ymtetcのブログ

偶数日に『宇宙戦艦ヤマト』を考えるブログです。

西崎さんと旧作ヤマトと、『アクエリアス・アルゴリズム』。

こんにちは。ymtetcです。

今日書く内容は、リアルタイムで観ていた世代の方々には常識かもしれません。

旧作シリーズは、作品ごとの繋がりが希薄な面が課題とされました。

続編に登場する新キャラクターは、在庫整理のように終盤で命を落としたり、生き延びても続編には登場しなかったり。古代守のような人気キャラクターでさえも、続編の序盤で退場させられる始末。このやり方に対するファンの批判は一定数あり、2021年の『アクエリアスアルゴリズム』は、旧作シリーズのリベンジとばかりに「かつての新キャラクター」のその後を描く場面を設けました。

ですが、このようなやり方をとった西崎さんにも、相応の意図があったものと思います。今日は、そのことについて考えていきます。

西崎さんには、シリーズのまとまりではなく作品のまとまりを重視することで、いつでも新規ファンの参加が可能な作品を提供する意図があったのではないでしょうか。

今日の話は、『アクエリアスアルゴリズム』を手掛けた高島雄哉さんと、岡秀樹さんの言葉にヒントを得ています。

映画館で『復活篇』を観たという『宇宙戦艦ヤマト黎明篇─アクエリアスアルゴリズム─』の作者、高島雄哉氏は、当時をこう振り返る。

「劇場版を含め、主にテレビの再放送でヤマトシリーズを観ていた世代なので、初めて映画館で見たヤマトだったと思いますが、『復活篇』は面白く観ることができました。最初のイスカンダル編しか観たことがない人や、初めてヤマトに触れる人でも楽しめるように作られている、という印象があります」(高島氏)

ウルトラマンゴジラのように歴史あるコンテンツを最初に手掛けた人に共通するんですが、彼らのようなイノベーターって《変える/変わる》ことを、まったく恐れないんですよ。監督を務めた西﨑義展さんは、常にヤマトの未来を考えていたから、ファンよりもずっと先に想いが進んでいたんじゃないでしょうか。『初めてヤマトに触れる人でも楽しめる』という高島さんの指摘は、まさにその証拠ですよね。西﨑義展さんの中では、『復活篇』以前の物語を過去のものとして切り捨てた上で、新たなヤマトの世界を構築したんだと思います。だから、過去に捉われない人のほうが、むしろ楽しめたのかもしれません」(岡氏)

『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇』発売記念インタビュー!“黎明編”に込められた熱い思いとは!? | 電撃ホビーウェブ

(太字は引用者)

ここで高島さんと岡さんが語っているのは、『復活篇』が「初めてヤマトに触れる人でも楽しめる」(高島さん)、さらに「過去に捉われない人のほうが、むしろ楽しめた」(岡さん)のではないか、ということ。

これは西崎さんの『復活篇』に対するアプローチを考える上で、重要な視点でしょう。

そこで私は、西崎さんは『完結編』以前にも同じようなアプローチをとっていたのではないかと考えました。

『復活篇』から遡ることおよそ27年前、西崎さんは『完結編』にこんな言葉を寄せていました。

10年前にヤマトを見た人にとって、今度はじめて見る人にとっても、この「完結編」は、青春の感動のメモリアルとなってやまないことでしょう。

(『完結編』パンフレット、太字は引用者。)

『完結編』は、ストーリー的には少なくともイスカンダル編、ガトランティス編、暗黒星団帝国編、太陽暴走編に続く第五番目の物語にあたります。それなのに西崎さんは、「はじめて見る人」にも言葉を寄せています。

たとえシリーズ作品であっても、常に新規層に門戸を開き続ける。それが西崎さんの基本姿勢だったのではないでしょうか。

 

ところで、『アクエリアスアルゴリズム』に対する批判意見の中に「二次創作」的であること、そして旧作シリーズで登場しなかったキャラクターたちを登場させなかったことには当時の作り手の意図や判断がある、それを安易に埋めてしまうことはいかがなものか、といった批判意見がありました。

西崎さんが作品ごとに、あたかもリセットするかのように新たな『宇宙戦艦ヤマト』を作り続けたことは、シリーズとしての連続性を担保しながら、同時に新たなファン層に門戸を開き続けるための仕掛けだったのかもしれません。それだけに、先ほどのアクエリアスアルゴリズム』に対する批判意見も的を得たものだろうと私は思います。

ただ、裏を返せば、『アクエリアスアルゴリズム』は誰も(公式で)敢えてやらなかったことをやったということです。だからこそ批判の声があり、私がそれを目にして、次第に議論が深まる。いかなる作品であれ、新作『ヤマト』には揺るがない価値が存在するんだ、との思いを強くしました。

これからの旧作シリーズがどこに進むのか。作品ごとにリセットをしてでも新規ファンに門戸を開き続けるのか、シリーズの連続性を担保して既存ファンの想いを拾い上げるのか。その両方を狙うのが理想ですが、やはりどちらかを重視しなければならないのも事実でしょう。

アクエリアスアルゴリズム』が既に後者のアプローチで世に問われたので、旧作シリーズの岐路はもう通り過ぎたものと思います。同作がどれほどの成績をあげているのかは分かりませんが、このまま進むのか、立ち止まるのか、はたまた岐路に立ち返って他のアプローチを探すのかが、これから問われていくことになるでしょうね。