておきたいですね*2

『2205』はリメイクシリーズの新作で、前作で『愛の戦士たち』に挑戦した福井晴敏が、今度は『新たなる旅立ち』に挑戦します。

『アク・アル』はヤマトクルー有料会員限定の小説で、『完結編』と『復活篇』の間において、多面的な補完を試みています。

『Λ』は完全な新シリーズのコミックで、旧来の世界観を踏襲しない『宇宙戦艦ヤマト』のあり方に挑戦しています。

意識的にこの表現を用いましたが、こう眺めていくと、現在の『宇宙戦艦ヤマト』作品におけるキーワードは「試み」と「挑戦」なのではないでしょうか。宮川彬良さんの言う「もがき」も、ここには含まれるかもしれません。

③西﨑彰司さんの語る「才能」と、これからの『宇宙戦艦ヤマト

『2202』『2205』で「製作総指揮」を務めた西﨑彰司さんは、自らの仕事について、しばしば「才能を探すこと」と表現します。『2202』初期の公式HPに寄せられた、

「私にとって最も重要な仕事は才能を探すことです。

才能を見つけなければいけない。

今、このことが叶った様な気がします。」

との言葉が象徴的でしょう。『2202』では、その「才能」こそ福井晴敏であったわけです。

ではいったい、この「才能」とはいかなるものなのでしょうか。

僕の個人的な意見ですけど、映像作品というのはやはり物語が一番大切です。これがある程度感動をよぶものでないと作品の行方は非常にあやふやになってしまう。

SPECIAL┃宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち

これまでの発言から読み解く限り、「才能」とは、恐らくは「骨太のドラマを作る才能」を指しています*3

ですが、『2202』以降の積極的な動きを見ると、私には、西﨑彰司さんが求めている「才能」とは、また別のところにもあるように思えます。

私の言う「積極的な動き」とは、福井晴敏さんを起用して『さらば』をリメイクさせる試み、高島雄哉さんを起用して旧作世界を補完する試み、吾嬬竜孝さんを起用して全く新しい世界観の『宇宙戦艦ヤマト』を作る試み、そして、新しいスタジオ<Studio Mother>を設立する試みです。

このような「新しい」動き、そして、『2202』時のインタビューで福井さんが語っていた、「新しい『ヤマト』」が作れるなら大胆な改変も容認する「製作委員会」の姿勢を踏まえると、”才能”とは、”『1974ヤマト』とは一味も二味も異なる新しい『宇宙戦艦ヤマト』の姿を作る才能”をも指しているようにも思えます。

すなわち、父にあたる西﨑義展さんの作り上げた「『宇宙戦艦ヤマト』王朝」とは異なる、新しい『宇宙戦艦ヤマト』を作るための「”才能”を探す」。ここまでは考えていないかもしれませんが、無意識的にも、彰司さんはそれに近い野心を抱いているのではないでしょうか。

(略)そこでアニメ業界内外から様々な試みを持ち寄って、作品制作をしていこうと。先程述べたように、亡き父の西﨑義展もアニメ業界内部から様々な施策を打って、『ヤマト』という作品を社会現象にしましたから、僕も現代ならではのアプローチでその遺志を継いでいこうと考えているのです。(略)『ヤマト』というシリーズも初代から既に45周年を迎えていますから、古き良きタイトルのように思われることもしばしばあります。けれど、そういったまだ『ヤマト』に触れたことのない人たちが抱くファーストインプレッションを打破できるよう、歴史に囚われないアプローチを常にしていきます。(略)先日発表された新作についても、そういった方針の元で日々邁進していますので、今後も引き続き『ヤマト』を愛していただければ幸いです。

(「対談・インタビュー 西﨑彰司」『シナリオ編』351頁。)

「現代ならではのアプローチ」で西﨑義展さんの後を継ぐ。「歴史に囚われないアプローチ」を常にする。新作(ここでは『2205』)も、この方針で作る。彰司さんはこう語っています。私は彰司さんから、『宇宙戦艦ヤマト』に対する熱意以上の野心を感じます。

さらに、福井さんは西﨑彰司さんについて、こう語っていました。

企業家としても、経済原理を満たしていることだけに価値を見いだしているタイプではないので……。言わば面倒臭いタイプです(笑)。ある種、自分の美学と信念と哲学みたいなものがあってそれをある程度満たさないとOKを出さない。そこを見極めないといけないなというのがありました。

SPECIAL┃宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち

美学・信念・哲学を満たさないとOKを出さないプロデューサー。アニメ業界の変革を試みようとしているプロデューサー。「歴史に囚われないアプローチ」を掲げるプロデューサー。その反面、「資金の回収」と「納期」を堂々と舞台挨拶で語り、強調するプロデューサーでもありました。

野心的に、過去や慣例には囚われず、変革を常に意識しながら、商業的には堅実に。

これが、西﨑彰司さんのスタイルなのではないでしょうか。

そして彼が舵取りをしている『宇宙戦艦ヤマト』は、これからも、彼のスタイルに導かれて「試み」「挑戦」「もがき」を繰り返していくわけです。これからの『宇宙戦艦ヤマト』は、どこか不安定で、不確かで、それでいて熱意と野心とに満ちた、全く「新しい」姿へと向かっていくように私は予感しています。

*1:『ハリウッド版』に関しては2017年以降続報がなく、ファンとしては待つほかありません。『復活篇第二部』は、主要スタッフとなるはずだった小林誠さん・羽原信義さんが『2202』に携わり、半ば『宇宙戦艦ヤマト』を「卒業」したような形になってしまいました。『航海日誌』で言及されたのみでその後続報がないため、恐らく企画は凍結したものと思われます。もしかしたら、前回の記事でお話ししたような「ファンクラブ会報で公表してみたものの評判が良くなかったので取り下げた」事例だったのかもしれません。

*2:アニメーション制作スタジオ studioMOTHER株式会社への出資について|バンダイナムコアーツのプレスリリース

*3:『2202』公表時の『航海日誌』では、もっと踏み込んだ発言をしておられます。