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偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

あの炎上事件は何だったのか:UVERworld ×『宇宙戦艦ヤマト』

こんにちは。ymtetcです。

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前回の記事では、UVERworldと『宇宙戦艦ヤマト』のコラボレーションが炎上した原因を「ファン」「楽曲」「映像」の3つにわけて考えてみました。

今日は、この炎上事件がどのような意味を持つのか、について考えていきます。

〇人気アーティストの”新曲”をヤマトファンが叩いてしまう

まずは、結果としての「炎上」に注目しましょう。

当時の『ヤマト』ファンの一部がこの楽曲を批判してしまった理由は前回の記事で考えました。ヤマトファンが批判したのもやむを得ないと言えます。ただ、UVERworldという当時人気の、しかも「若い世代」に一定の人気があったアーティストの”新曲”を、特にそのアーティストのファンでもない人たちが批判してしまったことは事実です。

『2199』第16話が放映されたあの日、どれだけのUVERファンが、テレビから流れる”新曲”を待っていたのか。そして、直後に起きた炎上劇に、不幸にも接してしまったUVERファンはどれだけいたのか。彼らはどれほど傷ついただろうか。この出来事が、『2199』の目指していた「世代交代」から逆行する結果になったことは間違いありません。

〇作品に誠実とは言えないタイアップ

と書くと、ヤマトファンを批判しているようにも見えてしまいますが、この出来事の根本的な原因は「一部のヤマトファンが怒ったこと」ではありません。

最も大きな原因は、結局のところ楽曲サイドにあると考えます。だからといって、UVERworldが批判されるべきかと言われれば、そうでもありません。

前回の記事でも考えたように、この楽曲が『2199』の世界観と乖離する結果となった要因である「『番組側』による曖昧なリクエスト」こそ、批判されるべきでしょう。

———『番組側のスタッフから何か注文はありましたか?
TAKUYA∞ 特になかったですね。戦いのシーンがあるので、というくらいです。

ここでいう「番組側」が『ヤマト2199』サイドを指すのか、はたまた作品とアーティストの懸け橋となったレコード会社の『2199』担当を指すのかは不明です。

ただ、似たような出来事が『2199』の前番組である『マギ』でも起こっていたようです。少し長い引用ですが、『2199』を思いながら読んでみてください。

タイアップのオファーを受けた際、アニメ制作サイドから「ちょっとアップテンポで、スリリングな曲調のものを」というリクエストがあった

(略)

曲に対し、歌詞のほうは難産であったという。(略)完成形に「全然合ってない」「違うな」と感じ、スタッフと相談して「もう一度トライしてみるか?」と声をかけられたことから、再挑戦することにしたという。そこから『マギ』の世界観に近づけてゆくため、原作漫画『マギ』の電子書籍版をiPhoneで数巻を読み、『マギ』の世界観に気持ちを寄り添うようにしたまっとうな書き方で、一方で対象を特定しない感じで、歌詞を全て書き直したと述べている。(略)そうして書き直した歌詞について、「最初のは全然ダメだったから、原作をしっかり読みこんで寄り添えた」

(略)

オファーを受けた際、スタッフを通じて『マギ』の内容は聞いてはいたもの、曰く、「拙い説明で、設定が独特なのか、よく分からなかった」とのこと

瞬く星の下で - Wikipedia

Wikipediaとはいえ、様々な資料を参照しての丁寧な記述だと思います。ここで語られているのは、オファーを受けた際のスタッフの説明が分かりにくかったこと、アニメ制作サイドからのリクエストは「スリリングな曲調」だったこと、新藤さんは敢えて作品の世界観を意識せずに楽曲を作ったが、全然合わなかったので原作を読んで書き直したこと。

あくまでアーティストの主観によるものですが、ここでも、スタッフ側から歌詞に関する適切なサポートは事前になされていなかったことが分かります。「主題歌」としての完成をみたのは、アーティストが個人的に原作を読み、修正した結果のようです。

〇炎上事件は当然の結果

スタッフからの適切なサポートがなされず、アーティストの個人的な「誠意」に主題歌作りが委ねられているとしたら、当時の日5枠における主題歌制作の現場には、常に「炎上」のリスクがつきまとっていたと言えます。あの炎上事件は、作品に対してあまり誠実とは言えない主題歌作りを繰り返してきた、当然の結果と言えます。

ただ、自己反省するのであれば、当時の『宇宙戦艦ヤマト』に「作品に寄り添った主題歌を本気で作ろう」と思わせるだけの価値がなかった、と見ることもできます。『宇宙戦艦ヤマト』にUVERworldのメンバーを惹きつけるだけの魅力があれば、制作側の曖昧なサポートを乗り越えて、彼らが個人的な誠意でもって「主題歌」を作り上げてくれたかもしれません。その点は、『ヤマト』側としても反省すべきかもしれません。

とはいえ、テレビ版『2199』のような、作品に寄り添わないオープニングとエンディングを設定するようなアニメ作品は、やはり増えて欲しくないのがファンとしての本音です。あれから10年たち、おおむね作品に寄り添った主題歌を持つ作品が大半を占めてきているような気もしていますが、実際はどうでしょうか。

前回の記事でも紹介しましたが、アニメ『SPY×FAMILY』の主題歌「ミックスナッツ」(Official髭男dism)は、登場人物の好物・ピーナッツを集団に馴染めない心情、ひいては地下に潜伏するスパイの比喩として引用しつつ、作品の軸の一つである「偽装家族」を普遍的な心情に引き寄せながら描いており、著名アーティストとアニメ主題歌のコラボレーションとしては近年の傑作のひとつだと思いますね。


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それにしても、UVERworldのチャンネル内でも1000万回再生を超えている動画は珍しい。この素晴らしい楽曲が『ヤマト』の主題歌として機能していたら……と、思わないではいられません。