ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

【新作ヤマトを作る】「現代の日本人に足りないもの」という視点

こんにちは。ymtetcです。

今日は、新しい『宇宙戦艦ヤマト』を作る時の考え方について、記事を書きたいと思います。手がかりとするのは、西崎プロデューサーの語る「『ヤマト』がヒットした理由」です。

宇宙戦艦ヤマト』をプロデュースした西崎義展さんは、「ヤマト10年の賦」にこんな言葉を寄せていました。

(略)私は『ヤマト』で、サイエンス・フィクションとしての趣向よりも、乗組んだ少年、少女たちのドラマを重視しました。

 彼らは、ひたむきに地球を愛し、親を愛し、師を愛し、友を愛します。すべて、いまの少年、少女が欠落させている心情です。だからこそ、『ヤマト』を観た少年、少女たちは、『ヤマト』に熱狂し、涙を流したのではないでしょうか。

(略)

 『ヤマト』のヒットのもうひとつの大きな要因は、音楽を中心とするサウンドとドラマの融合という映像性にあると思います。いまの若い世代は、8ビートや16ビートのリズムの中で育っています。ミュージカルドラマとしての『ヤマト』は、その彼らの感性にもっともフィットしたものでした。

(略)

この文章の中で、西崎さんは『ヤマト』ヒットの要因を二つに分けて分析しています。一つが、「いまの少年、少女が欠落させている心情を描いたこと」。もう一つが、「いまの若い世代の感性にもっともフィットした音楽をドラマと融合させたこと」です。

この二つの視点は、現代にも応用可能なのではないでしょうか。

例えば、完結済の『ヤマト』作品では最新作にあたる『2202』の企画書で、福井さんは『さらば』を分析してこう述べています。

(略)

 それは”愛”の対極にあって世界を統べる力の論理――弱肉強食、競争社会といった言葉に集約される抗いようのない論理が、”愛”というヒューマニズムの極致によって対消滅させられた瞬間でした。多くの若者がその光景に涙し、陶酔し、現実世界では決して叶えられない理想の勝利に熱狂しました。特攻賛美である、と眉をひそめる大人たちもいましたが、一面的な物の見方でしょう。あの対消滅の本意は愛国心の鼓舞などではなく、ヒューマニズムが過酷な現実を折伏するファンタジーを謳い上げることにあったのですから。

(略)我々が今一度”愛”をテーマに据える根本理由は、今という時代において、かつてヤマトが発信した”愛”の再定義と復権こそが急務であるという確信に他なりません。

(略)

 この、現代を支配する冷たい論理を敵に回し、ヤマトのクルーが心の底から「否」と叫ぶことができた時、本作はフィクションの域を超えて観客の胸に届き、初代ヤマトが発信したメッセージを現代に再生させられるものと信じます。

『2202』の企画書で福井さんは、『ヤマト』が若者を涙させた理由を「過酷な現実に理想が勝利するファンタジーを描いたから」だと語り、「過酷な現実に理想が勝利するファンタジー」を(「冷たい論理」が支配する)現代に再生させることこそが、『2202』のテーマであると述べていました。

こうしてみると、福井さんも、『ヤマト』は「現代の日本人に足りないもの」を描いた方がよいとの問題意識は持っていると思われます。

しかし、今日はそれをさらに一歩進めてみましょう。福井さんの『2202』は確かに「現代の日本人に足りないもの」という視点を持っていましたが、それはあくまでも”愛”をテーマにするという前提に囚われていたと言えます。

ですが、もし仮に西崎さんの分析が正しいのであれば、テーマは”愛”でなくてもいいのではないでしょうか。すなわち、テーマが”愛”でなかったとしても、「現代の日本人(少年、少女)に足りないもの」を『ヤマト』が描き出せたなら、『ヤマト』は再び、日本社会に暮らす人々の胸に響く作品となりうるはずなのです。

同じことが音楽にも言えます。西崎さんの分析によれば、『ヤマト』はその音楽が、若者の感性にフィットしたものであったからこそヒットした。であれば、現代の日本人にフィットする音楽ならば、宮川メロディでなくともヒットするのではないでしょうか。

現代の日本人に足りないものを物語のテーマとして描き、現代の日本人にフィットする音楽を融合させる。この二つの視点で新たな『宇宙戦艦ヤマト』を定義した時、そこにあるのは、旧来の『ヤマト』に囚われない全く新しい『新・宇宙戦艦ヤマトです。

もちろん、それだけでは『宇宙戦艦ヤマト』のタイトルを掲げる意味はありません。ですから、先ほどの二つの視点で再定義した『新・宇宙戦艦ヤマト』に、この作品が『宇宙戦艦ヤマト』である理由を添えてみてはどうでしょう。

つまり、順序を入れ替えるのです。

宇宙戦艦ヤマト』であることを前提にするのではなく、まずは日本社会にフィットする新しい物語を作り出す。こうして構想された、前例に囚われない「日本社会にフィットする新しい物語」に、『宇宙戦艦ヤマト』を融合させる。こういった実験的なアプローチの新作があっても面白いのではないでしょうか。保守的な『宇宙戦艦ヤマト』が私は好みですが、それだけに囚われない作品もあっていいと私は考えます。