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偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

「シンゴジ的ヤマト」論から見る現在の『宇宙戦艦ヤマト』

こんにちは。ymtetcです。今日こそ、この記事ですね。

『宇宙戦艦ヤマト2199』と「12月8日」 - ymtetcのブログ

なお、以下はこれとは別の内容です。

〇はじめに

一昨年の12月、「シン・ゴジラになり得るヤマトを作るには」と題して、二本の記事を投稿していました。それは映画『シン・ゴジラ』(2016年、以下『シンゴジ』)から、

  • 前提知識を必要としない
  • リアリティがある
  • 時代性を持つ

の三つの要素を抽出し、それを『宇宙戦艦ヤマト』新作に応用する方法を考えたものでした*1。今回はこれを「シンゴジ的ヤマト」論と名付け、これに合わせて現在の『宇宙戦艦ヤマト』(以下、『ヤマト』)新作の状況を見ていきたいと思います。

映画『シンゴジ』は、『ゴジラ』シリーズという歴史あるシリーズの新作でありながら従来のファン層を超えたヒットを記録した作品であり、『2202』企画書風に言うなら「ゴジラ復権」をもたらした作品です。公開から4、5年が経とうとしている今、(強い時代性を帯びているが故に)やや「古く」なりつつある映画ではありますが、『ヤマト』にとっては依然として、いくつかのヒントをくれる映画だと考えています。

〇「シンゴジ的ヤマト」論の復習

「シンゴジ的ヤマト」論とは、『シンゴジ』から三つの要素を抽出して、『ヤマト』への応用方法を考えたものでした。すなわち、

  • 前提知識を必要としない『ヤマト』
  • リアリティのある『ヤマト』
  • 時代性を持つ『ヤマト』

を作ることが、「ヤマトの復権」に向けた一歩になるのではないか、と考えたものです。

まず、前提知識を必要としない『ヤマト』とは、「新ヤマト」の中では基本的に第一作『宇宙戦艦ヤマト』のリメイク(『SBヤマト』『2199』)のみでした。他の作品は全て何らかの作品の「続編」であって、前提知識を必要としていました。

しかし、「続編」であっても、全くの新しい物語を描くのであれば、その限りではないともしていました。例えば『復活篇』は、大人としての古代進を(沖田艦長的に)描く物語と、若者としての新主人公を描く物語の両輪で新たな物語をまとめることができていたなら、前提知識を必要としない、ファンの世代交代が可能な『ヤマト』として成り立ち得たと指摘しました。

ただしこの話はあくまで2年前の話です。現在連載中の『スターブレイザーズΛ』はまさに前提知識を必要としない『ヤマト』であり、「新ヤマト」の新たな境地を切り開いていると言えます。ただし、『Λ』が「『宇宙戦艦ヤマト』に興味を持っている人」の需要を満たし得る作品であるかどうかは(クオリティではなく、作風という意味で)疑問です。「吾嬬竜孝さんに興味を持っている人」「『スターブレイザーズΛ』に興味を持っている人」の需要を満たすレベルの高い作品であることには、もとより疑いはありませんよ。

次に、リアリティのある『ヤマト』は、『2199』をその好例として挙げました。『2199』はリアリティと(「『ヤマト』的」)エンタメ性のバランスへの配慮がなされており、未来の『ヤマト』作品の指標となるべき作品でしょう。むろん、リアリティがあるからこそレベルの高いエンタメになる、という側面も重要ですが、ここでは過度なリアリティがエンタメ性を阻害する可能性を想定し、論じたものでした。

三つ目の時代性を持つ『ヤマト』は、当時では『2202』を例として挙げました。ここでいう時代性とは「現在の日本社会に訴えよう」とする姿勢であり、それは『2199』ではさほど強調されず、『2202』ではかなり強調された部分であったと考えます。もちろん、いかなる作品も一定の時代性は持っていますし、あるいは時代性とは作り手の意図ではなく観客の受け止め方なのではないか……という見方もできますが、ここでは「作り手の姿勢」に絞って考えておきたいと思います。

さて、以上の三つの要素から、現在の『宇宙戦艦ヤマト』について見てみましょう。現在の『宇宙戦艦ヤマト』において『スターブレイザーズΛ』は非常に重要な作品ですが、それは別の機会に譲り、今回はアニメシリーズのみを見ていきます。

〇映画『ヤマトという時代』の状況

映画『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』(以下『ヤマトという時代』)は、実はこの三要素を満たす作品です。『ヤマトという時代』は、前提知識を必要とせず、リアリティ路線への転換が図られ、時代性を持っています。ただし、この三要素には、いくつかの留保があります。

まず、前提知識を必要としない点。これは、厳密に言えば誤りかもしれません。福井さんは認めていませんが、『ヤマトという時代』には、どうやら前提知識が必要であるらしいのです。

『ヤマトという時代』に必要な前提知識とは何か。それは『宇宙戦艦ヤマト』という作品に対する前提知識です。福井さんは、本作のターゲット層を(『2202』と同じ)「これまでリメイクシリーズに触れる機会がなかった、かつてのヤマトファン」に定めました*2。これは、『ヤマトという時代』を楽しむためには、旧『宇宙戦艦ヤマト』という存在を認知し、その内容をある程度把握していることが求められるということ。これは立派に、前提知識を必要としています。

さらにいえば、私は本作について、新規層を動員し得るものではないと考えています。『宇宙戦艦ヤマト』の新規層とはどんな人たちか。それは少なからず『宇宙戦艦ヤマト』というタイトルに期待を抱き、興味を持っている人たちです。それらの人々が求めるのは、一風変わった総集編ではなく、普通の『宇宙戦艦ヤマトでしょう。いわゆる「新規層」には、『ヤマトという時代』はほとんど響かないものと思われます。

次に、リアリティ路線への転換です。『2202』はリアリティを度外視する路線をとって批判を受けましたが、『ヤマトという時代』はリアリティを重視する路線をとっているようです*3。担当をしたのは玉盛さん、皆川さん、岡さん*4。ここに小倉さんも入ってくると思われます。課題としては、メカは玉盛さん、SFは小倉さん、『2199』との整合性は皆川さんや岡さんがやるとして、「社会」の考証は一体誰がやるのか、という点でしょう。『ヤマトという時代』の一つのキーワードに「世界」とありますが、本作はそれをどこまでリアリティをもって描けるのでしょうか。『2199』でさえも突き詰めていなかった部分でのリアリティが問われるわけで、ここは本作の重要な論点となるはずです。

最後に、時代性についてはあくまで福井晴敏の時代観に基づくという限界があります。『ヤマトという時代』も『2205』も福井晴敏の「苛酷な時代」観によって描かれるわけで、時代観はあくまで『2202』を引き継いだものになることが予想されますね。

〇映画『ヤマト2205』の状況

映画『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』は、『ヤマトという時代』に比べて明かされている情報が少ない現状があります。これまで幾度か中心スタッフが『2205』を語ってきましたが、いずれも「どう作るか」という部分でした。なので、今日はこの「どう作るか」という部分から、『2205』の状況を見てみましょう。

まず、前提知識ですが、『2199』シリーズの三作目である『2205』は論外です。どうあがいても、三作目には予備知識が必要だからです。『ヤマトという時代』の出来如何によってはこの課題のハードルを下げることも可能ですが、『ヤマトという時代』には前述の限界があり、『2205』も新規層の動員には苦戦することが予想されます。

次に、リアリティ路線への転換ですが、小倉さんは『2205』に向けて、「SFファンを満足させるアイデアを考えています」と語っています*5。『ヤマトという時代』の路線と合わせて、『2205』は『2202』と異なる路線をとっていることが窺えるものです。しかし、前述の『ヤマトという時代』とも通じますが、ミリタリー面や社会システム面のリアリティをどう確保していくのかは重要な課題になってきます。

最後に時代性ですが、福井さんはリメイクに向かう一般的な姿勢として、旧作が描こうとした「本質」を現代に「アップデート」しなければならない*6、と述べています。この方針が『2205』にも適用されていることは間違いありません。しかし、今回福井さんが語った言葉は、『2202』の時と比べてややトーンダウンしています。福井さんは「復権」を語ってはいないのです。その背景はいくつか考えられますが、旧『新たなる旅立ち』、そして『2202』路線の限界が見えてきていることが、この要因だと思われます。

〇おわりに

アニメシリーズは現在、事実上『2199』シリーズのみとなりました。

この『2199』シリーズは三作目ということもあって、新規層の動員には作り手もあまり期待をかけていないと思われます。

新『新たなる旅立ち』に新規層動員路線を期待していた私にとって、現在の潮流は必ずしも望んだものではありません。しかし、新規層の動員を狙う前に、まずはきちんとヤマトファンを動員しなければならない(『2202』はそれができていなかった)、という方向性だとすれば、納得できます。

前提知識を必要としない作品が作り難い──新規層の動員が難しい──にしても、リアリティのある、現代社会に訴えかけるエネルギーを持った作品を作り続けることが、これからの『宇宙戦艦ヤマト』には欠かせないのではないでしょうか。

*1:シン・ゴジラになり得るヤマトを作るには その1 - ymtetcのブログ

シン・ゴジラになり得るヤマトを作るには その2 - ymtetcのブログ

*2:『STAR BLAZERS ヤマトマガジン 9号』(株式会社ヤマトクルー、2020年11月)9頁。

*3:前掲『STAR BLAZERS ヤマトマガジン 9号』10頁。

*4:同上、23頁。

*5:『STAR BLAZERS ヤマトマガジン 7号』(株式会社ヤマトクルー、2020年5月)17頁。

*6:前掲『STAR BLAZERS ヤマトマガジン 9号』13頁。