ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【ヤマト2202】「シナリオ」を読む──第二話

こんにちは。ymtetcです。

4月に始めた「二日に一回更新」ですが、今のところ、継続しやすさを感じています。しばらくはこのまま続けていきたいと思います。某ウイルスの対策方針ではありませんが、継続しにくくなったら頻度を落とす、継続できそうなら頻度を増やす、という形で調整をしながら、持続可能なやり方を探っていくつもりです。

さて、偶然ですが、4月と5月は、4月が30日までしかなかった関係で、偶数日更新となりました。一方で6月は、このままいくと奇数日更新となってしまいます。

そこでとりあえず、6月からは偶数日更新でやってみることにします。偶数日にここに来れば何かしらが更新されているだろう、そう思っていただけることを目指して更新していきたいと思います。よろしくお願いします。

今日は「シナリオを読む」第二話です。

一話ずつ『2202』を振り返っていくシリーズは、今までも何度かチャレンジしました。が、続いた記憶はありません。なので、シリーズ化する予定は今の所ない、としておきます(笑)。結果的にシリーズになれば嬉しいのですが……。

 

さて、第二話では「敬礼」問題を取り上げます。

ただ、今日は 考察 ではありません。

というのも、『2202』の敬礼については、私が勝手に尊敬している『宇宙戦艦ヤマト』ブロガーの先輩方のひとりである山城2199様のブログ「ヤマトな日々」において、素晴らしい考察があります(勝手にリンクを貼ってすみません)。

ヤマト式敬礼に関する疑問 - ヤマトな日々

ヤマト式敬礼に関する考察 - ヤマトな日々

私としては、特に”挙手敬礼=最敬礼説”が興味深いものだと思いました(完結編ラストで、古代と雪が沖田に挙手敬礼を送ったことと整合性が取れますもの)。

この考察を踏まえても、やはり、リメイクシリーズの「ヤマト式敬礼」に関しては、

  • 地球連邦防衛軍に再編され、敬礼の方式が変更された

という解釈が現実的だろうと思います。

さらに、

  • 着帽時は挙手敬礼で、脱帽時は胸に手を当てる敬礼

という設定も加えてあげると、旧作シリーズでの敬礼の使い分けを補完できる、といったところです。

 

ですが、上述の考察で整理されているように、『2202』の「ヤマト式敬礼」には二つの説があります。

今日はこれを、「脚本説」「監督説」と整理しておきます。

 

「脚本説」とは、『2202』で脚本を務めた福井晴敏・岡秀樹の連名で書かれているシナリオ版『宇宙戦艦ヤマト2202』に書かれている設定です。

全記録集の『シナリオ編』には、

審問終了。退出時に敬礼をする古代。挙手敬礼をしかけて、胸に手を当てる連邦軍式の敬礼に慌てて切り替える。

(「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第二話『緊迫・月面大使館に潜行せよ(仮)』第二稿」『シナリオ編』14頁。)

という形で、いわゆる「ヤマト式敬礼」は「連邦軍式の敬礼」であることが明記されています。

また『2202 総集編』の脚本を務める皆川ゆかさんが著した小説版『宇宙戦艦ヤマト2202』も、

佐渡の号令に、一同は敬礼した。挙手敬礼──かつての国連宇宙軍で用いられていた作法だ。

今は違う。

地球防衛軍では、胸に握った拳を掲げるものへと切り替えられていた。

皆川ゆか『小説 宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 1』角川書店、2017年、107頁。)

という形で、シナリオの設定と同じ解釈を提示しています。(※ただし、小説版は、本編であるアニメ版『2202』とは「設定などにおいて一部異なるところがあります」と位置付けているため、「ヤマト式敬礼」=「防衛軍式敬礼」は公式設定であるとは限りません)

これらの解釈を、「脚本説」とします。

 

もう一方の「監督説」は、当時副監督だった小林誠さんの証言に由来します。

小林さんはツイッターで、

よくみると2199敬礼を軍隊は使ってます。ヤマトクルーが使わなくなっているだけ。軍の指揮に従っているわけではない。ヤマトの独自の判断であるという印として、肩章を破り捨てるなど、いろいろ考えた末に監督が到達した答えです。

https://twitter.com/makomako713/status/884704577001447425

「軍の指揮に従わない意思を示す敬礼」として、監督羽原信義)が設定したと説明しています。そして、本編の描き方を見る限りでは、映像版『2202』は「監督説」で統一されていると思います。

ちなみに、小林さんの説明に登場した「肩章を破り捨てる」については、

〇第一艦橋

古代「たとえ、これまでのすべてを捨てても」

上着の肩章に肩をかける古代。

居合わせた全員が驚きとともに見る。

布が裂ける乾いた音がして、古代の肩章が床に捨てられる。

古代「迷いのあるものは退艦してほしい。去るも残るも、それぞれの自由だ」

(「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第四話『未知への発進!(仮)』第一稿」『シナリオ編』33頁。)

こういったシーンがシナリオにあります。

一般論ですが、肩章のあるキャラクターと肩章のないキャラクターが画面上に混在しているのは作画上、あまり都合がよくない。そのあたりを勘案して没になったのでしょう。

よって、代替案として「反乱の意思を示す」ものとしての「ヤマト式敬礼」、という設定が持ちだされたと推測します。これが「監督説」です。

 

ですが、この「監督説」には明確なデメリットがあります。

それは、「ヤマト式敬礼」が『2202』だけのものになる、という点です。

「『2202』でヤマト式敬礼が復活!」というと、一見すると(私のような)「ヤマト式敬礼ファン」にとっては前向きな話題にも見えます。ですが、その解釈として「脚本説」をとるのか、「監督説」をとるのかで、実態は大きく異なります。

考えてみてください。あくまで地球連邦防衛軍の敬礼は(国連宇宙軍を継承して)挙手敬礼で、「ヤマト式敬礼」は「反乱の意思を示す」ための敬礼だったとします。

すると、『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』で、ヤマトクルーはどんな敬礼をするのでしょうか?

『2205』の宇宙戦艦ヤマトが地球連邦防衛軍に所属するとすれば、『2205』のヤマトクルーは『2202』の「ヤマト式敬礼」ではなく、『2199』の挙手敬礼をするはずです。

つまり、「監督説」は『2202』による「ヤマト式敬礼」の独占を意味するのです。(故に、私は「脚本説」を支持しているわけです)

 

ですが、これをデメリットと感じるのは、私が「ヤマト式敬礼」の賛成派であるが故。ですから、『2199』の挙手敬礼に愛着のあるファンにとっては、実は「脚本説」にデメリットが、「監督説」にメリットがあります。

裏を返せば、「脚本説」は、「ヤマト式敬礼」をもって『2199』の挙手敬礼を消失させた、ということになるからです。

一方で「監督説」をとれば、先ほども説明したように、『2205』で『2199』の挙手敬礼を復活させることが可能です。

すなわち、「脚本説」か「監督説」かは、実は『リメイク・ヤマト』シリーズ全体の敬礼が『2199』(挙手敬礼)なのか『2202』(ヤマト式敬礼)なのか、ということを決める大きな問いでもあるのです(もちろん、設定のあやでいくらでも改変はできますが)。

まぁ、監督や副監督が実際に「リメイクシリーズの敬礼は『2199』(海上自衛隊)式の挙手敬礼だろ!」と考え、「ヤマト式敬礼」を『2202』だけの特例に位置付けることでシリーズに『2199』の挙手敬礼を残す……というのを意図的にやったのだとしたら、なかなかの策士ですけどね(笑)。私は意図的とは思いません。

 

さて、最後に今後のことを考えてみます。

『2202総集編』及び『2205』には、『2202』の脚本チームが残留し、監督・副監督はどちらも離脱することになりました。

この大きな流れからいくと、『総集編』を皮切りにして、『2202』の画面外設定たちは(敬礼に限らず)「脚本説」に統一されていくことが予想されますね*1。自分たちが次回作を作るわけですから、極力、自分たちの解釈で進めていく方が無難でしょう。

『2199』へのリスペクトが強い皆川さんや岡さんがいる分(さらに、小林さんの『2202』メカの作風が『2199』とかけ離れていた分)、どうしても脚本チームの肩を持ってしまいがちにはなりますが、先述の通り、「脚本説」にもデメリットがないわけではありません。むしろ敬礼だけでいけば、羽原さん小林さんの「監督説」の方が『2199』路線には修正しやすい……ということもあるわけです。

『2202』以来のリメイクシリーズは、スタッフの陣容としては、どんどん『2199』から離れていっています。それだけに、新作が『2199』という作品とどう接するか、は重要な論点になります。

その文脈でいくと、小説版で『2199』と『2202』のリンクを試みた皆川さんが、新たに『2202総集編』に加わるのは、これからのリメイクシリーズにとって興味深い動きです。

『2202総集編』そして『2205』が、『2199』とどんな距離感をとるか。

今後も注目していきたいポイントです。

ちなみに、『2202』小説版のマイナスレビューで「設定考証の名前が掲載されていない」という指摘がありますが、『2202』小説版には『2202』本編SF設定の小倉信也さんが、本編以上に関わっています。

というわけで、元旦からSF考証の小倉さんに小説版のためのご相談(^^;) 拡散波動砲の有効射程半径(距離じゃなくて、射角円錐の半径)が主な案件。

https://twitter.com/minakawayuka/status/1212291488685539328

などなど(from:minakawayuka 小倉 - Twitter Search)。なので、あくまで小倉さんの考証ベースではありますが、小説版の設定考証が、少なくとも 丁寧 になされていることは事実です。

*1:山南のレリーフはどこから来たのか、など『2202』には解釈の分かれている部分がいくつかあります。