ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【ヤマト】「戦艦大和の"呪縛"からの解放」が意味するもの

こんにちは。ymtetcです。

今日は『ヤマトマガジン』で連載されていた西﨑彰司さんのコラム・最終回について考えていきます。

戦艦大和の”呪縛”からの解放は、「ヤマトのこれから」を考える上で欠かせない、一つの選択肢となるだろう。大きなことを言わせていただけるなら、かつて西﨑義展が戦艦大和宇宙戦艦ヤマトとして蘇らせたように、宇宙戦艦ヤマトを再び、次の姿に再生させることもまた、”ニシザキ”を継いだ男の使命だと考える次第だ。

(『STAR BLAZERS ヤマトマガジン 13号』株式会社ヤマトクルー、2021年11月、47ページ。)

”西﨑”彰司さんは、いかにして「西﨑義展」を継承しようとしたのか。そういったテーマを軸に連載されてきたこのコラムですが、最終回では、「ヤマトのこれから」についてが語られました。

特に今回引用した部分では、「戦艦大和の"呪縛"からの解放」が語られました。ここでいう「"呪縛"」とは、戦艦大和の存在が、「現在の、そして未来の若者たちにとって、『ヤマト』の世界に触れる際の、一種の障壁となる」との彰司さんの認識から来ています*1。加えて彰司さんは『ヤマト』を、「かつて、我々を未知の冒険にいざなってくれた船が、そのままの姿で宇宙という新たな領域を目指す」物語だとも語っています*2「戦艦」「ヤマト」よりもさらに一般化した、いわば”宇宙の海をゆく船”との概念で、『ヤマト』を捉えようとしていると言えます。

『スターブレイザーズΛ』は、『宇宙戦艦ヤマト』を「宇宙」「戦艦」「ヤマト」の三つの要素に切り分けて、「宇宙を舞台とした」「戦艦に登場して戦う」「ユウ・ヤマトの物語」として再構築しました。しかし考えてみれば、ここでも、彰司さんのいう「呪縛」から作品は解放されていません。彰司さんは、もっともっと一般化して、新しい『ヤマト』を定義しようとしているように見えます。

 

そろそろ、私の考えも書いておきましょう。

確かに現在は、もはや「戦艦大和の時代」ではないでしょう。戦艦大和という存在には、かつてほどのカリスマ性や話題性がないことも事実です。

そして何より、1974年における戦艦大和よりも、2021年における『宇宙戦艦ヤマト』の方が”古い”存在だとの事実もあります。ゆえに、戦艦大和の歴史以上に『宇宙戦艦ヤマト』の歴史に着目して、それを再構築しようとする彰司さんの考え方には賛成ですし、実際に、少なくともリメイク以降の『ヤマト』は、そうなっています。

一方で、彰司さん自身も認めているように、何らかの”呪縛”から作品を解放する作業は、その過程で生み出されていく新作が『ヤマト』である必然性を失わせるリスクもはらみます。船が(そのままの形で)宇宙をゆくだけなら、もはや「戦艦」と「ヤマト」は必要なく、『オーディーン 光子帆船スターライト』でもいいわけです。

その意味で、彰司さんのアプローチは『ヤマト』のみならず、”宇宙は海”という松本零士さん、西崎義展さんの宇宙観の中に新作『ヤマト』の拠所を求めるやり方ではないかと思います。戦艦大和」という具体的な存在ではなく、”船が宇宙の海をゆく”世界観に、『ヤマト』のアイデンティティを求めようとしているのではないでしょうか。

 

今回の彰司さんの語りには、保守的な私は少なからず違和感をおぼえました。ただ、具体的な存在ではなく世界観にアイデンティティを求めていると解釈すれば、私の中では、多少、違和感も解消されたように思います。

なお、彰司さんも従来の『ヤマト』を捨てようとしているわけでは決してありません。「ヤマトのこれから」の中には、もちろんリメイクシリーズの完結と、『アクエリアスアルゴリズム』が口火を切ったオリジナルシリーズの復活も含まれているようです。そのことは、最後に言及しておきたいと思います。

*1:同上、47ページ。

*2:同上、47ページ。