ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

「アクエリアス・アルゴリズム」が切り開く新たな地平

こんにちは。ymtetcです。

現在『ヤマトマガジン』で連載されている小説「アクエリアスアルゴリズム」(以下「アク・アル」)。本作は今、それほど話題になってはいません。ですが、それは決して作品の出来が悪いからではありません。

「アク・アル」は『ヤマトマガジン』限定。すなわち、有料会員限定の作品なのです。『宇宙戦艦ヤマト』運営の重要な資金源である「ヤマトクループレミアム」会員を募集するための、ある意味「餌」のようなもの。ファンがその内容に触れながら感想を投稿する、それにはどこか、気が引ける思いがあるのでしょう。事実、私もそうです。

本作は非常によくできています。『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ全体へのリスペクトに加え、『復活篇』を補完せんとする熱意にも満ち溢れていると感じます。そして、それ以上に、本作には『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ上、重大な意義が存在しています。

重大な意義とは、一体なんでしょうか。本作の意義は、「未来」「可能性」「希望」を切り開く作品となり得る、その独特な立ち位置にあります。

①「アクエリアスアルゴリズム」が切り開くもの

本作が切り開くもの。それは『復活篇』の未来であり、旧『宇宙戦艦ヤマト』の可能性であり、『宇宙戦艦ヤマト』小説界の希望です。

②『復活篇』の未来

『復活篇』はすこぶる評判の悪い作品です。その最も大きな要因は、『完結編』との乖離にあると私は考えます。

「アク・アル」の物語は、『完結編』の敵役であったディンギル残党との戦いをベースに進んでゆきます。それに加えて、本作は『完結編』と『復活篇』の間に古代進が抱えた「ベルライナ事件」のトラウマを描くことにも挑戦しています。

今思えば、『復活篇』序盤にて古代進が放った「アクエリアス……」の一言は、とても重々しいものでした。この重々しさに深い意味を補完することができたとき、「アク・アル」は『復活篇』に新たな解釈をもたらし、その先にあるかもしれない『復活篇第二部』への可能性を、切り開く作品となり得るのではないでしょうか。

③旧『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの可能性

本作は、旧『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ上において最もギャップがあると思われる二作品『完結編』と『復活篇』のギャップを埋める作品でもあります。とはいえ、旧『宇宙戦艦ヤマト』作品の抱えるギャップは、『完結編』と『復活篇』の間に限りません。

例えば、『新たなる』と『永遠に』のギャップも小さくありませんし、『永遠に』と『Ⅲ』、『Ⅲ』と『完結編』のギャップもないわけではありません。何より『Ⅲ』に至っては、大幅な打ち切りのあおりを食って、本編そのものに大きなギャップが残されています(だからこそ、宇宙戦艦アリゾナのスピンオフが二次創作され、好評を得ていると言えます*1)。

「アク・アル」の評判如何によっては、今後、旧『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ作品に残されたギャップを埋める作業が活発化するかもしれません。リメイクシリーズがメインを張っているこの時代に、旧『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの可能性をぐっと広げたその功績は、大きいと言えるでしょう。

④『宇宙戦艦ヤマト』小説の希望

宇宙戦艦ヤマト』小説はこれまで、本編のノベライズが中心になっていました。ですが、今回の「アク・アル」は本編のノベライズではありません。

本作の評判如何では、『宇宙戦艦ヤマト』小説のジャンルも今まで以上に多様化していくものと思われます。それらの小説が土台になって、新しい『宇宙戦艦ヤマト』作品が作られることもあると思います。

さらにもっと欲を言えば、例えば『2520』の続きを小説で、あるいは『復活篇第二部』を小説で、といった、ファンが”アニメ化できないならせめてストーリーが知りたい”と願っていた作品を、小説で世に問う未来もあり得るかもしれません。

「アク・アル」はファンクラブ有料会員限定の小説です。ひどい表現ですが、ファンクラブ有料会員制とは、少数の「濃いファン」から多額の会員費を巻き上げるビジネスモデル。恐らくは、これまでの『宇宙戦艦ヤマト』小説の売り上げは、決して(本編に比して)芳しいものではなかったのではないでしょうか。それ故に「安全パイ」である本編のノベライズが、これまで中心になってきたのではないでしょうか。

「アク・アル」は、もしかしたら『宇宙戦艦ヤマト』小説の未来を切り開く作品になるかもしれません。

⑤「アクエリアスアルゴリズム」が切り開く新たな地平

アクエリアスアルゴリズム」が『復活篇』の新解釈を提示し、旧『宇宙戦艦ヤマト』シリーズのポテンシャルを知らしめ、『宇宙戦艦ヤマト』小説のジャンル多様化への期待をもたらす作品となれば、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズはさらにもう一歩、新しい地平を開くことができると考えます。

西﨑彰司さんは、『2202』で福井晴敏を起用した背景の一つに「『ガンダムUC』を羨ましいと思っていた」ことを挙げました。『ガンダムUC』こそ、まさに小説がアニメに転じた作品です。「小説→アニメ」の道筋が一つ『宇宙戦艦ヤマト』の将来像を描く上で有力なものとなるならば、それはきっと『宇宙戦艦ヤマト』 にとって、重要な進歩と言えるのではないでしょうか。